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第4回読書会 ジェイムズ・ジョイス『ダブリナーズ』を読む

メンバー:岩本吉隆、外舘健人、澤井歩

 2023年8月4日に読書会を行いました。四回目ともなる今回の選書は外舘が担当し、ジェイムズ・ジョイスの短編集『ダブリナーズ』(Dubliners)から、「姉妹」(The Sisters)という短編を選びました。この短編集では20世紀初頭のアイルランドの首都ダブリンージョイスの生まれ故郷―に住む人々の閉塞感や苦悩が鮮明に描かれています。

「姉妹」(The Sisters)のあらすじ

この作品は語り手となる主人公の「ぼく」が病床に伏せているジェイムズ・フリン神父の家の近くまで彼の生死を確かめに行っているところから始まる。フリン神父は「中風」という病気である(*)。ある日のこと、「ぼく」はフリン神父が亡くなったということをコター老人から聞かされる。翌日、その事実をまだ信じられない「ぼく」は再度フリン神父の家の前に行くと、彼の死亡を知らせる張り紙が貼ってあることに気付く。その時は家に入らずあたりを物思いにふけりながら散策していた「ぼく」は、夕方になり、フリン神父の家の中へ入り彼の亡骸を目にする。そこで「ぼく」はフリン神父の姉妹から彼らの貧しい境遇とあるきっかけで神父が狂ってしまったこと、そして彼女たちの複雑な心境を知る。

(*) 脳血管障害(脳卒中)の後遺症(偏風)である半身不随、片麻痺、言語障害、手足の痺れや麻痺などを指す言葉。

「姉妹」(The Sisters)を読んでみて

外舘
 フリン神父と主人公の「ぼく」の関係性の複雑さが興味深かったです。「ぼく」はフリン神父と初めて会ったとき、彼の気味の悪さに不安を覚えます。しかし、「ぼく」は彼からラテン語や宗教的な儀式の意味を教えてもらうにつれ、彼のことを尊敬し仲を深めていきます。作中で、フリン神父の死を聞かされた「ぼく」は彼を疎むようなことを言うコター老人に対し怒りを抱き、さらには夢にまでフリン神父が現れます。けれども、フリン神父の死を知らせる張り紙を確認した後、悲しみではなくある種の解放感を覚えます。この二人の間の不思議な関係に強く引き込まれました。

岩本
 小説の進行は「ぼく」がフリン神父の弔問に行くというものですが、タイトルが「姉妹」(The Sisters)となっているところが不思議でした。フリン神父と「ぼく」の関係を表すタイトルとなっていてもおかしくないのにもかかわらず、実際には「姉妹」(The Sisters)というタイトルになっています。ここには、あくまでもフリン神父の死をきっかけとして「ぼく」が知ることになる神父と姉妹を取り巻く状況(彼らの貧しさや彼の狂気)がこの短編のテーマなのではないかと思いました。また、英語の原文ではthe rheumatic wheelsと表現されている部分は実は話し手の言い間違いで、最初に読んだときに意味が理解できず衝撃を受けました。そして現代では使われない言葉も使われていて、とても面白かったです。

澤井
 フリン神父の家で「ぼく」は姉妹の一人からクラッカーを勧められますがそれを断り、神父の亡骸を見るときには物音を立てないように部屋に入るなど、死んだフリン神父に気を使っている様子が興味深かったです。ただ、その一方で、姉妹は神父の生前の様子をぺらぺらと語り始めます。彼女たちはまるで死んでいる人に伝えるようにして神父が生前狂っていたことを語ります。この対比がとても面白かったです。また、こうした死者を弔ったあとのやりとりは文化圏ごとでどのような違いがあるのかということも気になりました。

以上、第4回読書会の内容をまとめてみました。ここでは取り上げなかった話題も多くありますが、今回はこの辺で。

 読書会はオンラインでも行えますので、興味があればご連絡ください。

参加費 500円
お問合せ https://iwamoto-studio.com

英語塾を開校し、授業の傍ら、英検や受験問題の分析や学習方法を研究しています。皆さまの学習に何か役に立つ事があれば幸いです。https://highgate-school.com/