鈴木さん

【Vol.6 グローバル人材インタビュー】インド駐在で見えた海外で働く為に必要な2つの要素。そして海外に挑戦したい人に贈る2つのメッセージ

鈴木健一郎
インド在住。大手オートバイメーカー勤務 ゼネラルマネージャー
入社後製造エンジニアリング業務従事。2017年よりインド現地法人に勤務。現在に至る


いつか来ると思っていた海外駐在。その行先はインド

よし
 まずは鈴木さんの業務経験を教えて下さい。特に海外勤務はご自身で希望されたのですか?

鈴木
 日本で勤務していた31歳から海外関連業務を開始しており、出張ベースでインドネシア、タイ、ベトナム、アセアン諸国、インド、パキスタン、アメリカ、イタリアなどで技術支援をしていました。

 自社の海外売上が9割あり、身近な人や同僚が代わる代わる駐在する中、自分も海外で働くことは会社人生の中で1回はあるだろうな、と自覚はしていました。日本から出張ベースで海外業務には携わっていたので、ある程度駐在する前に海外業務は慣れていたと思います。

 妻も日本で働いていたので、そのキャリアを考えて海外駐在は少し躊躇っていたのですが、自分が40歳になった際、妻の会社に休職制度(注:家族の海外赴任に帯同する場合、3年間の休職を認める制度)が出来たので、そのタイミングで海外駐在を希望しました。

よし
 そして赴任先がいきなりインドですか(笑)?

鈴木
 はい(笑)。インドは当時、伸びしろが大きく、会社の期待が大きかったので、やりがいは感じました。日本から出張ベースで技術支援もしていたので、それ程大きな驚きはなかったです。

よし
 40歳でインド駐在開始となるわけですが、現在のインドではどのような役割を担っているのでしょうか?

鈴木
 1つは現地の製造現場のゼネラルマネジャーとして技術支援のみではなく、製造に関わる全般業務を担っています。一方、それと並行して、インドでの構造改革プロジェクトの企画、計画と実行役を担いました。今年そのプロジェクトも滞りなく完了致しました。社外秘なので内容は控えさせて頂きますが、3年を要した大きなプロジェクトでした。

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期待値を上げすぎない。計画性より俊敏性がインド業務のデフォルト

よし
 私は東南アジアでの駐在経験が7年程経あるので、ある程度アジアで行う仕事の難しさは理解しているのですが、インドはまだ私にとって未知の領域なのです。インドで働くことの難しさなどを教えて頂けますか?

鈴木
 インドの生活や仕事環境は日本とは全く異なります。東南アジアでは、日本への尊敬も含め、まだ日本から文化や技術、それから仕事のやり方などを学ぼうという姿勢があるのではないでしょうか?よしさんが駐在しているタイは日本より日本ぽいところもありますよね。

 一方、インドは表現が難しいのですが独自の文化を備えており、日本の文化や技術、仕事のやり方に積極的に変えようという姿勢は東南アジアに比べると比較的薄いと思います。

 全てのインド人という訳ではありませんが、我々と一緒に製造現場で働いているインド人は、日本人の作るような精緻な計画づくりが苦手だと思います。苦手とすることをガミガミ言っても仕事が始まらず、アウトプットが出ないとお互い悲しいので、計画の稚拙さにはある程度目をつぶります。その代わり問題が発生したときのインド人の対処力は世界一です。毎日が驚きの連続です(笑)。

 よしさんも度々海外の苦労は現地社員とのコミュニケーションと言っていたと思いますが、インドは公用語の数が多い為、インド人同士でも異文化コミュニケーションが存在し、彼らの間でもミスコミュニケーションが頻発します。精緻な計画はインドでは用を為さないのかもしれません。

よし
 そんな状況下でどのようにコミュニケーションを改善しているのですか?

鈴木
 コミュニケーション以前に、まずは自分の期待値を上げすぎないように気を付けています。最初から100%伝わると思わず、50%でも伝わったら満足するようにしています。最初から70%伝わったら大満足です(笑)。勿論重要な仕事で、本当に100%やって欲しい案件はありますので、その時はコミュニケーションの量を惜しまず、200%伝える努力をしています。とにかく前倒し、誇張、確認作業の連続です(笑)。

よし
 なるほど。やはりコミュニケーションがインドで働く事の一つの苦労と認識しましたが、他に苦労したエピソードはありますか?

鈴木
 それが実はインドだから特別苦労している、という実感はありません。海外駐在前に日本で相当苦労して、数多く修羅場もくぐり、成長した自負があります。なので、その修羅場経験や、新卒で入社してから海外駐在までの17年間の業務経験も苦難の連続だったと感じていて、特にインドだから苦労しているという感覚はないのです。勿論、先ほどのコミュニケーションなど、海外特有の課題はありますが、それは自分の中で今のところ割り切って仕事出来ています。

 そして何といっても一緒に働くインド人スタッフ、駐在員仲間に恵まれました。とても良い人たちとチームが組めています。

 また、よしさんと同じく駐在をきっかけにグロービス経営大学院に入学し、オンラインで学んだことが業務で大いに役立ったと思います。インドではいわゆる、「ヒト、モノ、カネ」の課題が存在しましたが、グロービスでタイムリーにこの「ヒト、モノ、カネ」の科目を学ぶことが出来ました。私の場合、その学びをすぐに仕事で使う機会が沢山あり、学びと実践を繰り返して課題を解決して来たので、大きな仕事の困難もケーススタディであるかのように取り組めました。

よし
 なるほど。私がベトナムで駐在していた際に感じていた事と全く同じですね。グロービス様様ですね(笑)

2つの大きな魅力。「インドという国自身」と「経営に近い意思決定」

よし
 これまでは苦労話について着目して来ましたが、逆にインドで働く事の魅力は何でしょうか?

鈴木
  大きく2つの魅力があると思っています。一つが、インドという国自体です。現状自動車産業は間違いなく変革期に入っています。2輪車市場がアジアでも伸びない状況になっており、アジア現地生産ビジネスモデルの飽和感、CASEテクノロジー(*以下リンク参照)へのリソースシフト、好業績でもリストラを行わなければならない状態になりました。

 更に、環境影響も含め排ガス規制の関係で、エンジンを低コストで作るのも難しい状況になっており、EVが台頭する中、これまで自社のキー技術と言われたものが、徐々に変わって来ていることを実感しています。このような状況下でも、人口及び経済発展の観点で今後無視できない市場がやはり中国とインドです。活気のある所に英知が集まり、カネが集まり、新しい産業が興ります。そのような可能性のあるインドで働けているというのは、魅力の一つだと思っています。

 もう一つが個人の話になりますが、海外駐在員となり、インドでは1段も2段も高いポストと広い範囲の仕事ができています。経営に近い為、営業、財務、生産のさまざまな情報を手に入れることができます。そこにグロービスで学んだスキルを活かして課題や事件(笑)を解決していくのは痛快です。

 日本の本社もインドとのコミュニケーションの難しさを分かっており、インドの状況を一番よく理解している現地駐在員に任せてくれるので、裁量が大きいことも魅力です。責任はありますが、その分やりがいも感じています。逆にインド以外の国、例えばインドネシア拠点などは自社のビジネスの屋台骨なので、日本からの指示やすり合わせが多く、大変そうですね。

海外で働く為に必要な2つの要素。そして、「グローバル人材」とは?

よし
 さて、これまでは鈴木さんご自身のお話を伺って来ましたが、鈴木さんのこれまでの海外経験を通じて海外で働く為に必要な必要なスキル、マインド、その他備えておくべき要素は何だと思いますか?

鈴木
 まず大前提として「仕事がデキる」というのは必須です。語学や異文化コミュニケーション能力などもありますが、仕事がデキなければ海外で現地からの信頼も得られず、やっていけません。それが備わっているということを前提にして、敢えて2つ挙げるとすれば「志」と「健康」になります。

 志についてもう少し噛み砕いた言葉で説明すると、「自分が海外で何をしたいのかを答えられること」になります。

 あまりインドで苦労は感じていないと言いましたが、とは言え駐在生活は責任ある仕事も任され、時には過酷です。そのような状況が続くと、仕事に忙殺され、異文化環境に対応するのも精一杯となり、主体性を持てなくなってしまう時があります。ですので、自分が主体性を持って「こうしたい」と常に言えることが海外で働くのに特に大事だと感じます。

 健康についてですが、なんだかんだ言っても、元気があれば何でもできます(笑)。逆に元気がないと、どんな能力を備えていても何もできないです。ですので、肉体的な健康と精神的な健康を保つように意識しています。真剣に仕事に打ち込み、休暇の際は家族と一緒に海外旅行に行ったりしてリフレッシュをする。人それぞれと思いますが、健康を保つための工夫も各個人持っておくべきだと思います。

よし
 さて、昨今「グローバル人材」という言葉もキーワードとして出てくる機会が多いと思いますが、鈴木さんにとって「グローバル人材」とはどのような人を指しますか?

鈴木
 先ほど旅行の話もしましたが、まずは自分自身が旅行などで実際に外に出て「世界を知ることができる人」だと思います。自ら世界に向かってフットワーク良く動けない人は「グローバル人材」とは言えないと思います。但し、ただ世界に向かって動くだけではなく、各国の歴史をしっかり勉強して、その国、文化の背景とそのダイナミズムを知る事は非常に重要だと思っています。

 私の場合、具体的にはインド人の事を知りたかったので、インドの歴史を勉強したり、隣国や中国、それからヨーロッパの成り立ちなどを勉強したりしています。最近オリエンタルラジオの中田さんが、Youtubeで歴史の解説なども始めたので、その解説も見ながら楽しく学んだりしています。

 もう一つが、「物怖じしない人」だと思います。世界のどこに出ても、日本人でかたまらず、異文化の人との積極的なコミュニケーションを行い、語学力に頼ることなくコミュニケーションが出来る人。そしてその異文化の中で、適切に業務や自分自身をマネジメントする事が重要だと思います。
これらのようなことを実践できる人が「グローバル人材」と言えるのではないでしょうか。

よし
 最後に、今後海外に挑戦したいと思っている人に対して、何かアドバイスするとすれば、それは何ですか?

鈴木
 2つお伝えしたいと思います。

彼を知り己を知れば、百戦してあやうからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らずして己を知らざれば、戦う毎に必ずあやうし

 これを抽象度を上げて考えると、自分の成り立ち、自分の今の会社がどう成り立って来たのかが分かっていないと、相手の成り立ちも分かりません。日本の良さも分かっていないと、インドの良さも分からず、適合しようと思ってもうまく適合しません。

 日本人とインド人が同じ方向を向けるよう、まずは自分を知り、相手を知る努力が必要と思います。

グローバル化は海外だけのものではない

 日本の労働人口の減少やIT人財の不足の対策として、弊社本社でも近頃外国人採用が増えてきています。海外だけではなく、日本の中においてもグローバル化を意識せざるを得ない状況になりつつあります。

 TOEICが社内の昇格条件になってきているように、英語でのコミュニケーションも避けて通れない状況になりつつあると思います。将来は優秀なアジアの人材と“日本で”勝負しなければならない状況になりえるので、「グローバル化は海外だけのものではない」という事を認識することが重要だと思います。


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