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「Bar 通い」をはじめた頃

別にカクテルの専門家になろうと思ったわけではないけれど、若かりし頃、いわゆる「Bar 通い」したことがある。 以下はその頃の話である。

札幌で暮らしていた頃の話なので、ボクがまだ30歳前後のころである。
大学時代の友人の1人が仕事の関係で頻繁に札幌に来ている時期があった。 どのくらいの期間だっただろうか? 多分1年近くの間、月に1~2回は札幌に来ていたのでは無いかと思う。
ボクに限ったことではないと思うが、昔の友人に再会するとやはり「酒」でも呑みながら昔話に花を咲かせるというのが定番。 しかも札幌には「ススキノ」という歓楽街があるので、やはり呑まない手は無い訳で、ボクたちも例にもれず頻繁に「ススキノ」に通うこととなった。

その友人もボク自身も当時は30歳前後だったので、学生時代のように「居酒屋」でがっつり呑むという、いわゆるコンパ的な呑みのスタイルから脱却し、「大人」の呑み方に方向転換したいねという事になった。 ただ、だからと言って「ススキノ」にあまたある いわゆる「キャバクラやスナック(つまり給仕をしてくれるおねぇちゃんがいるお店)」や風俗っぽい所はお互い趣味では無かったので、やはり硬派に Bar で呑もうと言うことで意見が一致した。しかし、だからと言って「一見さん」で Bar に飛び込めるほど我々も「飲み屋慣れ」しているわけではないので、札幌在住のボクが情報誌やタウン誌(当時、まだネット検索なんてメジャーじゃなかったので)などで情報収集し、次回の友人の来札までに方針を決めることとなった。

ご存じの方はご存じだと思うが「ススキノ」と言えばかなり大きな歓楽街である。 なので、一言で「Bar」と言っても相当の数のお店があるし、看板に「Bar」と名のっていても、その実 スナックみたいな所もおあれば風俗店風の所もある。

で、色々と調べたところ、「野口」と言う Bar を発見した。
タウン誌にはこんなような事が書いてあったと思う・・・。

「無口なバーテンダーの野口さんがクラシックなカクテルを飲ませてくれる。 基本的には食べ物は無く、カウンターの上には常連だけが注文できるのであろう 軽いスナックがあるだけ・・・・」

友人の来札を待って早々この「Bar 野口」に出かけてみることになった。
とりあえず、1軒目はいつも行く居酒屋さんで軽く食事をとりながら一杯やったあと、お目当ての「Bar 野口」に足を運んだものの、何分にも初めての「Bar」なので、友人もボクも若干尻込みしながらお店の扉を開けた。

こじんまりとした店内はカウンター席だけ。カウンターの向こうには沢山のお酒のボトルが並び、その前では初老のマスターがグラスを磨いていた。

我々は緊張した面もちのまま とりあえず椅子に腰掛けた。

そこに・・・
「何にします?」 と当たり前だがマスターが問いかける。

そうは言われても我々の頭には「カクテル」の名前なんて浮かんでくる訳が無い。 困り果てた友人が・・・

「何かお勧めのカクテルを・・・」

確かに無難な注文の仕方ではあったが マスターの容赦のない言葉が返って来た。

「うちはそう言うのやってないだよね?」

困り果てた我々の目の前に、いくつか見たことのあるボトルが・・・
その中にバーボンの「Wild Turchy」を発見した友人は

友人:「じゃぁ,Turcky を・・・」
店主:「飲み方はどうします?」
友人:「ロ,ロ,ロックで・・・・」
店主:「そちらは・・?」
ボク:「あっ,同じ物を・・・」

 しばし 沈黙・・・・・

ほかにはお客さんは無く、なんだか気まずい雰囲気が漂っていたその時、友人が追い打ちをかけるように・・・

「そこの おつまみを・・・『柿の種』いただけますか?」

などと おつまみを注文してしまった。
上にも書いたが、ボクが調査した情報誌には「カウンターの上には常連だけが注文できるのであろう軽いスナックがあるだけ・・・・」と書かれていたのだが、そのことを友人には伝えそびれていたので、なんの躊躇もなく彼はおつまみを発注してしまった。 小心者のボクは、一見さんで入店したボクたち「Bar 素人」がそんなの注文して大丈夫なのか・・・と 「ドキドキ」しながらカウンタの椅子に腰掛けていたのを覚えてる(結局、「柿の種」は普通に出してもらえたのだが ← 今、思えば当たり前の話ではある。)。

こんな感じがボクたちの「Bar」の初体験話である。
その後、こりもせず何度も何度もこの店に通っている内に、愛想のなかったマスターも話しかけてくれるようになり、カクテルやお酒の種類も解るようになり 「Bar 通い」が楽しくなった。

また「Bar 通い」に加えて「常連の店を持つ」楽しさも 同時に感じるようになり・・・
「マスター、お久しぶりです。」
なんて 言いながらお店に入る自分が なんだか「大人」になった気がして、何となくうれしかったのを覚えている。
最初は古い友人とゆっくりと話をするために始めた「Bar 通い」だったけれど、そのうち独りでもお店に行くようになり、独りの時は、たまたま隣に座ったお客さんと世間話をしたり、独りの時はマスターからお酒に関する「蘊蓄(うんちく)」を教えてもらえたりと、「Bar 通い」のおかげで お酒を飲みながらゆったりと時間を過ごす「術(すべ)」を身につけられたような気がしている。

「Bar 通い」が楽しくなると、カクテルやお酒の種類に興味を持つようになり、自宅にはある程度の種類のお酒を買いそろえ、簡単なカクテルなら自分で作れるようにもなった。 それと同時に、お酒やカクテルに関する「蘊蓄」もそれなりに語れるようになり、ますます「Bar 通い」が楽しくなっていったのである。

最初にも書いたけれど、ボクたちは硬派である。
なので、別に女の子にもてたいから「Bar 通い」を始めた訳ではないし、女の子にもてたいからカクテルの蘊蓄を勉強した訳ではない。 ただ、いい歳をした男なら、いつ何時 女の子を伴って呑みに出かけるような状況に出くわさないとも限らない。そんなときには、この「Bar 通い」でやしなった経験と蘊蓄が役に立つだろうと思っていたことは事実である。

だけど「Bar 通い」が板に付き、カクテルの蘊蓄が身に付いたときには、女の子に相手にされない「おじさん」になってしまっていた。
いや、別に女の子にもてたいから「Bar 通い」を始めた訳ではない。
だからどうでも良いことなのだが・・・

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