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雑談の小径007

007
トラウマの絵

子供の頃に見て、その恐ろしさにずっと覚えている絵がある人はたくさんいると思う。
そんな怖い絵の代表格、ゴヤの「我が子を食らうサトゥルヌス」なんかは、マジで厨二の頃に見ているので、別段気にも留まらなかった。意味を知ると怖くなるタイプの絵画なんかも特に引っ掛からなかった。目へのインパクトが少ないからだ。
大人になって、怖い絵をまとめた本が流行った頃に嫌な感じの絵がネットを賑わせたが、まあそれも大人になってから見ているので、気持ちが悪くてもそれが脳に留まるのはほんの一瞬だ。

私のそれは、小学生向けの雑誌に載っていた。未来への希望や知らない世界への興味が描かれる中で、「もしもの世界」的なシリーズがあった。
当時はまだ挿絵は劇画が多く、もしも〇〇だったらという現状では有り得ない状況が、今思うに赤と黒の2色刷りで細密に描かれていたと思う。
ここまで書くと、思い出す人はいるかもしれない、あーそれあれでしょ?もしも引力がなくなったらってやつでしょ?有名だよね、と。

惜しい。とても惜しい。私のそれは、「もし風速60メートルの風が吹いたら」なのだ。
台風が来て、強い風に足を掬われてひっくり返りそうになりながら空に飛ばされる少年(?)の恐怖の顔、傘がひっくり返って一緒に飛んでいく人、そんな絵だった。それ、引力がなくなったらってのと一緒じゃん? とか言わないの。当時はこういうのが流行ってて、ネタを探すのも大変だったんじゃないかなw
子供だから、普段の風速がどのくらいなのか、台風が来たらどのくらいなのかはさっぱり分からなかったが、風速60メートルだとこんな恐ろしい事になってしまうんだ、と思った。それ以来、強い風が吹くと、何となく60という数字が思い浮かぶようになってしまった。

もちろん今は怖いという気持ちはもうない。台風の時期にたまにふとその絵を思い出すだけだ。
先日、強い風が吹く日が続いたが、天気予報で「人が立っていられなくなるのが大体風速20メートルで〜」なんて言っているのが耳に入って、久しぶりにその絵を思い出した。
なんと。たった風速20メートルで人が転んでしまうのか。じゃあ本当に風速60メートル吹いちゃったらどうなってしまうのか。

ちなみに、天気予報でいうところの「風速○○メートル」とは、10分間の平均風速を示しているんだそうで、一般的に瞬間風速は平均風速の1.5〜2倍。今のところ、日本の最大瞬間風速の観測史上一位は令和元年の東日本台風の時の43.8メートルなんだそうで、何軒か家屋が倒壊したそうな。温暖化の影響なのか、年々台風の威力が増しているとか。

いつか風速60メートルの世界が来てしまうのだろうか、あの頃読んでワクワクした空飛ぶ車が実現に近くなったように。
子供の頃に読んだ希望も絶望も、同じように起こり得るものだったとは。

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