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214.日本のメディアはこれまでLGBTのことをきちんと扱ってきましたか?

LGBT+の中でも特に多いゲイについて主にお話させていただきます。私の個人的な意見ですが、日本のメディアはゲイのことをきちんと伝えてきたとは言えません。どちらかと言えば、とんねるずの石橋貴明さんが扮した「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」のように、「気色悪い存在」「気持ち悪い男」として笑いの対象になることはあっても、そしてトランスジェンダーを「ミスターレディ」などと称して取り上げることはあっても、それは「一般の人たちの知らない特異な存在」として取り上げることが多かったように思います。そこにはゲイやトランスジェンダーに対する「人権」の意識は全く感じられず、ただひたすらに「視聴者のウケを狙う、それによって視聴率を稼ぐ」というような構図しか見られなかったように思われます。(注1)

一方で、ドラマなどではゲイといえば「女っぽい人」「オネエ言葉を使う人」として描かれ続けてきました。なぜなのでしょうか。一連の記事の中で私は繰り返し LGBTと一口に言っても多種多様な人がいると書いてきました。ゲイの中にはオネエ言葉を使う人も、女っぽい方もいらっしゃいます。それは間違いありませんが、ゲイがみんなそうであるとは言えないのです。実際にそうではないのですから。あくまでも異性愛男性とは異なった点をことさら針小棒大に扱って「ゲイ=女っぽい=オネエ言葉を使う」「ゲイ=気持ち悪い」というイメージばかりがメディアに溢れていました。

日本中にLGBTはいますし、ゲイもいる。しかし、親や友人が「ゲイ=オカマは気持ち悪い」と言うのを聞いたら、自分がゲイであることをカミングアウトできない状況に追い込まれてしまいます。「自分はこの社会では受け入れられないんだ」「自分がゲイだと知られたら笑い物になってしまう」「知られたらもう生きていけない」10代の多感な時期を昭和〜平成に過ごした世代のゲイたちは(一部の人は勇気を持ってオープンにしていた人もいますが)「隠さなければならない」と言う思いを抱いて成長してきたのではないでしょうか。そしてそれは今でも続いているのです。

まだ世間の認知度も低かった「性同一性障害」を扱ったのが2001年に放送された「3年B組金八先生」の第6シリーズでした。上戸彩さん演じる鶴本直が自分の心の性(性自認)と体の性のギャップに苦しむ姿は視聴者にトランスジェンダーの抱える苦しみをわかってもらう一助になったに違いありません。近年では「おっさんずラブ」や「きのう何食べた?」でゲイが扱われていました。前者はコミカルな内容で視聴者の笑いを誘い、後者は(私の個人的な感想では)より現実のゲイの姿に近い描き方をしているとは思いましたが、西島秀俊さん演じる男性の方は「ゲイゲイしい」イメージは全くなかったのですが、内野聖陽さんが演じるキャラクターはやはりどことなく「女性っぽい」ところがある、というように描かれていました。

「ゲイ=オネエ」というイメージは消えないのでしょうか。メディアはこれからもそのイメージを再生産していくのでしょうか。昨年(2020年)、タレントの東野幸治さんが「アップデート」という言葉を使って今のお笑い界の問題点を指摘している記事を見つけました。以下、引用します:

 具体的には、「オネエキャラ」へのツッコミの仕方が変わった。お笑いの方程式を刷新しなければいけない状況に立たされたと語る。<昔だったら『オッサンがなに言うてんねん』とか『オッサンがなにしてんねん』とか、『オッサン』という言葉を使っていたらだいたいオチてたんですけど、いまはそのワードは言ってはいけません>なぜなら、「オネエキャラ」に対して「オッサン」という言葉を使って笑いが成立するのは、同じ立場に立っているはるな愛のようなタレントだけだから、だ。ものまねタレントのりんごちゃんがブレイクしたときも、東野は対応に悩んだそうだ。しかし、上の世代を代表するお笑い怪獣は違った。<さんまさんだけです。(りんごちゃんに)『オッサンやないか』って言ったの。さんまさんもアップデートしなければいけないと思うんですけど> 明石家さんまは、2019年8月20日放送の『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)で、りんごちゃんに対して<りんごちゃんなんかは男やろ?>と詰め寄った。微妙な空気を察知して<りんごちゃんはね、そういうのないの、性別がないの>とフォローするヒロミの言葉も虚しく、さんまは<おっさんやないか、アホ、お前>と畳み掛けたのだ。(太文字は原文ママ)

明石家さんまさんの頭の中はまだ昭和。そこで時間が止まってしまっている。オネエキャラは「いじってなんぼ」のものであり、お笑いのいい「ネタ」でしかない。その意識を変えなければならない、時代はもうそういう時代ではないと東野さんはおっしゃっています。番組を作る側の意識が変わらなければ、LGBTのことはいつまでも「笑いの対象」でしかなく、「気持ち悪い人たち」として描かれていくのでしょう。そういう時代が早く終わって欲しいと願ってやみません。


注1:2017年9月、フジテレビが放送したバラエティ番組、「とんねるずのみなさんのおかげでした」の30周年記念特番で「保毛尾田保毛男」が復活しました。しかし、すぐにそれに対し抗議の声が上がり、フジテレビ社長が謝罪を表明することとなりました。

参考資料

ビジネス+IT 「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)は何が問題なのか、専門家が時系列にまとめて解説」 (2017.10.20)

WEZZY 「東野幸治「アップデートするべき」明石家さんまの問題点を指摘、時代の終わりを語る」(2020.5.15)

画像:Photo by Erik Mclean on Unsplash