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142.LGBTであることが職場でバレてしまった場合、それだけでクビになりますか?

はい、そういうケースがあります。2020年10月の松岡宗嗣さんの記事から引用します:

LGBTの当事者や、その知人や友人などLGBTを身近に感じている人のうち、職場でLGBTであることを理由に解雇、左遷や退職に追い込まれるといった「差別的な取り扱い」を見聞きしたことがある人は、約4割にのぼる。

SOGIに関するハラスメントはいけない、そういうハラスメントを防止するために中小企業も2022年からきちんと取り組まなければならない、という話を前回の記事で書きました。LGBTであることを理由に「解雇」されるというのはハラスメントどころではありません。実際に職を失うということになります。さて、このような「解雇」はLGBTに対する差別的な扱いにならないのでしょうか。

三成美保(編著)『LGBTIの雇用と労働』の第4章「LGBTが職場で直面している困難の法的解決に向けて」の執筆者である弁護士の永野靖先生は、厚労省の見解を引用しています:

厚生労働省も「『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針の一部を改正する告示案』に対する主な御意見と御意見に対する当省の考え方」において、「LGBTであることを理由とした解雇等は、客観的に合理的な理由を欠き、労働関係法令上問題となるものと考えています」と述べています。(同書p.167)

裁判で争えば、解雇を無効とする判決を勝ち取ることができるかもしれません。しかし、裁判で争うとなると費用も時間もかかりますし、何よりも職場の人全員に自分がLGBTであることが知れ渡ってしまう。それによって何か別の不利益を被るかもしれないとして、現実には、それが起こっている。最初に引用したように、当事者や周りの人を含め約40%の人が差別的取り扱いを受けているのを見聞きしたことがあるというのです。これは当事者が泣き寝入りをせざるをえない状況にあるということでしょう。厚労省の「見解」は何ら法的な拘束力があるわけではありません。LGBTを差別しても誰も罰せられない、逆に言えば現在の日本ではLGBTは差別されても何も言えない立場にあるのです。雇用主側はおそらく「LGBTだからクビ」ということは一言も言わないかもしれませんが、当人の勤務評定を厳しくし、昇給・昇任・ボーナスに他の社員との差を付けて(自主)退職に追いやることは十分に考えられます。

海外では80以上の国でLGBTに関する差別を禁止する法律が整備されていて、G7でこうした法整備がされていないのは日本だけだと先に引用した松岡さんの記事で述べられています。(注1)そこで、LGBT関連団体の全国組織「LGBT法連合会」、国際人権NGOの「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」、スポーツとLGBTに関する活動を展開する「アスリート・アライ」の3団体が日本で「LGBT平等法」の制定を求める国際署名キャンペーンを開始した、というのが松岡さんの記事の主眼でした。法的にLGBTは守られていない!解雇されても泣き寝入り!?こんな状況でLGBTであることをオープンにして安心して仕事ができるでしょうか。

#EqualityActJapanでは上述の3団体を中心に「日本にもLGBT平等法を」と呼びかけています。現在、HPにて賛同者の署名活動を行っています。興味のある方はぜひご協力ください。よろしくお願いいたします。

(注1)アメリカで性的マイノリティであることを理由に解雇をするのは違法であるという連邦最高裁判所の判決が出たのは2020年の6月です。


参考資料

松岡宗嗣 「LGBT法律めぐる状況、日本はOECDワースト2位。「LGBT平等法」求める国際署名が開始」(2020.10.15)

永野靖 2019 「LGBTが職場で直面している困難の法的解決に向けて」三成美保(編著)『LGBTIの雇用と労働』晃洋書房 pp.145-174.

画像:Photo by Jonathan Rados on Unsplash