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楊尚眞教授の「同性愛と同性婚の真相を知る」のファクトチェック

昨日、YAHOO! JAPANニュースで自民党の議員連盟の会合で性的マイノリティに関する資料が配布されたとの記事があり、当事者の間で波紋が広がっています。

私は現時点ではその「配布資料」を持っていないのですが、資料を作成した弘前学院大学の楊尚眞教授が執筆された別の記事、「同性愛と同性婚の真相を知る」(神道政治連盟 機関紙「意」No.215、2021年10月1日発行, pp. 3-10)をダウンロードし、楊教授の論点が示されていたので、急ぎ記事を書いております。

本来なら全てファクトチェックをしたいところなのですが、まず1つ検証します。

楊教授の「同性愛と同性婚の真相を知る」の中には次の記述があります:

(前略)同性愛とは生得的なものではなく、自分を取り巻く環境によって影響され生じたものであり、世界には、回復セラピーや信仰的体験、あるいは、自然に同性愛から離脱することができた元同性愛者が多く存在しています。  (太字は引用者による)                    

(「同性愛と同性婚の真相を知る」p.4)

そして、その同性愛を誘発させる要因について様々な研究結果が挙げられているとして、第1にアーヴィン・ビーバー(Irving Bieber)の研究を取り上げています:

家族理論では、同性愛の母は、子どもと密接に結合した親密な母として子どもに対して過度に統制的であり、抑圧的な母が多く、同性愛者の父には、子どもと離れていたり、敵対的であったり、あるいは、子どもに対して拒否的である父が多いという研究結果があります。また子どもは幼少期には父を憎んだり恐れたりした経験を持つ者も多いと言われます。(I・ビーバーらの研究、一九六二年) 

(「同性愛と同性婚の真相を知る」p.5)

まず、なぜ環境要因によって同性愛になると主張するために60年前の研究結果を持ち出さねばならないのかという疑問が浮かびます。

ファクトチェック:このアーヴィン・ビーバー(Irving Bieber)の家族理論は現在でも研究者の間で支持されているのか。理論的価値があるとされているのか?


1991年8月28日の「ニューヨークタイム紙」にアーヴィン・ビーバー(Irving Bieber)の死亡記事がありました。以下、その記事(英語本文)と機械翻訳(に金城が少し手を加えたもの)を引用します:

Irving Bieber, 80, a Psychoanalyst Who Studied Homosexuality, Dies
By Steven Lee Myers, Aug. 28, 1991
Dr. Irving Bieber, a psychoanalyst and professor who headed a major study in 1962 on the origins of homosexuality, died yesterday at Lenox Hill Hospital in Manhattan. He was 80 years old and lived in Manhattan. He died of pulmonary complications, a friend of the family said. Dr. Bieber, a professor emeritus in the psychiatry department at New York Medical College in Valhalla, N.Y., taught psychoanalysis, wrote about it and conducted research into it for 60 years. But he was best known for his controversial view of homosexuality. He believed it was an illness that could be treated or prevented through psychotherapy -- a view that has since been discredited. Born in New York City, Dr. Bieber graduated from New York University Medical College in 1930. He worked at Yale Medical College and New York University before joining the New York Medical College in 1953. There, he helped devise a course in psychoanalysis that was the first of its kind. Importance of the Father In 1962 he headed a team of colleagues that published "Homosexuality: A Psychoanalytical Study of Male Homosexuals" (Basic Books), a nine-year study of 106 gay men. The study, the largest and most extensive on the origins of homosexuality at that time, held that disruptions in family relationships early in life contributed to a child's homosexual development. It concluded: "A constructive, supportive, warmly related father precludes the possibility of a homosexual son; he acts as a neutralizing, protective agent should the mother make seductive or close-binding attempts."Dr. Bieber's study helped bring candor to the discussion of homosexuality, but his view of it as deviant behavior was controversial even then and has since been disavowed. In 1973, the American Psychiatric Association removed homosexuality from its list of psychiatric disorders, but Dr. Bieber remained steadfast, telling an interviewer the same year that "a homosexual is a person whose heterosexual function is crippled, like the legs of a polio victim." 'Took a Lot of Abuse' Dr. Judd Marmor, who is a psychiatrist and professor at the University of California at Los Angeles and who was a classmate and colleague of Dr. Bieber's, said yesterday: "It was one of Dr. Bieber's characteristics that he found it very hard to admit his mistakes." I think he made only one major error -- his insistence that homosexuality was an illness," Dr. Marmor said, "and for that he took a lot of abuse in his later years, which I'm sure was very painful for him. But he never backed down."
Dr. Bieber is survived by his wife, Dr. Tony Bieber, a psychologist and psychoanalyst who collaborated on several of her husband's papers, and a sister, Roslind Byrnes, of New Rochelle, N.Y.

The New York Times Aug. 28, 1991

(上記記事の翻訳)精神分析医で、同性愛の成因に関する1962年の主要研究を指揮した教授のアーヴィン・ビーバー博士が昨日、マンハッタンのレノックス・ヒル病院で死去した。享年80歳。マンハッタン在住。家族の友人は 「肺の合併症で亡くなった」 と話している。ニューヨーク州バルハラにあるニューヨーク医科大学精神科の名誉教授であるビーバー博士は、精神分析学を教え、執筆し、60年間にわたってその研究を行った。しかし、彼は物議を醸す同性愛の見解で最もよく知られていた。彼はこの病気は精神療法で治療したり予防したりできると信じていたが、この考えは後に否定された。ニューヨーク市に生まれたビーバー博士は、1930年にニューヨーク大学医学部を卒業した。イェール医科大学とニューヨーク大学を経て、1953年にニューヨーク医科大学に入学。そこで彼は、精神分析学の最初のコースを設立するのに貢献した。1962年に彼は同僚のチームを率いて、106人の同性愛者男性を9年間調査し「同性愛:男性同性愛者の精神分析研究 」を出版した。当時、同性愛の起源に関する最大かつ最も広範な研究であるこの研究では、幼少期の家族関係の崩壊が子どもの同性愛の発達に寄与しているとされた。「建設的で、支持的で、温かい血縁関係にある父親は、同性愛の息子が生まれる可能性を排除している。 父親は母親が誘惑的な、または密接に結合しようとした場合に、中和、保護剤として作用する。」としている。ビーバー博士の研究は、同性愛の議論に率直さをもたらすのに役立ったが、それを逸脱した行動だとする彼の見解は当時でさえ議論を呼び、それ以来否定されている1973年、アメリカ精神医学会は精神疾患のリストから同性愛を削除したが、ビーバー博士は不動のままで、同じ年にインタビュアーに「同性愛者とは、ポリオの犠牲者の足のように異性愛の機能が不自由な人のことです。 」と述べた。ビーバー博士のクラスメートで同僚の精神科医でカリフォルニア大学ロサンゼルス校の教授であるジャッド・マーマー博士は昨日、次のように述べた。 「ビーバー博士が自分の間違いを認めるのが非常に難しいと感じたのは、彼の特徴の一つだった。「彼はたった一つの大きな誤りを犯しただけだと思います。同性愛は病気だと主張したことです」 とマーマー博士は言いました。 「そのために、彼は晩年に多くの虐待を受けました。それは彼にとって非常に苦痛だったに違いありません。しかし、彼は決して引き下がらなかった。
ビーバー博士は、彼の妻、彼女の夫の論文のいくつかに共同で取り組んだ心理学者で精神分析医のトニー・ビーバー博士とニューヨーク州ニューロシェルの妹のロスリンド・バーンズが生き残った。(太字は引用者による)

(同上)

この記事のポイントは (1) ビーバー博士が当時としてはかなり規模の大きい同性愛の調査を行い、(2) 同性愛は病気であると結論づけ、 (3) その病気の要因は家族関係の崩壊にあるが、(4)同性愛は予防も治療も可能だと考えていたという点です。

記事の最後でジャッド・マーマー博士 (Dr. Judd Marmor)が指摘しているように、彼の学説は誤りであり、現在では支持されていません。同性愛は病気ではありませんし、その病気の原因が家族関係の崩壊にあるということも否定されています


参考資料

楊尚眞 2021. 「同性愛と同性婚の真相を知る」神道政治連盟 機関紙『』No.215、2021年10月1日発行, pp. 3-10

The New York Times "Irving Bieber, 80, a Psychoanalyst Who Studied Homosexuality, Dies" (By Steven Lee Myers, Aug. 28, 1991)

リチャード・A・イサイ 『ホモセクシュアルであるということ:ゲイの男性と心理的発達』(1996 太陽社)