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「ハーバード・ビジネス・レビュー PURPOSE」を読んで

組織を牽引する立場の人間として、パーパスの策定と実行には非常に興味があったため、購入。

正直な感想として、星3つくらいかという印象。

当分野に関する自分の知識がまだ薄いからということもあるが、やはり「アカデミック」に寄った内容は腹落ちしにくい。(章によって著者が異なるため、大いに腹落ちするところもあるが半々)

結局のところ、パーパスの策定や浸透に関しては、ミドル層に対するアプローチを愚直にやり切るしかないというところなのだろう、そこは納得。パーパスのようなものは、一朝一夕で成功するものでもないし、全てを解決する処方箋・魔法などは存在しないことはよくわかる。

1章1章が短いため、「○○を愚直にやったら浸透した」と、あっさり書かれてしまっている。当事者側としては、各社におけるより泥臭い取り組みや汗をかいたポイントなどはもっと知りたいと感じられた。

以下読書メモである。

第1章 経営者の仕事はパーパスを提唱し、実現すること

  • ネスレでは、パーパスをいち早く設定(2016年)。ただし、耳触りはよくても、その中身をきちんと理解している社員は少ない状態。

  • パーパスは事業目標などとは異なる、根源的な概念であり、全世界における事業に関わるもので、個々の解釈で変わらないもの。

  • パーパスは労働契約にもつながるものであり、採用における基準になるもの。ネスレのパーパスに賛同できるか。(能力だけではなく基本的な価値観も重視)

  • 学生時代の偏差値だけを心の支えにしているようではダメで、入社後にパーパスと同じ価値観を持って仕事をし続けることが必要。

  • 報酬も大事だが、企業とのつながりは賃金だけではなく、精神的なつながりも大事。

  • 社内のイノベーションアワード等のイベントも、パーパスへの合致を意識している。

  • 若い世代を中心に、賃金だけでなく自分の志と会社の存在意義の一致を重視している。

  • 日本の経営者は任期制で、成果を上げなくても解任されないのは問題。


第2章 組織の「存在意義」をデザインする

  • 組織の資源は①WHY、②WHAT、③HOWの3つに分けられる。

WHY:毎日の料理を楽しみにする

WHAT:レシピサイトのプラットフォーム構築

HOW:広告、コンテスト、料理データによるマーケティング支援等

  • WHYは普段の業務ではそう意識されないもの。だがそれを語ることで、チーム力や組織力が高まり、価値創造のスピードが上がる。

  • まずはWHYで直感に訴え、人に行動を起こさせる動機付けを与えることの重要性が増している。

  • 20世紀型の組織はWHAT→HOW→WHYの順番で価値創造したが、これからはWHY→HOW→W HATの順で行われる。

  • ミッション:組織の存在意義(→求心力を高める)

ビジョン:組織が目指す理想の状態(→人を動かす)

バリュー:組織の構成員が共有する価値観を定める(→組織文化を作る)

  • ミッションとパーパスは似ている概念。

ミッション:「自分たちは社会に何を働きかけたいのか」(外側)

パーパス:「自分たちは社会の中でどうありたいか」(内側)

  • 宗教とは、人間が大規模な集団を作って群れるために発明した概念のうち、最も原始的なもの。信者が自分なりの意義を生み出すことが、宗教が果たしている役割の1つと言える。

  • 宗教が伝播するステップを参考にすると、

①思想をデザインする

創業者の思想を可視化するバイブルを作り、ルールやCIに落とし込むこと。

②コミュニティをデザインする

 カンファレンスで存在意義を捉え直す、エバンジェリストを任命して広めてもらう、ダイアローグによって経営者が直接対話して浸透させる

③習慣をデザインする

 ステークホルダーが日常的に接するように仕掛ける。ストーリーテリングの場所を作り、体験してもらうためのメディアを作る。存在意義を日常で意識してもらう仕掛け、そして共通の価値観を持つ人を採用する。


第3章 パーパス・ドリブンの組織を作る8つのステップ

  • USAAでは全従業員が4日間の集中的な文化オリエンテーションに参加する。研修の内容はタウンホールミーティングなどでも共有される。

  • パーパスの浸透においては、指揮管理を強め、報酬を高めてもあまり意味がない。

  • 8つのステップ

①触発された従業員の姿を想像する

会社と従業員を労働契約だけで考えない。企業内で標準を上回る人物を探し、その原動力となっているパーパスを探す。そしてそれが従業員全体に浸透した状態を想像する。

②パーパスを見つけ出す

 一部のメンバーで頭を悩ますのではなく、見つける。パーパスはすでに存在するものなので、従業員が共通して持っている価値観をインタビューなどで聞き出すこと。

③根拠の必要性を認識する

 人は利益によってのみ行動を変える、という考え方が染み付いている会社も多い。ただし、パーパスが信頼できるものであれば、誰もが理解し、全ての意思決定の原動力となりうる。最終的にそれは他社のなし得ないことにつながると考える。

④信頼できるメッセージを一貫性のあるメッセージに変換する

 一貫性を持って、絶対にぶれなければ、パーパスは集合的良心に染み込む。仮に利益になるものでも、パーパスに合わなければ却下する。

⑤個人の学びを奨励する

 経済的報酬ではなく、学習と成長による報酬を考える。何度もパーパスを学習に取り入れ、司令官の戦略を一兵士に腹落ちさせていく。

⑥中間管理職をパーパス主導のリーダーに変える

 KPMGでは社内全てのリーダーやマネージャーをパーパスに結びつけた。各自の自己認識や仕事上のパーパスについて説得力のあるストーリーを伝えられるように訓練する。

⑦従業員をパーパスに結びつける

 トップダウンではない。KPMGでは従業員一人一人にポスターを作らせ、「あなたはKPMGで何をしていますか」という問いに対して、各自の情熱を言葉にして組織のパーパスに結びつけさせた。

 例としては、「私はテロリズムと戦っている(個人)」→「KPMGはマネーロンダリング防止策を支援することで、金融資産がテロリストに渡らないようにしている(会社)」など。

⑧ポジティブ・エネジャイザーを活躍させる

 周囲に前向きなエネルギーを与える人を見つけ、それら同士のネットワークを構築する。会社は彼らに変革プロセスの企画と実行に参加するよう依頼し、彼らが各職場でそれを実行する。


第4章 組織の「やり抜く力」を高める

  • 士官学校で訓練に耐え切れるかの判断に使ったのは学力でも体力測定でもなく、グリッド(やり抜く)力。

  • やり抜く力は、情熱と粘り強さという2つの重要な要素でできている。

情熱は、仕事への興味や仕事が有意義で人の役に立つという確信であるパーパスから生まれる。

粘り強さは、逆境に直面したときの回復力や、持続的な改善にひたむきに打ち込む力に表れる。

  • 上位の目標と、下位のタスクがピラミッドのように繋がっている状態を目指す。最上位の組織的目標をチームや個人の実践的活動に変換することをリーダーが後押しする。

  • 現状に安住せず、絶えず改善する姿勢も、やり抜く力のある組織の基本的な特徴の1つ。

  • 組織とはリーダーの影である。チームを作り、組織文化を育て、やり抜く力を植え付けるのはリーダー。

  • 時に変革は周囲からあきれ顔をされることもあるが、やり抜く力を持つリーダーはそれに気がつかないふりをしてやり切る力を示す。


第5章 私たちは「こうありたい」を追求し続ける

  • 良いビジョンとそうでないものの違いは、言行一致かどうか。

  • WILL CAN MUSTが重なった部分がビジョンになった。

  • ビジョンの浸透は、何度も何度も話をした。単なる石垣積みも、日本一の城を築くというビジョンがあればやる気も仕事の質も大きく変わる。

  • ビジョンは定期的にコツコツと浸透させる施策を打たないと、すぐに忘れられてしまう。

  • 成長が頭打ちになると感じた時こそ、仕事が自分のためではなく、誰かに貢献している、繋がっていると感じられるかが大事。

  • 伝統にとらわれず、常に前進すること。

  • ビジョンは商品から透けて見える。


第6章 パーパスの実践にあたっては、まず我が身を振り返れ

  • オーストラリアのドミノピザでは、トップが莫大な報酬を得ていた一方で、一部のフランチャイズ店では従業員を法外な賃金で働かせていた。これはドミノピザが抱えるバリューの1つ「自分が接して欲しいような態度で人々に接する」とかけ離れていた。

  • 経営陣が基本的なパーパスに基づく行動すらできていない状態で従業員とパーパスについて話し合いを始めたら、浸透どころではない。


第7章 法と文化の両面から改革せよ

  • 文化は行動に影響を与える非公式のルール、法律は個人や組織の行動を律する公式のルール。

  • パーパスの価値においては、法も文化もともに重要。


第8章 パーパスは収益を左右するのか

  • ミッションやビジョンは業績との相関関係はない。

  • GPTWがパーパスと相互作用を調べると、以下2類型の会社が見えた。

①パーパス=仲間意識の組織

 楽しい職場、チームの雰囲気がある、といった感じ。

②パーパス=明瞭の組織

 マネジメントが何を期待するか明らかにしている、マネジメントの展望が明快

  • ②の組織は、財務状況で優れていることが分かった。

  • そして、この関係を推進するのは経営陣でも従業員でもなく、ミドル層。ミドル層にパーパスを浸透させ、彼らの日々の意思決定がパーパスに裏打ちされたものにすると会社は変わる。


第9章 パーパスを戦略に実装する方法

  • パーパスを責任あるリーダーシップや資金投入と合わせて利用することで、利益を伴った持続的成長を生み出し、急速な環境変化に対応し、ステークホルダーとのつながりを深める。

  • パーパスの持つ重要な戦略的役割

①活動領域の再定義

パーパスに基づく活動をしていると、発想はエコシステム全体に広がる。事業領域を広げてパーパスを追い求める企業が成長する。

②提供価値の再形成

パーパス主導であれば、エコシステム全体を見ているため、トレンドへの対応、信頼をベースにする、悩みに焦点を当てる、という行動が可能になる。

  • 説得力のあるパーパスは、会社が大切にするものを明確にし、行動への推進力をもたらし、かつ極めて意欲的なものである。

  • パーパスが戦略の中心に来なければ美辞麗句になってしまう。そのため必要なのは、リーダーの重要課題を変える、組織全体にパーパスを行き渡らせる、ということ。

  • ソフト面においてもパーパスはメリットがある。

①組織の統合強化

②ステークホルダーの意欲増大

③社会への好影響の拡大


第10章 パーパスを実践する組織

  • 組織で働くなら、理性と感情に響く使命や事業理念を掲げる組織で働きたいという人が増えた。

  • 一般的なパーパスは「選ばれる企業になる」「株主価値を最大化する」といった捉えどころのないものばかり。

  • 抜群の効果を発揮するパーパスは、

①戦略目標を余すことなく明確に描き出す

②従業員の意欲をかき立てる

という2つの目的を果たす。

  • 従業員が目的を見失うことは、パーパスの危機。

  • パーパスとは顧客に対する約束である。

  • イケアのパーパスは「より快適な毎日を、より多くの方々に提供する」。

これは、顧客やユーザーにとって有意義と感じられ、自社ならでは感があり、そのケイパビリティが自社に備わっている典型例。

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