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「V字回復の経営」を読んで

5年ほど前に購入した書籍だったが、再読。
ビジネス書ではあるものの、小説風に描かれているため、初心者にも読みやすい構成となっている。池井戸作品のようなヒューマンドラマ調で低迷企業の立て直しに奔走する登場人物達の姿を通して、「巨大組織を変える」ことを大きく学ぶことができる。
思考のノウハウだけでなく、改革者としての立居振る舞いについても示唆が多く、良書である。

私自身、現在所属する大学の中で改革プランを練り上げる自主活動のメンバーの一人となっており、近いうちに改革プランの発表があるため準備をしている段階で、学ぶことも多い。
正直なところ、大学という組織は、有名大学であればあるほど、危機感を持たずに何十年と経営を続けてきたきらいがあり、作中の「太陽産業」と同じような風土が蔓延している印象である。
今や少子化でマーケットは小さくなる一方で、海外大学(特に中国)との教育・研究力の差は大きくなっている。にもかかわらず、「うちの大学は大丈夫」という根拠のない自負とプライド、ぬるま湯に浸かり続ける職員が多いのが現状である。
ただし、中には非常に気骨のあるメンバー(特に中堅・若手層)もおり、こうした職員達を引っ張り上げ、改革を進めていかなければならないと思っている。

まだ現段階では作中のように、トップ層に「本気の改革」を推進しようとする人間は見つかっていないものの、私たちが作る改革プランが彼らに「大きな揺らぎ」を与えるきっかけとなるよう、全力を尽くしていきたいと、決意を新たにした。

以下、詳細の読書メモである。

第1章 見せかけの再建
• ダメな会社ほど、社員の危機感が乏しいことは多い。業績と危機感は逆相関と言っても良い。
• 経営者が危機感を煽る言葉を口にしたとしても、その人間が本当の改革者とは限らない。経営者自身が言葉で社員の心をえぐりながら、問題の本質にまで切り込まないといけない。
• 日本の伝統的企業の中には、中途のような外者を区別することが既に古臭いということが理解されていない。
• 激しい議論は伝統的企業の中では大人げないと言われがちで、情熱を持って進む人間を青いと言われがち。
トップが社内の人気者で、周囲の役員が嫌われている構図は不健全な証拠。トップが現場にハンズオンしない限り、危機感は伝達されない。
• 成長が止まった会社では、10年前のことも1年前のように語る人が増えてくる。これは変化がないから。
• ミドルが他責になるのは、自分の裁量で何もできないから。ミドルに権限を与えれば会社は元気になる。
組織の政治性は戦略性を殺す。個人の利権や感情などが入り混じって、結局妥協論に落ち着くことになってしまう。
• 社員の甘えを殺すには、退路を断つ(失敗すれば売却)といったことが必要。


• スターやエリート集団がいない組織では確実に改革は起こらない。
「この企業を救うのは私だ」「日本を変える」と言った本当の使命感を持っているものがいなければならない。
改革者は現場で多くの新しい声を発信し、そのストーリーが共感できシンプルであれば組織は変わっていく。この指とまれ方式で人が集まっていく。

第2章 組織の中で何が起きているか
• 大きなダメ組織の典型例が出席者の多い会議。出席者を減らすと「私は聞いていない」と言った文句があがる。リーダーシップが弱い証拠。
• 部長たちが機能別のタコツボに入っていて、事業全体の責任を分かち合う意識が薄い。
• 上位者でないと解決できない問題を若手に押し付けられている。
• 様々な部署が関与することで、物事を複雑化しつつ、責任感を薄めてしまう。
• 妥協的態度で、結論を先延ばしする

• 内向きの議論ばかりで、競合他社や顧客の話が全く出てこない。
• 負け戦をしているという自覚がなく、個人レベルで赤字に対する痛みを感じていない。
• 元気な成長企業に行くと、一つ上の階層の上司は、いつも配下のタテヨコの矛盾を自分で嗅ぎ回り、問題を自分でいち早く吸い上げる。
組織内の綱引きに自分から先手を打ち、明確な方針を自分で示す。
• 赤字の原因を個々の現場に遡及できないため、行動不足に陥っている。
• トップが利益追求と言っていても、組織の末端では旧来の売上至上主義が残っているため、行動が変わらない。
• 経営陣が表層的な数字しか追いかけていないため、現場の実態に合わないことばかりが議論される。
• 開発者が市場の勝ち負けに鈍感になっていて、プロダクトアウト姿勢から抜け出せない。
• ダメ会社ほど開発テーマが多すぎる。上層部がなんでも宿題を出してしまうから。
• 組織の末端に被害者意識が根付いている。
• 本社で考えている販売戦略が末端まで届いていない。そのため、売りやすい顧客、売りやすい製品に営業が集中し、戦略的なセグメンテーションができていない。
• 会社の中に代理症候群があり、ラインの権威が弱く、ミドルが強い方式になってしまう。攻めの成長会社では、ラインの責任者が自ら議事を組み立て、自ら進行を取り仕切り、自ら問題点を指摘し、自ら褒めることをしている。
• ミドルが強くなると、自分の権威しか考えないミニ大将が生まれ、政治活動に力が入ってしまうようになる。
• 経営レベルで抜本的に構造を変えなければならない問題を、各職場や個人ベースの話にすり替えてしまうトップがいる。
• 社員の心を束ねる戦略がなく、攻めの組織文化がなくなってしまっている
• 調子の悪い会社は、経営レベルで語られていることと、現場レベルの課題感が一致していない。経営レベルの戦略だけいじっても、現場レベルの改善だけをしても変わらない、一緒に俎上に乗せなければならない。
• 会社全体で戦略に関する知識が乏しい
• 狭い世間の中で、社内の同質的な考え方が伝播し、皆が同じことしか言わない。

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