DAC(Direct Air Capture)とは?
究極的なCO2削減技術として、世界ではDAC(直接空気捕捉)技術に注目が集まっています。個人的には実現の難しい技術だという認識を持っていますが、欧米を中心に実証試験や小型実用設備の稼働も始まっています。簡単に紹介します。
直接空気捕捉(DAC: Direct Air Capture)は、セメント工場やバイオマス発電所などの点源から捕捉するのではなく、周囲の空気から直接CO2を捕捉・回収する技術である。回収されたCO2は、海中深く隔離(CCS: Carbon dioxide Capture and Storage)したり、カーボンリサイクル技術によって燃料や肥料などを生産したりする。
(出典:経産省資料)
CO2の捕捉は、空気を化学媒体(一般的には水性アルカリ溶媒や吸着剤)と接触させることで行われ、これらの化学媒体はその後エネルギー(すなわち熱)を与えることによって高純度のCO2として回収し、有効利用される。
DACは1999年に提案され、現在も開発中であるが、ヨーロッパと米国でいくつかの商業プラントが稼働中または計画中である。DACの大規模な展開は、政策的なインセンティブと結びつけば、技術開発は加速される。
DACは、従来の点源型炭素回収・貯留(CCS)の代替品ではなく、自動車の排気ガスなど分散した排出源からの排出を管理するために使用することができる。CO2の長期貯蔵と組み合わせれば、DACはCO2の除去ツールとして機能するが、2021年時点ではCO2 1トンあたりのコストがかなり高額なので採算が合わない。(現在の技術では、約50ドル/t-CO2程度)
EUの資料によると、2011年に1トンのCO2を空気中から回収するためのコストは、約440ユーロ(600ドル)と推定されていた。しかし、同じ年の研究では1トンのCO2の回収につき、約1,000ユーロが必要と推定されており、その数値には非常に幅がある。2018年にカーボンエンジニアリング社が主張している回収推定コストは、1トンあたり80ユーロ(94ドル)から200ユーロ(232ドル)の間に減少したため、将来的にはさらにコストを削減できる可能性も期待されている。
商業的な手法の多くは、周囲の空気をフィルターに通すために大型のファンを必要とする。最近では、アイルランドに拠点を置くCarbon Collect Limited社が、風に向かって立つだけでCO2を捕捉する技術(MechanicalTree™)を開発した。このCO2の「受動的な捕捉」は、DACのエネルギーコストを大幅に削減し、将来の大型化に適した形状と見られている。
商業的な手法の多くは、液体溶媒(通常はアミン系または苛性)を使って、気体からCO2を吸収するものである。例えば、一般的な苛性溶媒である水酸化ナトリウムはCO2と反応し、安定した炭酸ナトリウムを沈殿させる。この炭酸塩を加熱することで、高純度のガス状CO2が回収される。 水酸化ナトリウムは、炭酸ナトリウムを経てリサイクルされる。あるいは、化学吸着のプロセスでCO2を固体吸着剤に結合し、熱と真空を通して固体から脱着・回収する。
DACの支持者は、それが気候変動緩和の不可欠な要素であると主張している。 研究者は、DACがパリ気候協定の1.5℃目標に貢献しうると想定している。しかし、この技術に頼ることは危険であり、先ずは、排出を減らすことがより良い解決策であると主張する者もいる。
アミンベースの吸収に依存するDACは、かなりの水を投入する必要がある。年間3.3ギガトンのCO2を捕捉するためには、300km3の水が必要で、これは灌漑に使われる水の4%に相当すると見積もられた。一方、水酸化ナトリウムを使用すると、必要な水の量ははるかに少なくなるが、物質自体が非常に苛性で危険である。
また、DACは、CO2濃度が低い(空気中のCO2は400ppm程度)ため、排ガスなどの従来の点源からの回収に比べて、はるかに大きなエネルギー投入を必要とする。周囲の空気からCO2を抽出するために必要な理論上の最小エネルギーは約250kWh/t-CO2、天然ガスと石炭発電からの回収では、それぞれ約100kWh/t-CO2、65kWh/t-CO2となる。
DACに炭素回収・貯留(CCS)システムを組み合わせれば、ネガティブ・エミッションのプラントが実現できるが、その場合、炭素フリーの電力源が必要になる。化石燃料で発電された電力を使用すると、結局、回収するよりも多くのCO2を大気中に放出することになる。さらに、DACを石油増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery)に使用すると、気候緩和の利点とされるものを打ち消すことになる。
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