見出し画像

原子力発電由来の水素の可能性

原子力水素の可能性

水素について、政府主導で進めている大型規模輸送などはコストが大きな課題でしょう。我が国にとって一番良い姿は、四方を海に囲まれているという地理的事情を考えれば、地産地消とでもいいますか、海水や水から水素を生産することではないでしょうか。水を電気分解するエネルギーをどこから持ってくるのか、太陽光や風力などの再エネからという答えもありますが、それはコストの面から難しいでしょう。

 他の可能性としては、原子力発電による水素製造の取り組みです。米国やフランス、カナダ、我が国でも技術開発が進められています。

米国の取り組み

米エネルギー省(DOE)は、原子力発電所でクリーンな水素を製造する技術の実証に向けて、アリゾナ州フェニックスのパロベルデ原子力発電所で計画されているプロジェクトに2千万ドルを支援するということです。製造したグリーン水素は、脱炭素エネルギーの供給源と位置付けられています。DOEは今後10年間で、水素の生産コストを80%引き下げて1キログラム当たり1ドルとする計画を掲げており、プロジェクトはその達成にも寄与する見通しを持っています。これは、10円/Nm3-H2程度になります。

 米エネルギー省、原子力でグリーン水素製造 | 新電力コム株式会社 (shindenryoku-navi.net)

 また、8月18日、米国最大手の原子力発電事業者であるエクセロン・ジェネレーション社が、ニューヨーク州北部のオスウェゴ郡で運転するナインマイルポイント原子力発電所(60万kW級と130万kW級のBWR各1基)で、水素の現地製造の可能性を実証するプロジェクトを実施すると発表しました。

 米ナインマイルポイント原子力発電所で水素製造の実証プロジェクト | 原子力産業新聞 (jaif.or.jp)

フランスの取り組み

10月12日、マクロン大統領は、電気自動車(EV)や水素燃料、効率的な原子力発電所などの技術開発を促進するため、総額300億ユーロ、(約3兆9,000億円)の投資計画を発表しました。なかでも原子力発電分野での「破壊的イノベーション」に取り組むと宣言し、10億ユーロ(約1,300億円)を投資して発電規模の小さい原子炉「小型モジュール炉(SMR)」を複数導入、その電力を活用して水素の大量生産を目指すとした」などが報道されています。

 フランス、小型原子炉で水素精製に舵を切る | EnergyShift (energy-shift.com)

 

我が国の取り組み

明るいニュースとして、12月2日、「カナダ・オンタリオ州営の電力公社オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)は日立製作所とゼネラル・エレクトリック(GE)の原子力事業合弁会社のGE日立ニュークリア・エナジーと共同で、カナダで唯一新たな原子力発電所建設の認可を受けているダーリントン新規原子力発電所へ小型モジュール炉(SMR)を導入すると発表しています。

Media release > OPG advances clean energy generation project - OPG

カナダでの商用SMR(Small Module Reactor)導入は初めてで、2022年末に建設許可を申請後、早ければ2028年に完成予定だそうです。発注額は明らかにされていませんが、最大30億カナダ・ドル(約2700億円、Cドル、1Cドル=約90円)程度になるとみられています。OPGによると、300メガワットのSMR1基で約30万世帯分の発電ができるほか、年間30万~200万トンの炭素排出を削減できるということです。https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/12/cac9fe4279da527d.html

 次に、日本が注力してきた事業に、熱化学方式によるI-S法というものがあります。「熱化学法I-Sプロセス」は、ヨウ素(I)と硫黄(S)を用いた3つの化学反応(硫酸分解、ブンゼン反応、ヨウ化水素分解)を組み合わせた化学プロセスで、水を高温熱エネルギーで分解する水素製造のためCO2の排出も資源の制約もありません。高温ガス化炉を利用します。

また、ヨウ素と硫黄はプロセス内で循環するので環境中に廃棄物を出さないということです。一方で、硫酸などの極めて腐食性の強い流体が高温下で扱われるため、実用化に向けて、多様な環境条件に適応できる材料を選定し信頼性を検証する「工業材料製機器技術」の開発が必要となります。この技術が実現されれば、高効率、大量、連続的に水素製造が可能となります。

 I-S法についても成果があげられつつあったのですが、3.11以降の10年間は進展が止まったままでした。しかし、2020年6月、地震対策などの条件をクリアして、稼働許可が出されました。本年7月から運転を再開、9月には100%出力達成、850℃という高温を達成したということです。

そして、2022年1月から水素製造の実証試験が開始されます。材質面での懸念はありますが、日本独自の技術であり大いに期待したい。
https://www.jaif.or.jp/190128-1

 高温ガス化炉については、「文科省と経産省は、次世代の原子炉として期待される日本原子力研究開発機構の高温ガス炉「HTTR」(茨城県大洗町)を利用し、脱炭素エネルギーの「水素」を作る技術開発に本格的に乗り出す。隣接地に2025年頃、水素の製造施設を着工する計画で、両省が来年度概算要求に設計費など計約30億円を初めて盛り込む」という記事も出ていました。

 【独自】脱炭素エネルギーの「水素」、次世代原子炉で製造…政府が施設着工へ : 科学・IT : ニュース : 読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?