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木を燃やして燃料にすると、石炭より39%多くのCO2を排出する!?

固定価格買取制度(FIT)は、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスという再生可能エネルギーを用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間電気事業者が買い取ることを義務付ける制度です。資源エネルギー庁は、この制度による設備認定件数・容量、導入件数・容量、及び買取電力量・金額などの進捗状況を月次統計として公表している。

太陽光や風力については、発電中にCO2は排出されない。一方、バイオマス発電については、木材チップなどを燃焼するため、CO2が排出される。FIT制度にバイオマスが入っているのは、カーボンニュートラルという概念(取り決め)があるためです。

カーボンニュートラルは、木材チップなどの燃焼により排出されるCO2が、木の成長のためのCO2の捕獲によって相殺されることを前提としている。

だいぶ前から聞いている説明ですが、初めて聞いた時、しっくり来ませんでした

以前、石炭の仕事で、真冬のモンゴルや豪州などに行った事があります。露天掘りの炭鉱に行き、調査をしていた時の事です。大きな古木が放置されたままになっていました。私どもは、「これが長い時間を経過すると、褐炭(Borwn Coal)になるんだな」と理解しました。つまり、木が褐炭、つまり石炭になるということです。

パリ協定以降、石炭は、天然ガスと比べて4割程度多くのCO2を出すので、地球温暖化の元凶だと捉えられ、石炭火力は廃止、設備も売却の対象(Divestment)となっています。

石炭の発生由来を考えると、真冬のモンゴルで見た景色が思い浮かび、「石炭はいの一番のバイオマス、木がバイオマスなら、石炭もりっぱなバイオマスである」と思いたいのですが、現実の世界は違います。色々な理屈をつけて、バイオマスは、我々の税金を使って発電することが奨励されています

さて、新しい論文がでていました。この論文Bloomer et al 2022(以下のURL)は、「気候緩和の名の下に木を燃やすのを、止めよう」と報告しています。 
Microsoft Word - Bloomer_2.3.22Final Print .docx (cdn-website.com)

論文は、「エネルギーを得るために、木やその他の森林バイオマスを燃やすことは、気候緩和、生物多様性保護、環境正義の目標に反するものである。政府は、気候に悪影響を与える森林バイオエネルギーの推進を止めるべきだ」と要約(以下のURL)しています。
 
Burning trees for energy is not a climate solution - IGSD
 
論文では、「森林バイオエネルギーがいかに大量の温室効果ガスを排出し、数十年にわたり温暖化を加速させるかを説明している。 実際、木質バイオマスを燃やすと、単位エネルギーあたり、化石燃料よりも多くのCO2が排出される。その排出量を木の再成長で相殺するには何十年もかかる。さらに、木の再生に頼ることは、伐採による自然林へのダメージ、つまり、森林の炭素吸収能力や生物多様性への影響を無視することになる。
 
この論文は、「欧州連合の再生可能エネルギー指令が、単語の燃焼による正味のCO2排出をゼロと想定していること」を批判している。EUのバイオエネルギーは、再生可能エネルギーの約60%を占めている。著者らは、「各国が森林バイオエネルギーへの補助金を廃止し、森林バイオエネルギーからの脱却を図るべきだ」と主張している。
 
カーボンニュートラル」は、木材の燃焼により排出されるCO2が、木の成長のためのCO2の捕獲によって相殺されることを前提としている。これは、実際には満たされず、静的な条件下でのみ成立する
 
論文によれば、2015年に燃焼された森林バイオマスは、330~380トンのCO2を排出した。これは、「バイオエネルギーが代替した化石燃料が排出したであろう量よりも約100トン多い」と研究者は推定している。これは、木材の燃焼が化石燃料よりも39%(355/255=1.39)多くのCO2を放出していることを意味する。

バイオマスについては、エネルギー密度が低い、資源として調達するのが難しいしコストが掛る、資源地から消費地までの運搬にコストが掛り、その途中でCO2を排出するなど、色々な指摘もなされています。LCA(ライフサイクル・アセスメント)の立場で、システム領域を広くとると、境界での取り合いの課題もあって、なかなか経済的なものではないと思われます。

論文にあるように、静的(Static)な状態では成立しても、現実に起きる色々な事象を勘案する動的(Dynamic)な解析では、成立しないのかも知れません。だいぶ前のことですが、アセスメントを合わすメントなどと自嘲的に言っていた御仁がおられましたが、そこは正しくやって欲しいですね。


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