見出し画像

チック・コリアが繋いでくれた、父との思い出と

偉大なピアニストのチックコリアがなくなった。

いつものように朝起きて、寝ぼけ眼の状態でいつものように布団に潜りながら、スマートフォンの画面をスクロールしていた。
習慣化している世界情勢を伝えるリストをぼーっと眺めていたら、チック・コリアが亡くなったという文字を目にした。

えっ!?と思いながら何度もその文言を見直した。
そう、何度も。

一瞬で眠気は吹き飛んだし、鳥肌がブワーッと全身駆け巡った。
最近はSNSを積極的に使っている印象があって、いつだって楽しそうに楽器を奏でる姿を見ることができていた。

かなしい、という感情では語りきれないほどの、切なさと悲しみとが入り乱れた。
雲の上のような人で会ったこともなければ、知り合いの知り合いの知り合いで知っている人が繋がっているわけでもない。
それでも、偉大なピアニストがいなくなったということに、とても悲しさを感じたのだ。

そんな偉大なピアニスト、チック・コリアとの出会いは、自分の父親だった。

小さい頃、というか子供の頃…でもないのだけれど…親の持っているCDが並んだ棚から引っ張り出しては聴いていた頃。

そこに「Return To Forever」があった。

でも、その頃の自分にとっては、強くアンテナに引っかかることはあまりなくて、こんな音楽の世界もあるのかといった感覚だったように思う。
大人の難しい音楽、という印象だった。
それに、JAZZを聴くとなぜかとても眠くなるという体質なのかなんなのか、そんな事情もあったからかもしれない。

それからなんだかんだで月日は流れて、JAZZが難しくもおしゃれで素敵な音楽だな、なんて思えるようになっていた頃。

チック・コリアと小曽根真、のツアーが開催されていた。

地元の近くのホールへやってくるらしい、なんて話が家の中で出ていて、父親が興奮しながら一緒に行こう。なんて話をしてきた。
家の事情はそれぞれの家庭で違うと思うけれど、私の家庭は昔から家族でコンサートに行くことが多かった。
フォーク歌手のコンサートから、クラシック、ポップスと割とよりどりみどりというか。

だけれど父親の仕事のこともあり、大きくなってからは一緒に行くことはあまりなくて、母親の行きたいコンサートに付き合わされる形で一緒に行くことの方が多かった。
最後に父親と一緒に行ったのは、あまり思い出せないくらいに遠い記憶の彼方のような気がする。

そんなこんなで二人で行くことになり、母親が二人で行くならと、なぜかいつもは買わないお高めの席を取ってくれた。

画像1

当時学生だったから講義終わりに電車に乗り、父の仕事場の近くへ行き、そこで拾ってもらい父が車を運転して会場まで向かった。
向かうまでは、コンビニに寄ってちょっとした食べるものや飲むものを買って車の中で食べたり、近況を話したりした。

たぶん、男性には伝わると思うのだけれど、男同士ってちょっとむず痒い。
なんていうか、気恥ずかしさとか、ちょっと距離を取ってしまうというか。
だからとても落ち着かないわけで…。
スピーカーから流れるラジオの声と、時折聞こえるカーナビの声が救いだった。

会場に着いてからは、慣れない場所でどこに駐車場があるのか、どこから入るのかとか色々大変だった。
コンサートは素晴らしいもなにも、もうこれ以上ないくらい極上の時間で、会場の人たちが体を揺らしながら、まるで踊るように楽しんでいた。
音が巡り渡って火照った身体を動かしながら、すごいなぁ。なんて思っていた。

その余韻に浸ったまま、コンサートは終わって帰路に着いたのだけれど。

父親と一緒に、高ぶった気持ちを抑えながら、すごかったね、なんて車の中で話をした。
来るときの微妙な距離感はなくなったように、コンサートの話をし、そこから派生するようにいろんな話をした。
これまでのこと、これからのこと。近況の詳細とか、本当にいろんなことを、音楽を聴いた熱量で温まったままの勢いで話していたように思う。

思えば、あれから随分月日が流れた。

父も私も歳を重ね、そして折しもチック・コリアの訃報に触れた。
そんな中で、流れる歳月をふと思う。

自分ができることを探して、やりたいことを求めて歩いてきて、その中で捨ててしまったものもある。
綺麗なことばかりではなくて、器用には歩けなくて、道につまづきながら、それでもなにかにすがるように自分を信じて歩いてきた。

そんな中で、音楽は、楽器は、いつだって救いでもあり何者でもない自分が何かになれる時間をくれた。

なにより楽しい時間をくれた。
そして素敵な友だちを連れてきてくれた。


チック・コリアのFacebookに投稿された言葉を噛み締めながら、思う。

誰かとの距離を縮めてくれたり、素敵な時間を与えてくれたり、明日へ向かう希望を与えてくれる。そんな音楽を大切にしながら、今日も明日も、そしてこれからも歩いていこうと。

It is with great sadness we announce that on February 9th, Chick Corea passed away at the age of 79, from a rare form of...

Posted by Chick Corea on Thursday, February 11, 2021





もしよければ、読んだ記事のコメントへ好きな音楽やオススメのコーヒーのこと等を書いて頂けたらとても嬉しいです。