サソリ

蠍座 (10月24日~11月22日)

 あまたの神々が登場し、愛に、恋に、浮気に(ほとんどこればっかだけど)、嫉妬に、ごくたま~に人生に真っ向から向き合ったりするなどして、様々な物語を展開してくれるギリシャ神話だが、出演しているのは神々だけではない。神々と人間との間に生まれた英雄たちも、また数多く登場する。

 英雄の数が多いのは、それだけ多くの神々がオフパコに(文字通り)精を出した結果であって、特にゼウスなんか全部の神話の半分を自分が浮気した話とその後日譚で埋め尽くしていると言っても過言ではないくらいなのだから、神としての役目を果たすより浮気するほうがよほど忙しかったに違いない。
 そうやってたくさん生まれてきた英雄たちだが、しかし、現在の日本にまでその名が伝わってるほどの超有名どころとなると、さすがに数がぐっと減って、ヘラクレスとオリオンと、あと何人かくらいに絞られてくるのではあるまいか。
 そのうちの一人、オリオンが、今回の話の最重要登場人物である(ヘラクレスはまた別の回に登場する)。

 海の神ポセイドンを父に、ミノス王の娘エウリュアレーを母に(別の説もあり)して生を受けたオリオンは、だから生まれの良さでは折り紙つきである。
 神格からすればゼウスのほうが上なのでは? と思う人も多いかもしれないが、ポセイドンはゼウスのお兄さんで年長者だ。しかも、ゼウスが治めているとされる地上の世界、つまり大地も、当時の世界観によれば海に支えられているのだから、ある意味、ゼウスよりずっと格上だと言っていいかもしれない。

 現に、その大地を揺らす地震もポセイドンが起こすものだということになってるし、水つながりで地下水も支配しており、その流れで泉もポセイドンの管理下に入っている。
 こうしてみると、人間の生活にはゼウスよりはるかに深い関わりを持ってるし、浮気ばかりしていたゼウスよりよほど神として働いていたのではあるまいか。

 そのせいか、ポセイドンはあまり浮気していない。
 いや、それなりにやるべきことはちゃんとやっているのだが、ゼウスほどには多くない、という意味だ。
 もっとも豪の者のゼウスに比べられたら誰だって負けるだろうけど。
 あるいは、もしかしたら、プロポーズしてもなかなかいい返事を聞かせてくれず、結婚にするまでかなり苦労して口説き落とさねばならなかった奥さんのアムピトリテが大事で、それほど頻繁に浮気しようとは思わなかったのかもしれない。

 いずれにしてもそういうわけでポセイドンを父に持つ英雄はわりと少なく、それだけオリオンはレア度が高いのである。
 そのせいなのかどうか、オリオンは背が高く、しなやかな細マッチョで抜群の運動神経を誇り、男でも見とれてしまうほどのイケメンで、狩りの腕はオリンポスにその名声がとどろきわたるほどの名人ということになっている。
 ついでに父親から授けられた能力によって海でも川でも陸地を歩くようになに不自由なく歩けた。って、これはあまり関係ないか。
 加えて性格は絵に描いたような豪傑ぶり。多少乱暴なところもあったりするが、ポセイドンの七光のおかげで大目に見られていた。

 いるんだよねぇ、たまに。こんなふうに生まれからしてエエとこの出で、別に頑張って勉強したわけでもないのに学業優秀、スポーツは万能で高学歴。スタイルもよくて美男子で、気力も充実してて、だから仕事もそつなくこなして高給取りという、もうどこまでもかっこいいやつが。
 筆者のように、手にするものは鉛筆一本、それ以上重いもは持とうとしても筋力不足で持てもせず、一日中辛気臭く机にかじりついていて、運動不足で持病に肩こりを抱えてさらにメタボぎみ、おまけに書いたものはさっぱり売れないという者からすると、あまりにかけ離れていて、もはや羨ましささえ感じない。
 ただ、面白くないだけである。

 当然、筆者とは真逆の立ち位置にいるオリオンはやたらモテる。
 そりゃそうだよね。
 好きになる・恋をする、の根底には、セックスする→赤ちゃんを作る、があり、というよりむしろそっちのほうがメインの目的なのだから、その後に続く、育てる→教育を受けさせる、も当然ワンセットで考えておかなくちゃならない。
 本当はこれ、男女とものはずなんだけど、男は自分ではどうやっても産めないせいか、恋愛と結婚を別々に考える、というか、そこまで考えが及ばないまま恋愛に突入する、あるいはしたがるケースが実に多い。
 そのてん、女性はちゃんと考える。いや、考えざるをえない。頭で考えてなくても、根底にある行動基準として生来的に考えている。
 それだけ女性のほうが考え深いのである(モテたいのでなんとか女性を持ち上げようとする筆者)。

 そこまで視野に入れてる女性が相手を選ぶなら、まず自分を大切にしてくれる相手でないと話にならないのはまず納得できるだろう。なにしろ妊娠時や二十四時間つきっきりにならざるをえない幼児期は、もう自分のことさえなにもできなくなってしまうのだから。そんなとき自分と子供の面倒をなにくれとみてくれるだけの気遣いができ、三人分の食料をきちんと運んでくるだけの充分な能力があり、できれば料理して食べさせてくれるくらい気が利いた相手が理想となる。あ、当然、後片付け付き、ね。

 ダンナがエエとこの出だと、いざというときの支援も当てにできるかもしれないし、育ってきたレベルも高いはずなので、子供の教育がやりやすくなるのも期待していい。それだけ子供は出世して、食うに困らない生活が送れるはずだ。
 なにより背が高くてイケメンなのは、一緒にいるところを仲間内で自慢できることを意味する。
 これは大きいよ。自分がそんなイケメンに選ばれる女であるという事実を見せつけられれば、仲間内でのステータスがグンッと上がり、カーストの階段を二段越しくらいで登れちゃう。こうしたことは生きる上で社会を構成しなければならない人間みたいな生物にとって等閑にふすことのできない大問題なのである。

 それだけの条件が整ってさえいれば、極端にいうと、女性は相手のことをぜんぜん好きでなくっても、平気で結婚できてしまう。
 だから昔から「王妃様のお婿さんを募集する試合を開催!」というおとぎ話とか、かぐや姫のように、自分が好きになれる相手かどうかよりも、どんなに珍しいものを集められるかという能力だけをひたすら競わせる話とかが成り立っているのである。
 あれ? 女性を持ち上げるつもりが、このままでは悪口になってしまいそうだ。もうやめておこっと。

 ともかく、オリオンはそれらの条件を有り余るほど満たしていたのだから、当然むやみにモテた。もちろん女神たちにも。それだけで長い話が書けるくらい、ずいぶんモテている。
 だから自信を持っていた。もちろん、持つだけの根拠はたっぷりあるのだし、自信を持つことは誰にとってもいいことでもある。
 ただ、自信を持っていると、その自分自身ももっと大きなものに支えられてるんだ、という視点がどうしても欠落しがちになるのもまた事実である。
 こうした視点はすべての人間が持ってなくちゃいけないものなんだけど、持っている人はほとんどいない。まして、生まれたときから衆に抜きん出てたオリオンにそこまで求めるのは無理であったろう。
 酒の席でも、オリオンの口から出るのは狩りの自慢話ばかりであった。

「どうだ、見事なものじゃないか」
 パチパチと勢いよく爆ぜる焚き火を前に、ワインの杯を手にしたオリオンは今日の獲物を見やりながら満足気に口にした。その視線の先には美しい毛皮をまとうキツネの親子と、たくましい羽で全身が覆われた鷹が横たえられていた。

 一日の大半を使って後をつけ、巣穴を突き止めるのに成功したキツネである。おかげでずいぶん時間がかかり、今日は獲物が少なくなってしまったが、親ギツネは得意の棍棒で撲殺したし、子ギツネどもは絞殺したので血は一滴も流しておらず、それだけ毛皮としての価値が高い。
 売ればいい小遣いになるだろう。その金でまたワインを買えばいい。

「まったく、いつものことながらオリオンの腕は天下一だな。あんな高いところを飛んでる鷹を一発で射落とすなんて。そうそうできるやつなんかいやしないぜ」
 小遣いを分けてもらってる関係もあって、仲間もオリオンを持ち上げる。実際、あの高さで旋回している鷹を地上から、それも急所を射抜くなんて、半分偶然にしてもできすぎだ。あの羽根を使えばいい矢ができるはずだ。その矢でオリオンはまた獲物を捕ることだろう。
「俺たちはオリオンが腕がいいおかげでずいぶん楽させてもらってる。感謝しなくちゃな」
 もうひとり、こちらはもうかなり酔いがまわっているようだ。
「おいおい、それはお互いさまってものだろ。オレもお前たちが勢子をやってくれるおかげで助かってるんだから」
 オリオンは残っていたワインを流し込みながら言った。なに、勢子なんて誰にでもできるのだが、少なくともこいつらは自分が矢を向けた先にひょっこり姿を現すというヘマだけはやらないでいてくれる。それだけでもおおいに助かるというものだ。

「しかしオリオンだったら俺たちがいなくっても、ひとりで狩れるじゃないか?」
 新しいワインを革袋から注ごうとしていたオリオンの背にもうひとりが声をかけた。
「そりゃ、やろうと思えばやれるかもしれん」
 現に今日のキツネだって跡をつけることができたのは自分だけだったのだ。
「獣どもときたら、オレが近づいていってるのに気づきもしないらしいからな。――しかし一匹ずつそれをやってると、効率がものすごく悪くなるだろうな。それに、熊なんか仕留めたら、運ぶのだってひとりじゃおおごとだぞ」
 なみなみと注がれたワインの杯を手に、焚き火に戻りながらオリオンは冗談めかして言った。
「まったく。オリオンときたら、どこまで本音でどこまでが冗談なのかわかりゃしない。熊さえ本当にひとりで倒しかねないんだから」
 皆一斉に笑った。
 狩りのあとの宴。オリオンは狩りの興奮がさめやらないときにこうして飲むワインがことのほか好きだった。

「でも・・・・、なにも子ギツネまで捕まえることはなかったんじゃないかな。放っておけば大きくなって、それだけ獲物が増えることだし――」
 髪の黒い小男がおずおずと言った。仲間内でもいちばん役に立たないやつだ。
「なんだ、お前は獲物が減るのを心配してるのか? オレは逆だね、すべての獣を狩り尽くして、この地上から獲物を一匹もいなくしてしまうのが夢なんだよ」
 再び笑い声が渦巻き、黒髪の小男もまるで追従するかのように卑屈な笑いをぎこちなく浮かべた。

 もちろんオリオンとて本気でそこまで考えてたわけではない。楽しいはずの席で鬱陶しいことを言い出すな、と言いたかっただけだ。せっかくの酒がまずくなってしまう。
 それに、明日の狩りのことを考えても、ここで勢子の気勢を削いでおきたくない。そのくらいのことさえ気がつかないのか。だから役に立たないんだ。だいいち、お前だってその子ギツネを売った分け前にあずかるんだろうが。
 オリオンとしてはそのくらいの気持であった。
 が、この言葉が、大地の神ガイアの耳に届いてしまったのだ。ガイアはカチンと来た。

 なにしろ神さまなのである。世界中で起きることを何でも知ってるのがあたりまえだ。だから誰のどんな小さなお願いごとだって全部届いている。もっとも、届いてるからといって叶えてやるかどうかは、そのときの神さまの気分しだいなものだから、恋人がほしい、という筆者の願いなんか届いていてもちっとも叶えてくれないのだ。聞こえないふりをしているに違いない。
 しかし心象を害する言葉は、耳を塞いでいても入ってくるものだ。
「獣を捕り尽くすですって? いったい誰のおかげで狩りができると思ってるのよ。私がこの大地を懸命に統べてあげてるからじゃないの。私が骨折ってるのを知ってるくせに、感謝するどころか取り尽くすですって? ずいぶん思い上がったことを言ってくれるわね」

 ガイアは大地の女神でもあるが、ギリシャ神話が誕生する以前からいる地母神でもあり、天や星々まで内包したこの世界そのもの、という概念を含んだ神でもある。
 オリンポスの神々でさえ、謂わばガイアの掌で遊ばせてもらってる存在にしかすぎないのだ。決して英雄くらいが軽んじていい相手ではない。
 これまでもガイアは自分が丹精こめて育てた獣たちを、オリオンが必要以上に狩るのを苦々しく思っていたのだが、ポセイドンの手前、がまんしていたのだ。
「自分が近づいても獲物は気づきもしないとか言ってたわね。じゃ、自分が獲物になって狩られる側になってごらんなさい。うまく気づけるかしらね」
 ガイアは不敵な笑みを浮かべると、傍らにいたサソリに目配せをした。
 口のきけないサソリは、それでもニヤリとでもしたかのうようにゆっくり尻尾を上げて応答すると、夜の闇に姿を消して行った。

 一方、オリオンたちの宴はまだ続いていた。といってももうワインはたらふく飲んでるし、食べものも腹いっぱい食べている。
 まだ杯は手にしてて、なんとなく惰性でたまに口に運びはするものの、もうそれほど飲みたいわけでもない。
 うつらうつらと船を漕いでいる者もいる。
 焚き火の火も小さくなっているが、薪を足そうとする者もいなかった。
 今夜の宴がもうほとんど終わっているのは明らかだ。オリオンも、明日の狩りに備えて、そろそろ寝たほうがいい、と思い始めたころである。

 突然、右足の踵がチクッと痛んだ。
 はっとして目をやると、一匹のサソリが急いで逃げて行くところだった。
「しまった・・・・」
 狩りが得意なだけにサソリに関する知識も豊富なオリオンである。自分を刺したのが特に毒性の強い種類であることは一目で分かった。
 あれに刺されたら命はない。
 しかし、あの種類のサソリがこんなところに棲息してるはずが・・・・、そうか、さっきの言葉がガイアの気に障ったのか。
 もう手遅れだ。ハデス(冥府の王)のもとに行くしかあるまい。
 そう覚悟を決めたオリオンは、さすがに英雄である。静かに目を閉じると、やがてそのまま息を引き取った。オリオンが冥府に旅立ったことは仲間たちさえ翌日の朝まで気がつかないままであった。
 そしてサソリはこの功績によって南の空に上げられ、サソリ座となった。

 ――と、これがサソリ座の由来である。
 なんだか、突然出てきて、そう大した活躍もしてないのに星座にまでなっているのには多少得心のいかない部分もあるが、こういうのは星座が先にあって、それに辻褄が合うような話を後で考え出したのだから、少しくらい気になるところがあっても仕方ない。

 この話はやたらイケメンのオリオンが小さな虫の一撃で死なねばならないところが、モテない側としては溜飲が下がってなかなかいいのだが、しかし、筆者としてはあまりおもしろくない続きがある。

 実はオリオンには恋人がいた(やっぱりね)。
 それも月の女神アルテミスである。
 って、ちょっと待ってくれ。アルテミスは他の話では狩猟の神ということになってなかったか? それに月の女神は他にもルナとかセレーネとか(この二人は呼び名が違うだけで同じ神らしいけど)がいるはずなんだけど。まぁしょうがない。ここではアルテミスが月の女神ということにしておこう。そうでないと話が続かないから。
 で、愛する恋人に突然死なれてしまったアルテミスは悲しんだ。そりゃ、そうだろうね。
 しかしアルテミスはただ涙にくれてその後を過ごしたわけではない。すぐさま行動を起こした。
 冥府に乗り込んだのだ。
 そして冥府の王ハデスに、オリオンを返してくれ、と直談判に及んだ。
 が、ハデスはなんとしても首を縦に振らなかった。一度冥府に入った者を返すのは掟にそむく、というのだ。あるいはハデスは一度自分のものにしてしまったら絶対手放さないケチだったという説もある。

 いずれにしてもハデスに頑として反対されてしまったらアルテミスではどうすることもできない。そこで今度はオリンポスへ行き、ゼウスにハデスを説得してくれるように頼んだ。だが、ゼウスも自分もハデスを説得するのは無理、と断られてしまう。
 万策尽きたアルテミスは、それならせめてオリオンを空に上げて星座にしてほしい、と泣いて頼んだ。
 アルテミスの涙に心を動かされたゼウスは、それくらいだったら自分の力でもできるし、それなりの活躍をした英雄でもあるし、それにポセイドンの顔も立つだろうし、と承諾し、こうしてオリオンも星座となって夜空に輝くこととなった。
 そして今でも月に一度、アルテミスはオリオンを訪れて逢瀬を交え、空の上で体を重ねているのである。

 しかしサソリにはさすがに懲りているのか、今でも、サソリ座が空にあるときはオリオンは決して姿を見せず、逆にサソリはオリオンの仕返しを怖れてか、オリオンがいるときには水平線の向こうに身を隠して絶対に出てこようとしない。

 あれ? この話はもともと「自然の資源だって有限なんだから、必要以上に消費したり野放図に捕りつくすなんてアホなことはやらんと、うまく付き合っていきなさいよ。そしたらずっと共存共栄でいけるんだから」という、ウナギの棲家は奪うわ、稚魚は取り尽くすわしていまにも絶滅させんとしているどっかの国民に聞かせてやりたい大事な教えを含んでいたはずなのだが、アルテミスのような超美人の女神に心から好かれた上、死んでからもオフパコし続ける話にいつのまにか変容してしまってるではないか。
 まったく。面白くない。

 あまり面白くないので、オリオンの死因にまつわる別の話も書いておく。
 この話にもアルテミスが出てくるが、今度は狩猟の神になっている。そしてやっぱりオリオンとつきあっている。
 というよりも、もうずいぶん長いことつきあってて、周囲も公認してるし、二人が一緒になるのはもう時間の問題だと見られていた。
 アルテミスは狩猟の神であると同時に処女神でもあるのだから、本当は結婚なんかできるわけがないのだけど、なぜかこの話ではそこらへんの事情はすっかり抜け落ちている。

 しかしそういう深いお付き合いをしていたにも関わらず、モテる男というのはしょうがないもので、暁の女神アウロラ(オーロラの語源になった女神)から秋波を送られて、つい気持ちがそっちへ行ってしまった。
 アルテミスという最高の女性とつきあって結婚目前まで行ってるのだから脇目なんかふる必要などないはずなのに、そこが男の浅はかさというもので、アウロラの持つ清楚さ、すがすがしい美しさ、これから一日が始まるという清冽なエネルギーと、指で触れただけで消えてしまいそうなたおたやかさについ気持ちが向き、ついでに体も向かってしまったのである。

 しばらくの間は二人の仲はアルテミスに知られることはなかったのだが、オリオンに会いたさにアウロラが仕事の手を抜いてさっさと終わらせるようになってしまったところから発覚した。陽が落ちると床に入り、夜明けとともに目覚めていた時代だ。毎朝訪れる暁が異様に短くなったら、そりゃ気がつくだろう。皆が夜更かししてLINEなんかでおしゃべりしてれば誰も気づかなかったかもしれないのだが(と、LINEする相手もいなくて拗ねる筆者)。

 ある朝、怪しいと感じてたアルテミスはオリオンの跡をそっとつけ、そしてアウロラと密会しようとしている現場をしっかり目撃したのである。
 気性の激しいアルテミスだ。眉間にビシッとヒビが入る。と同時に右手は矢筒に伸び、一瞬にして放っていた。
 狩猟の神が放った矢である。外れようがない。今にもアウロラの胸に抱かれようとして両手を大きく広げた姿のまま、オリオンは絶命した。

 今でも、毎朝オリオン座が暁の光に優しく抱かれようとするたびに、しだいに光を失って消えてしまうのは、そのときのことが繰り返されているからであるという。

 なんだ、死んだ後もアウロラが毎日その胸に抱こうとしてるなんて、やっぱりモテ続けてるんじゃないか。やっぱり面白くない、ふん。


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