見出し画像

南相馬市事業化実現プログラムを伴走しました

南相馬市をご存知でしょうか?

福島県の東部に位置している人口4.5万人の街です。以前は北から鹿島区、原町市、小高区の3つの自治体があって、それが1つの自治体になりました。
夏には相馬野馬追祭が開かれ、お祭りに向けて街のいたるご家庭で馬を飼育されています。

この南相馬市で事業化実現プログラムに一昨年から行われております。
プログラムは首都圏をはじめとした南相馬市以外に在住する10代から20代の若者が、現地を訪問して感じた社会課題や経済課題をもとに南相馬市で事業を立ち上げることをゴールとしています。プログラムは3カ年で実施される予定で、今年度は昨年度に続き事業を練っていく段階でした。

そして先日令和4年度の活動報告会が南相馬市で開催されました。報告会には南相馬市長をはじめとして、市の職員のかたがたや、地元の方たちもご参加され、暖かい雰囲気で進んでまいりました。

さて、このプログラムに よさそう は参加者のメンターとして、そして研修の講師として伴走いたしました。

普段はあまり自分視点でこのプログラムを語らないのですが、発表会という節目を迎えたので、この一年間を振り返ってみます。

1年間のタイムライン

2021年12月 顔合わせはオンライン

コロナの猛威が一瞬おさまりかけたものの、凄まじい勢いで感染者数が増える直前の2021年12月、プログラムのキックオフが行われました。会場の都合、主催者と参加者と一部の講師は対面で、それ以外の関係者はオンラインからというハイブリッドでの実施でした。

キックオフミーティングの現地会場の様子

私はオンラインから会場を見ていて、ときおり映る参加者を見て、ただひたすらに「若いなあ」「元気だなあ」という印象で見ていました。

そして各々の自己紹介でこのプログラムに込めている想いや成し遂げたいことを話してくれたことがとても印象的でした。

2022年1月 南相馬市を訪問

年が明けて2022年1月上旬、少しコロナ罹患者数が増え始めたころに、南相馬市を2泊3日で訪問しました。

鹿島区ではおいしい鶏の唐揚げやたい焼きをいただき、小高区では避難からの帰還後にはじめられた唐辛子のお店で事業の経緯を伺い、原町区では図書館やコワーキングスペース、農家民泊をめぐりました。
それ以外にもロボットテストフィールド、北泉海岸、乗馬体験、haccobaさんで日本酒いただいたりと非常に濃密な3日間でした。

太平洋から昇る朝日をみる

このとき一緒に各所を回り、参加者のみなさんや彼らを支えるメンター同士で、ご飯を食べながらたくさんの会話ができたことが、いま振り返るとこのプログラムの礎になったと思います。

2022年2月 令和3年度発表会

現地訪問から戻り、3回ほどのワークショップと個別のメンタリングを経て、2022年2月下旬に参加者が令和4年も取り組んでみたい研究テーマを発表する会が行われました。

このころは第3波の真っ只中で、南相馬市のみなさんはオンラインから、参加者もオンラインと会場からとハイブリッドでの実施となりました。

現地訪問から1ヶ月ちょっとの期間で、17人もの参加者は仕事や学業の合間を縫って、自分が感じた南相馬市の課題に対し、自分なりに取り組んでみたいことを南相馬市のみなさんへ発表を行いました。

発表会の様子

解決方法は多種多様。アートや建築から取り組む人がいれば、食堂や冷凍食品という食という側面や、ECやSNSなどITの力で解決しようという人もいました。
同じ場所を同じ時に巡っても、人それぞれのアプローチがあることに人の営みのダイナミズムを強く感じました。

2022年4月 令和4年度の活動スタート

年度が明けて4月、いよいよ2年目のスタートです。
各自が発表したテーマに基づき、事業を練っていったり、テストマーケティングを行っていくのが今年度の目的です。実証実験をするフェーズですね。

私は3人の参加者のメンターとしてプログラムを伴走することになりました。
3名とも異なるビジネスの実現を発表していたので、それぞれのかたと月に1回、1時間程度のミーティングをもち、その時点の課題感に基づき、次回までのアクションをコミットしてもらうというスタイルで進めていました。

普段は仕事をしながらの事業検討は、正直大変だったと思います。しかも20代だと自分で時間のコントロールがしづらく、計画しても思うようにいかなかったり、止まってしまったり、自信が薄れたりしたと思います。
また20代はライフイベントも多く、刻一刻と人生の分岐点が訪れては、矢継ぎ早に意思決定しないといけないものです。
実際に伴走した3名のみなさんも、毎月お会いする度に直面する課題や問題に変化があり、その都度、方針をシフトしたり、ちょっとプログラムを休憩したりといった感じでした。

2022年6月 マーケティング研修

そして初夏、よさそうが担当するマーケティング研修を行いました。マーケティングのなかでも事業の立ち上げ時にいちばん大事な「応援してもらえるブランドをつくる」にフォーカスしたワークショップ形式の研修にしました。

他のメンターとも各参加者の様子を話し合い、その時点の参加者にフィットする研修を企画して、それができるメンターが講師を務めるというスタイルで進めていました。なので研修はオーダーメイドでフィット感と学び感の両方を最大化できるように心がけられたプログラムでした。

その一翼を担うべく行ったマーケティング研修。
座学で聞いていても何も身につかないと私は考えておりますので、インプットとアウトプットを交互に行いつつ、アウトプット多めにして、自分の言葉で自分のアクションを決めてもらうスタイルにしました。

研修に参加したバンブルビーさん

研修は終始なごやかに進み、参加者のみなさんは帰る頃にはシールが大好きになっていたと思います。

2022年8月 官民学協働ワークショップ

このプログラムとリンクして、8月には南相馬市の若手職員のみなさんと、MYSH合同会社さんが南相馬市で行っていた大学生インターンのみなさんと、そして事業化実現プログラムの参加者のみなさんによる、官民学協働ワークショップを開催しました。

このワークショップは1泊2日でみんなで南相馬市を歩いてみて、そこから若者の視点で、南相馬市の未来でできそうなことをいっしょに考えるというものでした。

最初は距離感のあった参加者も、時間が経つにつれて近づいてきて、最後のワークショップで官民学の混成チームでさまざまなアイデアが生まれていきました。

南相馬市は行政区よりも小さい単位での集まりがあり、その単位でのTシャツを作ったり、運動会をやったり、はたまた広大な空き地を使った音楽イベントなどさまざまなアイデアを短時間で作り上げていく姿に、ファシリテーターというポジションを忘れて「素敵だなあ」と感じておりました。

このワークショップが事業化実現プログラムでも大きな役割を果たすことになりました。ここで知り合った職員のかたや現地のかたたちが、その後プログラムの参加者を応援してくださるようになり、事業化がぐっと進んでいった感じがいたします。

2022年10月 テストマーケティングへの立ち会い

私が担当するメンティーの一人は南相馬市でカフェ事業を立ち上げることを企画していました。

検討開始時から、非常に素敵なブランドデザインをされていて、そしてコーヒーを淹れる技術も人一倍勉強している人でした。

そんな彼の事業化検討が夏頃から加速し、秋から現地でのテストマーケティングを重ねていきました。

私は10月に行われた小高区の田んぼのなかでのコーヒーの会を見学に行きました。
秋、収穫を迎え黄金色に輝く稲穂に包まれた空間で、コーヒーをいただく。見ようによっては茶道の野点のようにも見えつつも、飲んでいるのはコーヒーという不思議だけれど、とても素敵な瞬間。

稲穂を背景にコーヒーを野点

メンティーがやりたかったことを現地で自分の肉眼で見られて、彼の想いや考えが伝わってきて、本当に良かったと感じた瞬間でもありました。

2023年2月 令和4年度発表会

そして迎えた2月25日。奇しくも昨年度の発表会と同じ日に、南相馬市にて対面で関係者を前に発表会が執り行われました。

参加者は直前までプレゼンテーション資料を更新したり、プレゼンテーションの練習をしたり、といい感じの緊張感に包まれた空間でした。

一人ひとりこの一年間で煮詰めてきた事業や、試行錯誤してきた事業を堂々と発表する姿に、1年という短いような長いような時間で生まれた成長を感じました。

伴走者視点のリフレクション

時系列でできごとを綴ってみました。綴ってみて、俯瞰してみて参加者のとなりで伴走した視点からの省察を書き留めてみます。

時間の長さが育めたこと

若い人たちが好むといわれている「タイパ」という考え方。1年間かけて事業を練り上げていくのは「タイパ」という視点からはパフォーマンスが低く映るかもしれません。

ですが働きながら、学生をしながら事業アイデアを1年間かけて煮詰めていけることには利点がたくさんあります。
ライフステージや仕事の変化などさまざまなリスクにさらされながらも、人生を棒に振らないで、新しいことにチャレンジできます。
またそうした局面の変化に応じた方針転換ができる点がアドバンテージです。

これが数週間で数ヶ月で成果を出さなければならないとなると、時間に押しつぶされて生まれなかったアイデアもあると思います。もしくは非常に表層的な考えにしかいたらなかったかも。

あらためて振り返って、この「1年」というタイムスパンの意味と意義の大きさを感じます。

本人のペースで出入りしやすい環境

私が担当したメンティーたちも、この1年でさまざまな変化がありました。
結婚した人、仕事に必要な資格試験に取り組んだ人、子供が生まれ、そして住んでいる場所が変わった人、進学する人。

そうした変化は、その人の人生を形作る活動の優先順位を見直すきっかけとなります。このとき「続けるか辞めるか」の2択ではない点が、このプログラムの素敵な点だと思います。

いまは主体的に取り組めないけれど、主体的に取り組んでいる仲間を支援するサポーターという立ち位置から関わり続けられる。もし人生に変化があり、時間的、精神的な余裕ができたら自分の事業計画をリスタートできる。

そうした本人のペースで、このプログラムというコミュニティに関わり続けられる。スターバックスさんではないですが、南相馬での事業を考える人のサードプレイスのような存在です。

南相馬市のみなさんとの関係をじっくり温める

人はいきなり距離を詰められると困ってしまう生き物だと思います。
私自身、ぐいぐい来られる人は苦手です^^;
ましてや年代も住んでいるところも違う人がきたらなおさら。

そうした前提をしっかりとこのプログラムでは乗り越えられるように、主催の南相馬市さんとMYSH合同会社さんが、地元のみなさんとの関係性をじっくりじんわりと温めていった土台を作ってくれていました。

2022年1月、訪れたさまざまな場所やお店で、初めていくんだけど「おかえり感」と「よくきたね感」がほどよくブレンドされた空気感で、みなさんが迎えてくださったことが、とても記憶に残っています。

そしてその後も数回に渡って訪れる度に「おかえり感」がぐんぐんあがっていき、いまでは原ノ町駅に降り立つと「帰ってきた」と感じるようになったほどです。

訪れたら必ず伺うラーメン屋さんと定食屋さん(おいしすぎて混み過ぎたら困るので書きません)、半日以上も余裕で過ごせる駅前の図書館。サードプレイスが少しずつマイプレイスになっていく。

土地と人の距離を少しずつ温めていく仕掛けが、このプログラムには絶妙に埋め込まれていて、それが参加者のみなさんが少しずつ”自分ごと”化できた要因だと感じております。

むすび

今年度の発表会を終えましたが、来年度がプログラムの最終年度。これまで事業を”検討”してきた人たちが”実践”へとシフトしていきます。

きっと困難もあれば、それを凌駕する歓びもあることでしょう。そんな彼らが壁を超えたり、壊したり、迂回したり、壁の前でお茶したり、ひなたぼっこしたりを、これからもとなりで支えていこうと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?