弛緩して無防備に横たわるこの肢体は何かに似ている、ええと、何だったっけ――。
無香料のローションを手に取り自分の秘部にも塗りたくりながら、きんきんに空気が張り詰めた銀色のマットの上で男の裸体がぬめぬめと光っているのを見下ろした。
ああ、解った――。
ぽた り ぽた り、山手の苔むした岩肌から澄んだ水が染み出ては大きな流れへと繋がっている。これは田舎の、清水が浅く溜まった沢で見た山椒魚(さんしょううお)の肌の質感だ。日に焼けて皮膚に蓄積されたメラニン色素が年月をかけ浮き出して作る染みが山椒魚の斑紋のようだ。
隠れた石の隙間に山椒魚の雄と雌が睦みあってできた膠(にかわ)質の卵嚢に包まれた卵たちを、幼いあたしは時間も忘れてじっとみつめていた。
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