Cleanup!

 2034年。世界には歪が生まれて崩壊の危機にある。今、僕の目の前でも空間が歪み、裂け目ができている…
 子供のころにゲームやアニメで見たような世界の終わりが現実になるなんて思ってもいなかった。

 なぜこんなことになってしまったのか…僕はもう発表することのない取材原稿を読みながら終末への顛末を振り返る現実逃避をすることにした。

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怪現象の原因はバズるための動画?巷で噂の情報を徹底検証!

 現在世界各地で怪現象が発生している。日本では先日、とある高校の校庭に地層などが一切見えない真っ暗な穴が出現したり、アメリカでは一区画が一晩にして丸々消失してしまったり、イギリスに至っては国土の半分が急に水没したのは記憶に新しいところだ。

 実はこの現象は、動画配信サイトでとある動画が流行し始めた時期と始まりが符合する。そこで、我々『月間ヌー』編集部は、この謎を解き明かすべく長期の取材をし、その結果を今回特集記事として掲載するに至った。

原因の発祥と考えられる『cleaning with a cloth Challenge』について

 2026年とあるyoutuberグループが企画動画として『雑巾早掛け選手権』という動画を投稿した。これは仲間内で雑巾がけの速さを競って、楽しくふざけあうような内容の動画だった。

 しかし、何がきっかけだったのか「雑巾がけのタイムを競う」という内容が海外に受けたらしく、この形式の動画を撮影し、タイムを縮めた動画を投稿することが流行した。

 この一連のムーブメントは『cleaning with a cloth Challenge』と呼ばれるようになった。

 最初期のころは、使用する布や床の材質にこだわることにより、若干のタイム更新をして、世界王者を名乗るものが多かったが、ハンガリー人の元陸上選手が参戦したことにより、身体を鍛えフォームなどを徹底して修正することによるタイムを競うというスポーツへ変化していった。

 このようにアスリートたちがタイムの上位を競うようになったことで『cleaning with a cloth Challenge』は下火になりつつあった。

…しかし、一人の人物の登場により、ブームは再燃して思わぬ方向へ向かうことになる。

日本の女子高生による奇想天外な方法

 2029年に1分で雑巾がけをクリアするという偉業が達成された。これを達成したのは、なんと日本の女子高生だった。

 そして、おっとりした彼女が編み出した時間の短縮方法こそ、近年発生している怪現象を引き起こす原因であろうと我々編集部は考えている。

…彼女が行ったのは以下の奇妙な儀式である。

①場所は必ず県立〇〇高校の3年2組の教室とする。
②教室の中央で4回地面に伏せる
③教壇に上部から垂直で落下し、教壇をすり抜けた先で、6秒以内に8回スマホのフラッシュを炊く。
④その後、17時に鳴るはずのチャイムが再生されるので、再生後4秒のタイミングでスマホを宝箱に向かって投げつける

 何を言っているか、読者の方で件の動画をご覧になっていない方は、不明だろう。しかし、これは本当に文章の通りなのだ。

 彼女がこの儀式を行った瞬間に動画は最初の教室に切り替わり、驚くことに彼女は高速で動き始め、15秒で雑巾がけを終了させたのだ。

 もちろん、当時はこの動画に関して、映像の編集を疑う声がほとんど
だった。ただし、この動画がバズったことをきっかけに2つのメディアがこの女子高生に取材と検証のための撮影を申し入れた。

 1つは日本テレビ制作会社であり、もう1つはBBCのドキュメンタリーだった。

 それぞれのメディアの取材陣の目の前で彼女が同じことを実行し、投稿された動画が編集や加工でなかったことを証明した。

 かくして、彼女のやった方法は一躍有名になり、界隈の活性化につながったのだ。

…しかし、その裏でとある事件が発生したのを我々編集部の独自調査により発覚した。

 それが現在の怪現象につながると考えられる現象である。
 彼女が例の動画を撮影した日、場所となった県立高校ではウサギ小屋が跡形もなく消失したということが、学校の関係者への取材で明らかになった。これは冒頭で語った最近世界各地で起こっている怪現象と一緒ではないだろうか?

世界中で発生するタイム短縮合戦と怪現象


 この女子高生の動画は、メディアの検証記事や放送により一気にバズった。

 それと同時にアスリート以外でも雑巾がけのタイムを短縮して、バズることができるということで、cleaning with a cloth challenge界隈は盛り上がりを取り戻し、様々な方法が研究されることになる。

 そして、日本の事例と同じように同時期に怪現象の発生が報告されている。

 例えばアメリカでは、reeditの動画配信者コミュニティで、この方法を活用したタイム短縮の情報共有が盛んになり、次々にタイムを縮める動画が報告された。

 そして、それと同時期に各州でビルの一室が突然崩壊したり、ダイナーのトイレが急に消失するなどの事象が起きてることがSNSやネット記事で散見される。

 また、イギリスではオックスフォード大学の物理学専攻の学生によって結成されたサークルがこの現象の仕組みを探るために研究をしていた。結果としれ未だに仕組みは解明されていないのだが、その研究過程で様々なタイム短縮方法が生まれた。

 上記に関しても、もちろん動画サイトへ投稿がされ、このようなことでも界隈は盛り上がった。
 それと同時に、イギリスではこのころテレビや監視カメラ等に移る人物の顔が縦長になったり、編集していないのにモザイクになるという現象が同時多発的に発生するようになったことが報告されており、SNS上でその映像を確認することもできる。

 これらは、それぞれインターネットへ投稿されているという性質上、フェイクであると言われているが、編集部で現地への取材を行ったところ、実際に消失した跡地を見ることができた。

拡大する怪現象

 このようなムーブメントは広がり続け、cleaning with a cloth challengeは2034年現在では最速タイムが10秒となっている。

 その話はさておき、問題は冒頭でも述べた、本年1月に発生した世界同時多発の消失現象である。

 この現象に関して、各国政府や研究機関では、新兵器によるテロや近年世界各国で進む新エネルギー実験の弊害などと言われている。
 しかし、これに異を唱える団体が存在する。それが件のオックスフォード大学のサークルだ。

 彼らが本年3月にブログへ発表した記事によると、cleaning with a cloth challengeのタイム短縮で行われる儀式は、空間に存在する量子へ干渉し空間や物理法則に歪みを発生させている可能性があるという。

 詳細は本記事で説明できないため、日本のyoutuberでわかりやすく解説している摩擦係数氏のチャンネルを以下に貼っておくので参照して頂きたい。

 とにかく、我々編集部も取材で追っていたように、どうやらcleaning with a cloth challengeと現在世界で発生している怪現象には相関関係があるようだ。

 本誌では、引き続きこの現象に関する追加取材を行い、特集をしていきたい。

 さしあたり、次号ではオックスフォード大学のサークルへのインタビューを掲載する予定である。
 読者の皆様はぜひ楽しみにお待ち頂きたいです。

                           月刊ヌー編集部

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 この記事を作成したのが、昨日。
 今日には編集長のチェックも終わりネット版へ掲載するはずだった。

…しかし、今朝、日本では例の穴から亀裂が広がるように空間が裂けていき、様々な箇所で空間の歪みが生じ始めた。SNSによると世界各地で同様の現象が発生しているようだった。

 そして、昼には通信やライフラインも機能せず、空間の裂け目に飲み込まれた人は消失してしまったようだ。

「間違いない。世界は終わるんだ…」
 僕はそうつぶやいた。

「その通りだ!青年!!」
 急に背後から大声で話しかけられた。

 振り返ると、そこにはパンチパーマっぽい髪形をして、半裸の男性が仁王立ちしていた。

「…えっと、どなたですか?」

「我が名はゴウダマ・シッダールタ。貴様らが釈迦やブッタと呼ぶ存在だ。」

(これは終末を向かえておかしくなった人だなぁ…)

「わかるぞ。今おかしな奴が出てきたと思っとるだろ。まぁ、無理もない…貴様はどうやら、この崩壊の原因を観測して記録していたようだから、説明してやろう。」

「…はぁ。」

「貴様はテレビゲームというものをしっているか?」

「えぇ、まぁ…」

「実は今の世の中はゲームでいうと、バグを利用して攻略しまくった結果、これ以上進行できず、データが崩壊しそうになっているという状態になっておる。」

釈迦と名乗る男は、尊大な感じで語り始めた。

「そこでだ!わしが今から世界の崩壊を止めるってわけだが、方法が一つしかなくてな。それがゲームで言うデータが安全な状態だったセーブデータをロードするということじゃ。ロードすると、今この時代のことはなかったことになるがな。」

「え?ロードするってどうやって…」

「気になるだろ~。方法は簡単。”悟った人間”がロードを実行するのじゃ。」

「は?え??」

「悟りを開くと、この世界の創造主…つまるところ”神”などと呼ばれる存在と話す機会を得るのだが、そこでその人間はセーブポイントとしての役割を与えられるわけじゃ。世界が今回みたいな事象になってもいいように。」

「…」

「まぁ、信じられないのも無理はないのだが。わしがこれからロードを実行すると貴様も一旦なかったことになるから、とりあえず話を聞いておけ。
セーブポイントとなった人間がロードを実行すると、そいつが悟った日まで世界が巻き戻るらしい。
つまりは、強制的にトラブルが起きる前に世界を戻し、やり直すということじゃ。」

「なるほど」

「そして、今回は崩壊が深刻なので、わしの時代まで戻すことになったわけじゃ!」

 釈迦を名乗るこの男の話は、にわかには信じがたいのだが…
 オカルトライターの性として、この話をもっと聞いて記録しなければいけない気がしてきた。

「…あの」
と、男に声をかけようとした時

「ほんじゃあ、あんたには悪いがロード実行じゃ!」
男がまばゆく光った………

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 3年前にチベットで発見された経典の一部が解読され、先月にその一部が発表された。

 発表された内容は「人が奇妙な行いで功績や人気を得ても、それに追随せずに心を静めるべきである」という教えが記され、これを守れなかった際に承認欲求により村を崩壊させてしまった村長のエピソードであった。

 この内容に関して、コメントを求められてチベット僧は
「承認欲求にとらわれず、己と向き合い修行をすることは重要です。昨今の動画サイトやSNSの熱狂する人たちも一旦冷静にご自身を見つめる時間を作ってはいかがでしょう?」
とコメントしていた。

 なるほど、このような解釈もあるだろう。しかし、長年にわたって【世界ループ説】を提唱している我々【月刊モー編集部】の見解は違う。
 これはループした結果、この世界の崩壊を防ぐための釈迦からの警告だと考えらえる。
 おそらく、人類は過剰なバズを求めた結果崩壊するということではないだろうか??

 次号では、過剰なバズによって何が起こるのか?我々編集部の独自取材の結果導き出される未来予測を特集記事として掲載したい。

 読者の皆様はぜひ楽しみにお待ち頂きたいです。

                           月刊モー編集部

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「…まぁ、ロード後の世界を干渉しすぎないように保守管理するのもワシらの役目じゃからな。それを示唆する役目を今回は貴様らに与えてやろう。
崩壊を防ぐことができるかは、この時代の人間次第じゃが…」



==あとがき============================

最後までお読み頂きありがとうございます!
IRIAM新人ライバー
古書店店主で幽霊の夜野 廻です。

このお話は【三題噺】という企画にて、ガチャの結果出た3つのお題をもとに作成したプロットから作成した短篇です。

…お楽しみ頂けましたか?

ちなみにお題は以下のような内容でした!

普段の配信では、本の話題だけではなく、今回の話題のもとになっているようなオカルトネタからインターネットミームまで幅広い内容で雑談しています!

そして、こんな感じでIRIAMにおいては少し特殊な配信をしています!!

気になった方は、是非遊びに来て頂けますと幸いです。

皆様のご来店をお待ちしております<(_ _)>


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