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アイドルになりたいの!!

 これは、僕が大好きだった配信者の最後の配信についてのお話。

 今や世間では知らない人はいない動画配信のプラットフォームUtube。彼女はそこで毎日配信をしていた。彼女が毎日語る目標は「みんなが知っているアイドルになること」だった。

 だから、彼女は何でもやった。たとえ世間では「炎上商法」なんて揶揄されることでも…

 彼女の名前は「望月ヒカリ」。Utube上では美人なのに過激な動画を投稿することで有名な配信者だった。

 僕が彼女のことを知ったのは、SNSで「加茂川にいるカップルは等間隔並ぶらしいので、ペットボトルロケットを等間隔に設置してカップルへ発射することで検証する」という動画を撮影していたことで、警察に捕まって、炎上し話題になっていたのがきっかけだった。
 迷惑系配信者とはいうものの、暑苦しい見た目の男や、敬語が使えない元女芸人なんかと違い、奇抜な格好をしているけれど、美人な彼女にぶっちゃけて言うと一目ぼれしてしまったのだ。

 彼女が件の事件の謹慎から復帰の配信を行うといったとき、すぐに配信を見に行ったのを覚えている。

 彼女のアカウントで投稿されている過激な内容の動画の数々と違い、ライブ配信で話す彼女は、美人で純真無垢な存在だった。
「なんで、あんな内容の動画を撮影してるの?」と聞かれたときに「私ね。たくさんの人に注目される存在になりたいの!アイドルみたいに!!社長がああいう動画を撮れば、いっぱいの人に注目されるって言ってたの!!」と明るく答えていたのを思い出す。

 無邪気ゆえに危うく、純粋な彼女に惹かれたのは僕だけではないようで、彼女にはそれなりのファンがいて毎日投げ銭も飛び交っていた。

 そんな中、例の配信の日がやってきた…

 いつも配信をしている部屋ではなく、その日の配信はなんと浴室で開始された。

「今日はね!配信で実験をやってみようと思うの!!」

 そういう彼女の後ろには浴槽があり、そして、その前には大量のパイプユニッシュとガスマスクがおかれていた。

「この間、養豚場で豚の着ぐるみを着て、一日豚と生活する動画があったじゃない?あの時にお世話になったところから、豚さんを丸々一頭もらったの!それでね、私、豚さんを標本にしてみたくて、今から豚さんをパイプユニッシュでとかして骨だけにしていくんだ!!」

 配信を開始して、すぐにそう話す彼女に我々ファンは「またそんな奇抜なことをやって…」とか「薬剤をたくさん使うなら体調に気を付けてね!」なんてコメントをしていたが、奇抜なことはいつも動画でだけで配信ではやらないはずなにと違和感も覚えた。
 同様なことを思ったリスナーもいたらしく、いつもと様子が違うけど、どうかしたのか?という内容のコメントもいくつかあったが、そんなコメント欄には目もくれず、彼女は浴槽に次々とパイプユニッシュを流し込んでいく…

 いつもは、コメントと必ず対話をする彼女だが、今日はコメントは見ずに“豚を骨にする作業”に没頭しているようだ。

「すごーい!本当に溶けるんだ!!」なんて無邪気なことを言ったり「匂いがすごくなってきたから、ガスマスクつけるね」といってガスマスクをつけたりしながら、黙々と浴槽にパイプユニッシュを注ぐ様子が垂れ流されていた。

 浴槽の中身が一向に映し出されないのに疑問を感じたリスナーが「もしかして、豚じゃなく、人だったりする?w」なんて冗談半分でコメントをしだしたころ、彼女は不意に画面に近づいてコメントを読みだした。

そして…
「はぁ、そんなわけないじゃん」と我々ファンが一度も聞いたことがない冷めた低い声を発した。

 どんな不謹慎なことをしていても、いつも明るく無邪気にふるまっていた彼女からは、想像できない声色と反応にコメントが停止していると…
「ごめんごめん!冗談だって!!」といつもの調子で彼女は話だし「ちゃんと豚さんだよ!でも溶けてる様子を映すとBANされちゃうじゃん!!」とカメラに向かって大げさなポーズをとり、作業に戻っていった。

 そして、画面上に映るパイプユニッシュがなくなった後、彼女はガスマスクをしたまま、再び画面の前に戻ってくるとコメント欄を見ながら雑談を始めた。

「私ね!今度CMに出ることになったの!!これでまたアイドルに近づけるかな??」
「いつもは、ちょっといろんな人に怒られちゃうような動画ばっかりだけど、いつか歌って踊ったりする動画も出したいなぁ」

…しばらく間、そんな他愛もない話を彼女がしていたのを覚えている。

 そんな話をした後、彼女は急に立ち上がって、浴槽の中をのぞき…
「ふぅん。こんなもんか。」といって無言でカメラに近づき、配信を停止した。

 突然のことに、コメント欄も騒然としたが、彼女が配信を再開するわけでもなかったので、リスナーは徐々に解散していった。

 異変があったのは、翌日だった。毎日配信していたはずの彼女が配信をしなくなったのだ。

 そして3日後、彼女は長年夢見ていた「有名な存在」になった。「美人でインフルエンサーの殺人犯」として。

 彼女があの日の配信で溶かしていたのは、豚ではなく、人だった。
 彼女は事務所の社長を殺害し、自宅でその死体を処分しようとしたのだ…

 だが、死体は完全に溶かすことができず、そしてパイプユニッシュを使用しすぎた結果、部屋から薬剤の匂いが漏れ、不審に思った隣人が通報したことにより、事件が発覚したのだ。

 彼女が起こした事件は、彼女のキャラクターと「社長に迷惑系を演じさせられていて、心が限界になった」という彼女の動機と共に世間をにぎわせた。

 一部報道では、彼女のマネージャーは「あの配信をしている最中に彼女と打ち合わせをしていた」という証言も残していることから、えん罪ではないかという声もあったが、物的証拠と、配信アーカイブが決め手となり、彼女の犯行だという事実は覆らなかった。

 そして「あの配信」は「伝説の配信」と呼ばれるようになった。

 ただ、僕たちファンは形容しがたい虚無感に襲われた。
 それは、毎日一日の終わりにあった彼女の配信が、あの無邪気だけど少し危うい姿と無垢な笑顔が見れなくなったからだ。

 事件からしばらくたって、空虚な毎日になっても、残念ながら日常は続く。
 今日の終わりにせめてもう一度彼女の動画を再生しよう。

…そう思って、スマホで動画アプリを開いたとき、ふいにインターフォンが鳴った。
「はーい」といって扉を開けたときに、僕は声を失った。
そこにいたのは、あの日の彼女と同じ格好をした、ガスマスクの女だった。

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連続殺人事件の可能性も!?都内で男性の失踪が相次ぐ

 警視庁は今朝、この1週間にわたり、都内で男性の失踪が相次いでいることを発表した。
 失踪した男性は、いずれも20代後半から40代の男性であり、警視庁はそれぞれの男性に関係性がないことから、無差別の殺人事件も視野に入れて捜査中である。

 失踪した男性の部屋には、玄関のドアの鍵などが開けられた形跡はないが、スマートフォンなどが入口付近にあることから、屋内から何ものかによって外へ連れ去られたのではないかという見解が警視庁からは発表されている…







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こんばんは🌃
IRIAM新人ライバー
古書店店主で幽霊の夜野 廻です。

この話は、2024年8月に行った配信でリスナーさんから意見をもらって書いたものです。

最初は大学生が怪しいバイトをすることになり、怪異に巻き込まれるタイプの怪談を書く予定だったのですが…

夜野の「バイトでどんなことが起こると怖いと思いますか?」という問いに…

とあるリスナーさんの「パイプユニッシュで死体を溶かすのって怖くないですか?」という発言に、夜野が「何リットルあったら、人ひとり溶けるんですかねぇ??」という会話が始まり…

事務所の後輩ライバーさんの「え?私配信で今度試しますか??」という鋭いジョークで枠が一通り盛り上がったことがきっかけで、急遽方向転換をし、リスナー視点で進む、配信者と伝説の配信に関する話になりました。

…ちなみに「望月ヒカリ」という名前もリスナーさんが考えたのですが、この話は、よく読むとヒカリちゃんの正体に少し近づく描写があります。

よろしければ、みなさんも考察してみてください!

さて、夜野はこのようなリスナーさんと話しながら文章を書く配信や、IRIAMという配信アプリでは、あんまりお目にかからない様子のおかしい企画などを行っているライバーです!

深夜帯に配信していることも多いので、寝る前の時間つぶしに是非遊びに来てくださると幸いです!

皆様のご来店、お待ちしております!!

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