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金魚鉢

ながれるながれる、 さらさら、さらさ。 夕闇鼓笛、 赤の提灯、歌うおと。 夜市が笑う。 いつもとちがう。 あの娘も笑う。 いつもとちがうね。 きっとそうだね。 だってもう。 暗くなってしまったから。 太鼓が響く、灯のたつ矢倉。 あの灯りから離れたら、 僕たちはもうわからなくなる。 君はだれ。 僕はだれ。 僕たちはもう、戻れない。 ああ、 空も夜も何も彼も、 ここがどこかも。 今が何時かも。 彼岸の花が咲いている。 此岸に骨が哭いている。 夏の終わりは

    • 聞こえない、音楽。

      言葉は遠く、夜に寝かせて。 確かに聞いて、歩いて摘んで。 遠くに閉ざしたひかりとかげを。 あなたに結んでとかしてきえて。 時計のはりが囁く声と、 夕日に裂かれる星の声。 夜の向こうのあなたの窓に 小さな祈りを、 そして叫びを。 つめたいのみもの 薄れる日差し 夏の夕暮れ 影、帽子。 たわがれどきをのしのし歩く、 青い音楽。 子供の遊び。

      • 夏の宇宙と。

        夏は過ぎる。 土のにおいがする。 林の中を舞うように魚が泳いでいる。 蝉が、 何かを叫んでいる。命といっしょに吐き出しながら。 五条の光は夏を多角形に彩り、 空の色彩は過去と夢の万華鏡。 魚が泳ぐ。 僕をまた、笑うようにすり抜けて。 ちゃぷり、頬に温い音と波が。 夏の宇宙は 水紋の、薄暗がりの影のなかに。 水の底に。

        • 青の底から。

          どうやっても閉じることのできない瞼を諦めて、 光が踊る水面を見上げるの。 いつかあの青から落ちてきたあなたは たくさんの泡とさざ波を残していったけど ここはもうずいぶんと暗くなってしまった。 むこうにある規則正しい光の群は 多分惑星に向かう駅のホームだよ。 期待はいつも軌道を外れ 夢は砂のなかで見失う 月の河もずいぶんとくすんでしまったけれど 祈りの手は離すこともできずに 少しずつ灰になるのを今日も見てる。

        金魚鉢