蒼の封印感想「太古の空よりも緑よりも誰よりも色濃く。」
「#マンガ感想文」という素敵なお題を見つけたので、今回は私の大好きな漫画家、篠原千絵先生の「蒼の封印」という作品にスポットを当てて語りたいと思います。
蒼の封印は篠原先生の作品の中でも結構異色な部類だと私は思っていて・・・。数々の魅力的なキャラクターが登場する篠原作品ですが、真っ当なヒーローどころかヒーローとヒロインを掛け合わせてもここまでダークヒーロー的立ち位置のキャラクターの魅力が上回っていると感じたのは後にも先にも蒼の封印だけなんですよね。
私は不器用な愛が好きです。
愛する者に躊躇いなく情熱的に愛の言葉を囁くよりも・・・滅多に言葉を口にしなくとも、つかず離れずの距離でずっと見守っている様な、そんな感じの愛が。
「蒼の封印」に出てくる高雄もそんな不器用な男でした。もし読んできたマンガ史上、一番好きな不器用な男キャラは誰かと問われれば高雄と答えるでしょう(いつもポケットにショパンのきしんちゃんとどちらにしようか一瞬迷ったけれど)。
※前置き長くなりました。以下、蒼の封印の粗筋です。
両親と兄と共に、幸せな生活を送っていた16歳の女子高校生、桐生蒼子は転校初日から身体に違和感を覚え、体調不良に悩まされる。更に転校してすぐに、蒼子を襲った男が消え、先輩が消えるという怪現象が起こってしまう。そんな折、蒼子を執拗に狙う男が現れる。男は西園寺彬と名乗り、「西の白虎」としてかつて人を脅かしていた人食い鬼の長、「東の蒼龍」である蒼子を殺しにきたと告げるのだった・・・(※ほぼ文章はWikipediaより引用)
太古の時代、世を支配していたのは鬼(鬼門)でした。鬼門は人を喰らいながら生活を営んでいたのですが、何だかんだ色々あって滅ぶことになってしまいます。自分を人間だと思い込んでいた蒼子は鬼門を復活させようとする「何者」かによって、現代に蘇らせられた存在だったのでした。自身の宿命を知り、苦悩し、人間として生きたいと願う蒼子。蒼子を最初は殺すつもりだったのに、彼女のこの世の者では無い様な美しさ(蒼子は鬼の長ということもあり、かなりの美形)に魅せられ、心を奪われていく彬。蒼子と彬は互いに敵対する種族の血が流れているのですが、行動を共にする内に血を超えて愛し合うようになります。共に生きようと意を固めた二人。その決意は互いの一族をも巻き込み・・・そして鬼と人の存亡をかけた壮絶な戦いが繰り広げられるにつれ、蒼子は更に深く自分の過去を知ることになるのでしたーー。
(※以下に述べた感想につきまして、核の部分はバラさない様努めましたが人によってはネタバレと感じる部分が出てきます。その点ご留意いただけましたら幸いです)
蒼の封印を読んでる最中も、読み終えた後も、私は2つの点で悶々としていました。
1つは共生について。「鬼の存在価値」が分ってもらえる時代が来たとて、人類が降伏するとは思えないんですよね。自然を破壊し尽くしても尚、あらゆる科学的な手立てを講じて鬼を駆逐しようとするか・・・もしくは大昔の村落で行われていた様に、人身御供を用意して差し出すのか、それとも・・・。想像するだけで背筋が寒くなって来ますが、鬼達も食料が無いと生きては行けない訳で。人類にしてももう本当にどうしようもない状況になってでも尚、それでも生き延びたいのなら「過去」に回帰しかないのでは・・・。
太古の時代から世界は「何かの犠牲の上で」成り立っていて、それは不変のサイクルだからこそ鬼も人も何千年も争って来た訳です。私は人間なので鬼がこの世に居なくて本当に良かったと思います(もし道ばたで出くわしたら瞬殺されることでしょう。武器を持っていても敵いそうにありません)。昔は居たのかもしれないし今もひっそりと存在しているのかもしれないけれど。人間の中にも鬼よりも鬼みたいなものが居ると思うけれど。ひぇぇ。
高雄達の言い分は尤もなんですよね。人間の立場としては堪ったもんじゃないですが。
2つ目は蒼子という存在について。生まれ変わりとは違うのに。頭からつま先まで、100%同じもので出来ているのに「高雄、本当にそう思うの?」と。
しかし高雄が最後に告げたあの言葉も、確かに頷けるのです。だからこそ、事実が切なく突き刺さってくるのでした。もう正直に言ってしまいますが、私にとっては蒼子と彬よりも高雄の方がずっとヒロイン兼ヒーローです。(まだ若いということもあると思うけれど、兄弟達が近くに居ようが蒼子に対して熱い愛の言葉を惜しみなく注ぎ己の欲望に忠実な彬よりも、気が遠くなる様な大昔に発された言霊を胸に、野望を果たそうと想いを秘めて一人だけを見つめてきた高雄とじゃ高雄の方がずっと・・・)出会った男女が早い段階で惚れ合うのは篠原作品あるあるなのですが、蒼子は特に情に流され易いキャラクターでした。蒼子と彬が恋に落ちたことを私は「運命」だと言いたくありません・・・。
目的の為には手段を選ばず、冷酷で蒼子の裸体を見ても眉一つ動かさない(様に見える)高雄ですが、胸に秘めた苦悩・激情がふとした瞬間に垣間見えることもありまして・・・。そんな場面に出くわすと「高雄ーーー(涙)!!!」とならざるを得ない訳です(蒼子と彬もなかなか苦渋に満ちた禁断の愛だけれど、事実を知ってしまうと高雄の抱えてるものは彼等の比ではないと思わざるを得ない)。改めて読み返すと、なんて罪深い女なんだ・・・蒼子は。というか、気付くの遅。あのタイミングで気付くんかいな。つらい、つらいよ。あの子も、最後には蒼子のことを認めたから突き放したんでしょうね。愛の示し方が高雄と似ていて何かこみ上げてくるものがありました。
高雄が自分の血を引く者に語った言葉は涙無しには読めません(心の中で目から噴水を放出してしまいました)。あの場面が最初で最後でしたね。高雄が自然に自分の口から本心を語ったのは・・・。
いや本当、後半になるにつれて謎めいた高雄の感情にスポットが当てられていくのがたまらないんです。最初に述べた様に、私にとってここまでヒロインやヒーローよりもダークヒーロー的立ち位置のキャラクターに感情移入したのは後にも先にもこのマンガが初めてで・・・。ちなみに友人にマンガを貸したのですが、その子は高雄ではなく能動的な彬に心臓を打ち抜かれた様です(まぁ確かに彬も格好良いよねぇ)。月と太陽、では無いですが、彬が赤く燃える炎なら高雄は蒼く揺らめく様な炎ですね。二人共、色は違えど常にメラメラと炎を燃やしている印象です。
それにしても・・・篠原先生の頭の中を覗いてみたい。どこからあんな発想が湧いてくるのでしょうか。蒼の封印は日本の伝承を絡めた壮大な歴史と戦いのラブストーリーかと思いきや、DNAが云々等、なかなか科学的でSFチックな要素も絡んでいるのが面白いです(これは蒼の封印に限らず篠原先生の作品によく見られる特徴だと思います)。篠原作品で繰り広げられる人間ドラマ、そして登場人物が持つ哲学(特に悪人の立場のキャラクター)に触れる瞬間が私は本当に好きなんです。あと人体(特に手)がしなやかかつ美しい線で描かれてるんですよね。登場する男性(特に黒髪のキャラ)も、もれなく格好良くて惚れ惚れしてしまいます。高雄は黒髪長髪なのですが、是非とも短髪Ver.も拝んでみたい所です。そしてそして・・・願わくば、高雄の過去の話も読んでみたい。切実に・・・。
嗚呼、これ以上語ると本当に止まらなくなってしまう。核となる部分はバラさない様努めましたが、完全にネタバレせずに感想を述べるのって難しいですね。
蒼の封印について是非読んでみてくださいと万人の人に勧めたいのですが、蒼子と彬のエロチックなシーンが出てきたり、下級の鬼が人を喰らうシーン等、なかなかハードな描写も出てくるので・・・グロ耐性の無い方は自己責任でお願いいたします・・・読む際は心してページをお開きください・・・(笑)
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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