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昔の私よ聞いてくれ 大人も本当は泣き虫だ

フォロワーからレターが届いた。

「あなたがいつか出す画集に、昔のエッセイも載せてほしい」

画集というのは、私が最近書いている4コマまんがをまとめたもの。

年明けに参加しようとしている展示会に向けて、自分の画集とやらを作ってみようかと思い立った。

その話をラジオアプリの収録で話したら、冒頭のレターが届いたわけだ。

エッセイというのは、私が昔せっせと書いていた「優しいエッセイ」のシリーズのこと。

名前の由来は、「あなたは人を傷つけない優しい文章を書きますね」と言われたことがきっかけだった。

私にとってのエッセイ、つまりは日記の散文なんだけども、

それらはまるで古傷のかさぶたみたいなもので、

要はあんまり思い出したくない、ほろ苦い記憶の断片になっている。

ジメジメと暗い自己内省のリフレイン

今時、テキストの自分語りなんて、流行らないよ。

もうノンフィクションはまっぴらごめんだ。

そんな気持ちも相まって、明るい空想世界の4コマを始めたのだった。

最近、少しずつだけど、Instagramのフォロワーも増えてきた。

「イラストレーター夜くま」で絵の依頼を受けることも、有難く。

そんな矢先に、今更、昔の暗いエッセイを引っ張り出せって言う。

ひどい人だな。

でも、知っている。

その薄暗い湿気た文章を、いいねと、気長に待っている人がいる。

静かに、遠くで、そっと、

楽しみにしてくれている人たちがいる。

嬉しくて、悔しくて、泣きたくて、でもやっぱり嬉しくて。

「私はどうしても、文章から逃げられないんだな」と

半ば、諦めのような、溜め息。

最近、ずっと、溜め息ばかりついている。

仕事で失敗続きだ。

どうして1回やらかすと、大抵、尾を引いて、連鎖するんだろう。

地方特集で社長さんに取材したら、途中で

「君の質問は枝葉ばかりだ」と怒られた。

半泣きで、同席していた編集長にバトンタッチした。

後で編集長に「君のインタビューは自己満足だ。我々は顧客満足の質問をしなきゃいけない」と指導された。

今日はZOOM取材の事務局で、

初期設定で余計な項目に誤ってチェックが入っていて、

社長さんがZOOMに入れず、てんやわんや。

結局、開始が30分遅れた。

こんな日は絵を描こう、楽しみにしていたiPadを買って、

お酒を飲むんじゃなくて、

LIVE配信で雑談するんじゃなくて、

絵を描いて、癒されよう。

そう思っていた日に限って、連休に外出していたカバンに財布を忘れた。

ついでに、中に鍵も入っていて、へとへとで帰宅するも、締め出された。

あーあ。

ついてないな。

そして、私は今、文章を書いている。

文章に、慰められている。

こんな私。こんな文章。

「『青春漂流』であるエッセイが、今のゆる4コマに昇華されていることで、読者のあなたへの興味は何倍にも深まると思いました。ご検討ください」

別に、新作を書けと言われたわけでもないのに、やっぱり書かずにはいられない。

あの日、怒られた社長は取材の後、わざわざメールをくれた。

「さっきは失礼な言い方をして申し訳ない。

一方的に話してしまった。

もっと分かりやすく説明できるように精進します。

記事を書く時、分からないことがあったら、メールでも電話でも、

遠慮せずに連絡ください」

慌てて返信したら、続けて、

「ステージは違うけど、お互い精進しましょう。

返信はしなくて大丈夫ですよ」。

せっかくトイレで泣き止んだのに、それを見て、また泣いてしまった。

自分の会社の社員でもない、こんな若造に。

「せっかくだから、電話してみれば?」と不愛想な編集長が笑った。

トイレでイヤホン越しに聞いた、仲良しのお兄さんの弾き語り配信。

優しくされると、泣いてしまう。

連休中、しんどい溜め息を何度もつきながら、

何とか書いた記事を読んで、あれやこれや言われたけど、

最後は引き取って、添削して、ちゃんとした記事に仕上げてくれた。

今日のZOOM事務局の失敗後、デスクに戻ったら、

庶務のおばちゃん達が並べてくれたお菓子の中に、

編集長が置いてくれたお菓子も混じっていた。

編集長のくれるお菓子はいつも賞味期限が切れている。

小言を言いながら、最後はいつも短く「お疲れ」と言ってくれる。

そんな話を彼氏にしたら、

「良い人たちばっかりだね」って言われた。

付き合って2年目の記念日は台風で、

それでも、ずぶ濡れになりながら待ち合わせして、

「私が表紙の絵を描いた詩集が届いた」と見せたら、

雨でページがびしゃびしゃになっていた。

ついてないことばっかりで、落ち込む私を見て、

彼はしなしなのページを丁寧にめくって、

最後に記載されている私の名前を見てくれた。

「俺がこっち買い取るから、もう1冊残ってないか、聞いてごらんよ」

依頼してくれた友人に連絡したら、快く、もう1冊送ってくれることになった。

「綺麗な色だね」と言ってくれた君も、優しい人だ。

久しぶりに文章を書こうと思って、お風呂に入って、

シャワーを浴びてる すっぽんぽんで思い出した。

私が昔、書いた詩のこと。

ずっと忘れていて、思い出せずにいた詩を、思い出した。

「昔の私よ、聞いてくれ。

大人も本当は泣き虫だ。

泣くし、負けるし、怒られる。

それでも頑張る。一緒だ、君と」

パソコンのキーボード叩いていると、1階から両親の会話が聞こえる。

「大丈夫かしら。あの子、また落ち込んでるみたい。

難しい仕事を任されてるのね」

「それだけ期待されてるってことだ。良かったな」

ねえ、昔の私。

聞いてる?

ありがとうね。頑張るよ。

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