『私の芸術活動』ー小説ー

『私の芸術活動』ー小説ー

私の勇気はちっぽけだ〜part3〜

ーーーーーー夢と現実の狭間ーーーーー

「詩津ったら、立派な大人になったでしょ」
お母さん?お母さんなの?
「そうだな。成長したな」
えっ、お父さんもいるの?
「あなたも、もう少し…長く…」
どうして泣いているの?お母さん。
「まぁまぁ、落ち着いて」
「…だって…詩津の…晴れ着姿…」
「分かった。分かったから」
「…うぅ…うぅ」
「楽しみだな」
「…うぅ」
「あとは頼んだぞ。」
そっか。私、お父さんが入院している
病室で、看病に疲れて寝ているんだ。
快適な空間で心地よい日光を浴びて、
柔らかい椅子に座り、ちょっと硬いのが
残念な机の上で腕を組んで寝ているのね。
それならもう、そろそろ起きなきゃ。
お父さんとお母さんの顔を見たいから。
お願い。目を覚ましてね、私。
「…しづ。しぃづぅ。起きて!」
「ふぁっ!?」
「わっ!威勢のいいお魚っ!」
「──と、ここはどこ?」
病室じゃない。それに狭い。
なんで本棚が両サイドにあるの?
それに、この天使みたいに可愛い子、誰?
奥の人は、ずっと読書してるみたいだし。
「どこって、大方の部屋よ」
「大方の部屋?」
相撲か何かの控え室?
いやいや、そんな訳ない。
じゃ、旅館の部屋の名前とか?
大方、中方、小方的な部屋なのかな。
それにしては、変わった旅館ね。学校みたい。
「そうよ。ほら、あいつの」
黄色に光る輪っかと白い羽を生やした
心優しい雰囲気を漂わせる天使が、
刺々しい耳を持つ忌々しい悪魔を指さした。
「あぁ見えて、めっちゃ心配してたのよ」
「えっ!」
怖っ。私をどうするつもり。
生きたままモテ遊ぼうとしていたの?
「そんなに怯えなくても、大丈夫」
「いや〜」
あの目は明らかに、何かを企んでいる目だわ。
「それより、顔、失礼するね」
「はいぃ」
加護の力を強めるおまじないなのかな。
絹糸の繊維が直接、肌に触れる感触が伝わる。
「辛かったのね」
「うん」
私、頑張ったから。
頑張ってここまで来たんだから。
これからも、もっともっと頑張るつもり。
だから、私…
「…帰りたいの」
見知らぬ土地に一人で4年も過ごすなんて、
やっぱり私には無理。向いてない。
「──詩津」
「…何?」
「頑張ったね」
「うっ、うぅ…」
卑怯だよ、その言葉。
「…くすん」
「よしよし。いい子いい子。」
天使が背中を擦る度に、
今まで溜め込んできた感情が
全部、解放されていく感じがする。
「うわ〜ん、うわ〜ん…」
止まらない。止められない。
こんなにも泣いたのは、いつぶりだろう。
「大方。ティッシュは?」
「はいはい。どうぞ」
「潤いたっぷりポケットティッシュって、
 女子力高すぎでしょ」
「ありがとう」
「褒めてないわ!」
「はいはい。あとは頼みましたよ。湖音」
「言われなくても、わかってるっつーの!」
「うふふ…うふふ」
なんだろう。なぜだか、笑いたくなる。
「ど、どうしたの、詩津?」
「い、いや…その…二人が…面白くて…」
「そ、そう?なら、良かった」
「うふふ、くすん…うふふ、くすん」
やばい。感情が入り交じってる。
もう訳わかんないぐらい、泣いて笑っている。
「また、いつでも頼ってよ。待ってるから」
「…うん」
「じゃあ、今日は一緒に帰ろっか」
「うん!」
これもまた夢なんだろうか。
こんなにも幸せな感情に包まれたのは、
あの日以来だ。むしろ、あの日よりも
幸せな時間を過ごしている気がする。
「大方またね〜!」
「お先失礼します」
「二人とも、行ってらっしゃい」
──カチャッ
こうして、私の学生生活が始まった。

ーーーーーーーー帰り道ーーーーーーーー

華やかな石レンガが、円を描くように
敷かれたロータリーの横を2人並んで通り過ぎる。
中央に植られている木は、ソメイヨシノ。
創立70周年の記念樹として、
今年に入って植えられたと聞いている。
それまでの記念樹はユズリハで、
去年の大型台風で折れて倒れたとか。
「ねぇ、詩津」
「何?」
「家は、校門出てどっち?」
「右」
「右ね」
そういう湖音こそ、家はどこなんだろう。
一軒家なのかな。それともアパート?
いやいや、高級マンションに決まってる。
だってさっきから、通り過ぎる男子の目が
明らかに湖音の方を見ているから。
「ねぇ、詩津」
「何?」
「詩津は〜、強がりさんでしょ?」
「そ、そんなこと、ないよ」
私、強くないし。弱いし。
見栄を張れる程、勇気もないし。
「そうかな〜。じゃあ、素直な子」
「す、素直でも、ないよ」
「えへへ。なら、正直者だね」
「正直者…」
湖音の言う通りなのかもしれない。
人に嘘つくのも申し訳ないし、
自分の気持ちに嘘をつきたくない。
でも、本当のことを言えば、
相手を傷つけてしまう。
だから、相手を傷つけない言葉を考えて、
自分の気持ちに嘘をつかないようにしていた。
そして気づいた時には、自分の事を表に
出せなくなって、皆の会話に入れなくなった。
孤立したんだ。私。
「──どうしたの?詩津。暗い顔して」
「ううん。何でもないよ」
「そう?じゃあ、私こっちだから」
「えっ?私もそっち」
「あれ?じゃあ、私ここなので」
「えっ?私もここだ」
「あら?じゃあ、私この部屋よ」
「えっ?私も隣の部屋だよ」
「わっ!」
「わっ!?」
まさかの守護天使アイドルの湖音が隣の部屋?
ご近所?いやいや、お互いにマンションなんだし。
でも、隣か〜…隣!?やばい。どうしよう。
「そんなことって…」
「やったね。詩津。私たち、お隣同士!」
「わっ、わ〜(棒)」
ドッキリ?だとしたらカメラはどこ?
やばいやばいやばい。頭が混乱してきた。
落ち着け、詩津。静まるのよ。
冷静に、深呼吸して。すぅ〜はぁ〜。
「じゃあ、困ったら呼んでね。詩津。
 いつでも駆けつけるから」
「うん。ありがとう」
──ガチャッ
湖音がドアを開き、片手を振りながら中へ入る。
私も少し遅れて手を振ると、ドアがそっと閉じた。

※この物語はフィクションです。

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【あとがき】

ここまでご愛読して頂き、
誠にありがとうございます。

勢いで書く癖は当時のままのようです。
目の前に見える場面を追いかける度に、
再生ボタンを止めて、一人一人に台詞を
吹き込み、話の流れを作っていく。
これが私の小説の書き方の一つです。

まだまだ拙い表現があると思います。
これからも温かく見守ってくれると幸いです。

それでは、今回の作品に登場した人物を
【人物一覧】に付け足して、終わりますね。

【人物一覧】
「今回の登場人物」
鈴村 詩津(すずむら しづ)
・芸術学科の1年生。
・篠原湖音とお部屋がお隣同士。
・小説を書いていた。
篠原 湖音(しのはら ことね)
・芸術学科の1年生。
・鈴村詩津とお部屋がお隣同士。
・守護天使のアイドル。
・周りに合わせる協調性が高い。
大方 良信(おおかた よしのぶ)
・芸術家の先生。
・気遣いの出来る大人。
・鈴村詩津と篠原湖音がいるゼミの先生。
鈴村の母(すずむらのはは)
・娘を自慢に思っている。
鈴村の父(すずむらのちち)
・病院に入院している。

「前回までの登場人物」
鈴村 朔玖(すずむら さく)
・私の溺愛の弟。
・パソコン関係に強い。
結依(ゆい)
・大のドラマ好き。
・紗知とは、長い付き合いのある間柄。
紗知(さち)
・アイドルオタク。
・結依とは、仲良し。
拓磨(たくま)
・困っている人を見ると、放っておけない。
魁斗(かいと)
・拓磨の友達。
堀橋(ほりばし)
・芸術学科の最高責任者。
里美(さとみ)
・鈴村詩津の高校の友達。
・地元の会社に就職。

当たり前のように思える毎日に、"同じ日がないこと"を知った。きっと、あなたのその行動にも、"同じ行動はない"でしょう。"かけがえのない毎日"と"あなたのその何気ない行動"は、たった一度の出来事なのよね。ありがとう。