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Photo by
mioarty
クオンの実
白い墓の傍らでひっそり
クオンの実を食べた
互いの心臓を明け渡すように
ふたりきり分け合って食べた
ヒカリの鳩たちが
そぞろに誘われて飛んでやって来たので
星の破片ほどの
クオンの実をあげた
ヒカリの鳩たちは
羽根を脱ぎ捨てて
人の形になったり
鱗が生えて魚になったりした
ふたりは長い長い間冷えきった唇を重ね合った
ずっとずっとはなればなれだったから
しだいにふたりのからだは
ひとつの木となり
クオンの実をたわわに実らせた
とおい昔に繋がっていたであろう星座が消えた
星の息は絶え絶え星々はみんな赤い赤い泪を流した
人間たちは流星雨だと騒ぎ立て
星の泪を眺めながら
また長い長い間冷えきった唇を重ね合った
循環する世界が止まった時
わたしたちはひとつの詩になる
留まれない風の皮膚は冷たく
玉響に寒雷が優しく空を突き破った
白いあばらのような形の雲が
悲しげに揺蕩ってちぎれた
愛という言葉がなくなった場所で
わたしたちはひとつの詩となる
いつかクオンの実の森ができて
人々はだあれも居なくなる
みんな疲れ果て愛し合って
ひとつのクオンの木になるのだから
四季は辛うじてあり
霖雨がささめき合い
水浸しの夜明けには
透き通ったパレードが響き渡る
雨はこどもだから
よく歌ってよく笑ってよく泣く
おだやかな亡霊よ
冬の夜空のまほろばを越えたところで
やっと逢える日を待っています
あなたはヒカリの奥でよく見えないまま
待ち遠しそうにわたしに手を振って
待っていてくれるはずだから
ふと紅茶をこぼし青いスカートを汚して我に返る
此処はまだ旅の途中だった
わたしはわたしを生き抜いて
生まれ変わったからだで
あなたの手や唇や髪に
触れてみたい
そこにほんの少しの
ぬくもりを分け合えたらいい
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