ふかふか
昔にあった
持っていたはずの尻尾を振って
それを好きだと言いたいのは
言いたくないのは
顔と顔とが九センチ
手と手の隣の吐息の隣
触れない 振れない 体の形
体の形の
名残の温度を
あなたの引っ張る言葉の跡の
小さな母音 それひとつ
持っていたのかもしれない声を
聴いていたのかもしれない耳に
光っているもの、揺られているもの、
粒くらいの塊の
理由を知るの、あなたの視線
見えているのは光だけ
見えていくのは光だけ
生まれるまえの暗がりで
なくしてしまった尾のことも
生まれたあとの明るみに
ひらいてしまった穴のことも
あなたは隣
隣の場所に
知らないはずの夢を見て
知らないはずの風景に
よく知る体の形を見せて
あなたは言わない
言わない声の
行くは戻るの
暗がりの
わたしもよく知る温度の名残
言えないあなたの夢までを
わたしは抱けない
抱けない眠り 眠りに落ちては
気づかない
懐かしいのは 水の奥
やさしいことは ふれない
ふれる
風よりも
些細にすぎる塊の
体のあとに残るもの
わたしのあとに残るもの
あなたの跡にないものを、
つめ、きば、ことば、つやつやの、
毛皮の奥の心臓の
よやみの声の
やさしい裂け目
もう塞がれた感覚を、
あなたの柔い安寧を、
いつかわたしがふれるなら、
も一度あなたにふれるなら。
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