絢のだいしゅきホールド大作戦(『愛でいいよもう』こばなし)
だいしゅきホールドなる「否応なくイラっとさせられる言葉ランキング」20位以内に入っていそうな言葉を知った。
そういうどうでもいい情報で俺の決して多くない脳の容量を無駄に埋めてくるのはたいてい社長かバカ後輩だが、今回は後者だ。
「しゅき」をアピールするには実に効果的な手段なのだという。
……ほぉーん。
「しゅきの気持ちを伝えるにはこれがいちばんです」
……ふぅーん。へぇ。そう。
まぁボケナス後輩の言うことなんて話半分、いや八分の一くらいにしか聞いてませんけど。
別にアピールしたいとか思ってませんし?
ただ木龍の反応を見てやろうという好奇心ですけど。
まぁまぁ、俺はともかく、可愛い恋人のだいしゅきホールドで木龍の下半身が暴走しないといいんですけど。
「なにしてるんだ」
うっすら予想はしてたけどな、そのうすーいリアクション。
「……なにって」
だいしゅきホールドですけど。言えるか。
「動きにくいんだがな」
うごきにくいんだがな?
イイ感じに盛り上がってきたタイミングでよしきたと木龍の腰に脚を絡みつかせてみれば、返って来たのはこの反応。
まじで分かってない顔してる。むっつりきょとん顔っていう新たなジャンル。どこに需要があんのか分かんない。……俺?
母猿にぶら下がる子猿みたいな格好のままぶすっと黙っていると、よく分からんがまた何やらヘソを曲げたんだなと雑に察したらしい木龍が、ぐいっと俺の身体を引っ張り起して自分の上に座らせた。
引き結んだ口があっけなく開いて声が出る。おいやめろ急に角度を変えるな。額を合わせてくるな。そんな目で見つめるな。俺はちょろいんだから。
「くっつきたいならこの方がいいだろう?」
……俺の渾身のしゅきは受信できねーくせに、この野郎。
悔しいので口も身体も全部ぎゅうぎゅうくっつけて窒息しやがれと思った。死因俺。本望だろ。まぁこれだと俺の死因もお前になるわけだけど別にいいよ、本望だし。
一生ホールドしてやる。縦でも横でも同じだ。絶対に離してやらねーからなという俺の鋼の意思は。
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