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幸せの黄色いハンカチ?(1人目のAさん)

外来看護師から連絡がありました。
63歳男性、右足蜂窩織炎、入院必要、無保険。
急いで外来に向かい、本人と面談。

にっこり笑うAさんは、どこか元野球選手の衣笠さんに似ていました。
蜂窩織炎とは菌が入って感染を起こしている状態で、ほっておくと壊死をおこすこともあります。
Aさんに再度入院の必要と、保険や医療費について援助することを説明しました。
一般的にはこういうケースの場合生活保護申請となります。

病室に移ったAさんに今までの生活歴を確認。
九州で育ったAさんは30歳の時、結婚して婿養子に入ります。しかしそこでの生活が窮屈でたまらなくなり離婚届に判を押して家を出ました。
以後、各地を転々とし、現在は古紙回収で生計をたてています。奥さんとは家を出て以来連絡は取っていません。

年金はないということでしたが、話を聞く限り受給資格がありそうです。
委任状をもらい年金事務所に確認に行くと、月額約8万円もらえることが分かりました。しかも60歳まで遡って。

こうなると生活保護ではなくまずは国保加入手続きが必要になります。
ところが住民票は九州のまま。もちろん保険料なんて払っているはずがありません。まずは当市への転入手続きをすることにしました。
転出届を送ってもらうため住民票のある市役所に連絡しました。
すると意外な返事。
「Aさんの転出を行うと世帯主が変わりますがいいんですか」
つまり世帯主はAさんのまま、離婚届は提出されていなかったのです。
とりあえずAさんに確認。
「今さらどうにもできない。このまま手続きしてください」
一度私から奥さんに連絡をとってみてもいいですかと聞くも、やめて欲しいとのこと。
実家の住所、電話番号、家族の名前、生年月日は手帳にちゃんと控えているAさん。
残した家族への思いはまだしっかりあることがうかがえます。

本人意思を九州の市役所に説明し、病院宛に転出届を送ってもらい、当市への転入、国保手続きを行いました。
病院の支払いは年金が出てからということに。

約2週間の入院で退院し、Aさんはまた元の古紙回収にもどりました。
元気になったAさんは、時々回収で拾った本を持ってきてくれます。

その後、年金が振り込まれたと報告と支払いに来てくれました。
約3年半分なのでかなりまとまった額になります。
これで生活大分楽になりますね、と聞くと、年金はほとんど九州の妻に送った、今まで迷惑かけたお詫びだということです。
受け取った奥さんたちはびっくりするでしょう。
お金だけではなく、Aさんが元気に生活していることを知って。
顔見に行ったらいいのにと言うと恥ずかしげに拒否するAさん。

願わくば幸福の黄色いハンカチの結末となることをちょっと期待したのですが。

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