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住民票登録がない(13人目のAさん)

「元気にしてる?」
突然電話が入りました。
電話の主はAさん。
78歳の女性。
「今日は何の日か知ってる?」
まるでラブラブな会話。

「5年前の今日、ここに入居したのよ」

もうそんなになるんですね。

Aさんが当院に入院していたのは5年前。無保険で身寄りなし。
若いころに水商売をしていて、羽振りがよかった頃の蓄えで十分生活ができでいたので、無保険で病院にかかっても自費で払っていたようです。
以前にも一度保険加入の話をしたことがありますが、ウン千万円のお金があるから、と全く聞く耳持たずそのままになっていました。

ところが今回はそうもいきそうにありませんでした。
下肢筋力低下により歩行困難。今後は車いす生活が必至。
運悪くそれまですんでいたアパートは取り壊し。
退院後の住居も探さないといけない状況。
お金は全く問題ないと豪語していたAさんでしたが、貯金を聞くと実際はわずかしかありませんでした。

これからはちゃんとしようよ、と説得し国保に加入する手続きを始めました。
ところが手続きしようといろいろ聞き始めると意外なことが判明。
じつはAさんが当市に来たのは50年前。当時から住民票も移さずそのままになっていたようです。
おまけに本名は全く違う名前。
水商売をしていたときからいわゆる源氏名で通していました。
当院のカルテも源氏名のまま。
おまけに年齢も10歳さばをよんでいました。

今までは自費診療だったから、名前や年齢が違っても保険請求することがなかったので問題はありませんでした。
しかし国保に加入するためには住民票を移し、加入手続きが必要。
住民票異動の転出届を送ってもらうために、昔の住所の役所に電話して申請用紙を送ってもらいました。
用紙に記入し返信用封筒を同封で郵送し返送を待ちました。

すると意外な電話がかかってきました。
Aさんの申請書に書いていた住所は今はもうありません。
Aさんの記録もありません。
つまり住民票登録自体がないのです。

当市の担当課に連絡し、こういう場合どうしたらいいのかと相談すると、戸籍謄本と附票を持ってきてくれたらいいという回答でした。
「戸籍の附票?」
初めて聞きました。
調べると、いわゆる住所の履歴で、住民票などを移すとその履歴がのっているらしいのです。

幸い本籍は覚えていたので、謄本と附票を送ってもらい、無事転入手続きと国保加入手続きができました。

さらに幸いなことに、当院の前に入院していた病院から、身体障害者手帳の診断書ができたと連絡がはいりました。
等級は2級。
これで医療費の自己負担は不要です。
しかし・・・
代わりに受け取りにいってまたまた困ってしまいました。
源氏名のまま。
しかもさばを読んだ生年月日。
だめもとで事情を説明すると、いいですよ、と簡単に直してくれました。
そんなものなの・・・?

おまけに市役所に提出に行くと、前年度の所得証明を出してくださいといわれさらに困りました。
前年度の所得は、前年度の住所地で証明をもらわないといけないのですが、Aさんが当市に住民票異動したのはつい先日。
それまでは「住所」、いや「住民票登録」のない人でした。
これも住民税課で事情を説明すると、何とか証明を出してくれました。

その後介護保険を申請し、同時進行で住居探し。
保証人不在で入居一時金は分割、年金もないためいずれは生活保護申請といった特別の事情もあります。
たまたま新しくできた有料老人ホームがあり、諸事情も了承して入居をOKしてくれました。
認定結果を待って無事入居。

それが5年前の今日だったのです。
Aさんにはいい勉強をさせてもらって、こちらも感謝です。
入居してからも時々連絡をくれていたのですが、今日のはうれしい「記念日電話」でした。

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