見出し画像

これから大学生になる人向け 史料の調べ方

追記 03/23 22:39
あたしは大学での研究者ではなくただのIT系サラリーマン。だけどどこかの大学に属してちみちみ研究している物好き。
------
あたしの専門は史料を使った男性装束の研究。
装束=衣裳って見てくれだけではない。
結局それらを着用する人の官職、場所や儀式の意味などを知らないと表層的なものになってしまう。
そこの部分をやるかやらないかで「研究」か「物好き」かの違いが出るのだと思う。

それはさておき早速、史料の調べ方について。

【古事類苑は使え】


日本史をやっているといろいろな用語が出てくる。
そして儀式や生活習慣、しきたりが出てくる。
そこで役立つのが『古事類苑』。たいていの公立図書館にもあるし、日本史の学科がある大学の図書館には絶対ある。

これ、習俗全般の百科事典と思ってもらってよい。
そして何がよいかって、その事柄に関係する史料が掲載されている。
史料探しのツールとしてはかなり有能。特に公家の日記はふんだんに引用されていて題名と記載年月が含まれているのでそこだけでも十分に利用価値がある。
そこから引っかかる日記を参照することもできるし、この本を手がかりとしてさらに広く史料集めも可能になる。

【自分の専門とする時代の国史大系は手元に置いとけ】


特定の人物ではなく、あたしのように時代全般や特定の出来事・儀式や生活習慣などを専門とする場合。

『国史大系』は手元に置いとけ、と言いたい。

普及版があり分冊されていて意外と安い。そしてメルカリなどによく出ている。
高校生時代に漢文が好きで好きでたまらん、という奇特な人以外、読解しなくともいい。
ただ眺めるだけでも、引っかかるところがきっと出てくるはず。
『国史大系』は歴史書のほかに、律令関係とそして「公卿補任」があるので関係しそうな部分はコピーすること。

【群書類従は買え】


群書類従は便利な本。おおよその必要な情報が集積されている。
部立てもされているので必要な部分は購入してパラパラめくるだけでもネタ集めになる。
何が書いてあるのかわからない場合には『群書解題』を読めばその書物の概要がつかめる。
群書類従以外でどうしても手に入らない場合以外を除いて、史料として利用する場合には可能な限り原典も読むことが重要。

【公卿補任は来歴確認】


国史大系にある『公卿補任』は公卿にとして補任された最初にその人物の官職位階が羅列される。そのためその人物がどのようなルートをたどってきたのかを確認することが可能。
いつにどの官職についていたのかなどを調べることができる。

【法律書は法律だけではない】


『延喜式』や律令の解釈書の類、『令義解』や『令集解』からは当時の風俗を再現が可能。
特に『延喜式』には各儀式に使用された物品の個数、材料が記載されているのでそこからどのような経済が回っていたのかを知る上での手掛かりとなる。

【政事要略を見てみる】


平安時代の記録を漁る場合、『政事要略』は外せない。「まつりごと」に関するまとめ資料集といってもよいのがこの本。
儀式、風習・風俗、法律が記録されている。また、たいていの索引では人名、年月、出来事で参照できるようになっている。

【国語便覧は侮るな】


中学・高校・入試でお世話になった国語便覧は非常によくできている。
古典文学の概要はもちろん、古典文学に必要な官僚組織や風俗の解説もおおよそ載っている。だから源氏物語の「頭中将」というのが何なのかわかるようになっているし、その「中将」がどの位階を持った官僚であったのか、場合によっては年収はどのくらいだったのかなど、早見表的に使える。

官位相当制を完璧に覚える必要はほぼ無い。自分の専門分野周辺さえ覚えておけばよいが、それ以外は使えるものは使う。

【インターネットリソースは宝の山】


インターネットが使えるこの時代に使わないことが絶対にアホらしい。何で使おうとしないのかを逆に知りたい。

そこでどんなサイトがあるか。
私がよく使うのは次のもの

国立国会図書館デジタルコレクション
ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター
国書データベース
ジャパンナレッジ
CiNii
自所属または他校の大学の図書館サイト
各大学のリポジトリ
カーリル

  • 国立国会図書館デジタルコレクションは事前登録するとかなりの本が閲覧可能。ある程度の本の全文検索も可能。

  • なお上に書いた『国史大系』や延喜式や西宮記などの校本がある『神道大系』、平安時代の官人が記した日記や『歴代残闕日記』はほぼ読める。

  • 国書データベースはその名の通り、古典籍のDB。写本をそのまま読める。

  • ジャパンナレッジは(学校が購入していれば)『天皇皇族実録』や刊行された史料がふんだんに読める。

  • 各大学のリポジトリには各大学が刊行している紀要や論集が一部公開されているので自身の専門分野に力を入れている大学をブックマークしておくとよい。

  • カーリルは公立図書館の収蔵状況を確認できる。

【史料をめくれ】

とりあえず、関連史料はめくってパラパラ眺める。眺めるだけで本当にいい。
日本史好きでそれ系の大学生になったぐらいなんだから漢字は十分に使える。だから、パラパラめくっているだけで何となく文意はつかめるはず。

文法は後でもいい。

気になる単語やパラグラフを調べるだけで知識は広がる。その知識を使って推論を重ね、失敗し、訂正してゴールに近づければいいじゃない。最初からすべてを理解できるなんて無理。歴史なんて積み重ねの連続なのでぱっと見、判るもんではないのでゆっくりやればいい。

【デジタルデバイスを使え】

iPadはペンを使って自由に書き込みができる。Surfaceもそう。

大学などでコピーした史料は写真やスキャンをしてデジタル化することで何度でも繰り返して書き込みができる。
史料に対して毎回、同じ部分にコメントを入れてもいいし、自分の知識が増えて今までとは違った見方ができることもある。そんな時、以前の書き込みが邪魔になることもあるので、デジタル化しておくとこういう時、便利。

でも、以前の書き込みがあるデータは消さない。
その時の自分と今の自分を比較できるので振り返りもできるし、成長も確認できる。

自分を褒めたたえる、成功体験はモチベーションアップにもつながるのでぜひ「自分てすごい」と自己肯定するための材料としてほしい。

トップ画像提供
ROIS-DS人文学オープンデータ共同利用センター
源氏物語絵屏風

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?