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記事一覧

Toleranceについて~パンク以後、屹立、モノクロームからなる断想~

1979~1981年にかけて活動し、Vanity Recordsに『Anonym』と『Divin』という2つのアルバムを残した、丹下順子(とサポートメンバーの吉川マサミ)によるプロジェクトToleranceについて、短い論考を書きました。 『Anonym』と『Divin』は今年4月にニューヨークのレーベルMESH-KEYよりリマスター盤がリリースされ、サブスクにもアップされるなど然るべきクオリティーで広く聴かれる環境が整ったため、これから様々な評価が進むと思われますが、現状で

「freq」MARK FELL, KAKUHAN, RIAN TREANORの雑感

九州大学大橋キャンパス音響特殊棟録音スタジオで度々行われているイベント「freq」に久しぶりに行ってきました。過去にはこのイベントですずえりさんやHARDCORE AMBIENCE(ナカコー+ダエン)や日山豪さん、そして同大学で音にまつわる研究をされている方々の様々なパフォーマンスを観ましたが、今回はなんと来日ツアー中のMark FellとRian Treanorの親子、そして日野浩志郎と中川裕貴によるデュオユニットKAKUHANが出演というヤバい組み合わせ。演奏もかなり面白

アルバムレビュー:Mette Henriette『Drifting』

2015年にECMより2枚組のセルフタイトル作『Mette Henriette』でデビューしたノルウェーのサックス奏者/作曲家による、実に8年ぶりとなるセカンド・アルバム。前作はいきなり2枚組で、ECMというレーベルには珍しくセルフタイトルかつ音楽家自身のポートレート写真がジャケットになっているという仕様であったため印象に残っている方も多いのではないかと思います。 本作『Drifting』はMette自身によるサックス、Johan Lindvallによるピアノ、そしてJud

(もう一つの)アルバムレビュー:Felicia Sjögren『HULDA』

スウェーデン・ストックホルム生まれ、現在はゴットランド島に在住し活動しているアーティストFelicia Sjögrenが発表した初の録音作品『HULDA』のレビューをTURNに寄稿いたしました。 そちらの記事では作品の(オルガンドローンやアンビエントとしての)位置付けや、主題と内容の関わりについて論じているのですが、書くにあたって行った作中で使用されたオルガンについての下調べや楽曲についての分析が、それだけでも結構な文量になったので、TURNに寄稿したものとは別の「もう一つ

ライブレポート:Thomas Strønen Time Is A Blind Guide, 2024/02/06 おりなす八女

2月6日に福岡県八女市の「おりなす八女」にて行われた、ノルウェーのドラム奏者Thomas Strønen率いるグループTime Is A Blind Guideのライブに行ってきました。 Thomas Strønenはかなり前から好きな音楽家で、ECMからリリースしているノルウェーのジャズ・ミュージシャンの中では例えばJan GarbarekやBobo Stenson、Arve Henriksenなどに比べると知名度的には劣るかもしれませんが、深く多様な音響的哲学(そこにはE

アルバムレビュー:Giuseppe Ielasi『August』

イタリアのアーティストGiuseppe Ielasiが2007年にアメリカの電子音響/アンビエントのレーベル12kより発表したアルバム。(本作はじめGiuseppe Ielasiが12kからリリースしたアルバムは現在レーベルのbandcampでNYPでダウンロードできます。そのうち終ると思うのでまずは是非ダウンロードを!本作以外では『Aix』『Tools』『Five Wooden Frames』が落とせます。) Giuseppe Ielasiは90年代にギタリスト、作曲家な

アルバムレビュー:Stephan Mathieu『FrequencyLib / Sad Mac Studies』

2022年にストックホルムの新興レーベルUmeboshiよりリイシューされたStephan Mathieuの作品。2022年も多くの興味深いリイシューがありましたが、個人的なベスト・リイシューは本作で、リリースされてからというもの本当によく聴いていました。オリジナルは2001年にMille PlateauxのサブレーベルRitornellからリリースされた『FrequencyLib』と、同年にEn/Ofからリリースされた『Sad Mac Studies』で、本作はタイトル通り

アルバムレビュー:James Holden『Balance 005』

UKを拠点にDJ/プロデューサーとして活動するJames Holdenが2003年に発表したMix CD。James Holden(単にHoldenを名乗ることも結構ある)はクラブ・ミュージックに疎い私でも十年以上前からその名前を知ってるくらいな相当な著名アーティストですが、Discogsによると本作が彼の初のMix CDのようです(それ以前からトラックメイカーとしては既にいくつかのリリースあり)。 Joris Voornによる名ミックス『Balance 014』の印象が強い

アルバムレビュー:Ellen Arkbro & Johan Graden『I get along without you very well』

Subtextからのリリースが印象深いスウェーデン出身の作曲家Ellen Arkbroと、同じくスウェーデン出身で主にジャズのフィールドで活動しているピアニストJohan Gradenが、Thrill Jockeyより発表したコラボレーション・アルバム。 Ellen ArkbroはSubtextからの2つのアルバム『For Organ And Brass』と『Chords』、そして2021年に自主リリースされた『Sounds while waiting』でも用いられているよ

アルバムレビュー:Michael Brook with Brian Eno & Daniel Lanois『Hybrid』(1985)

ギタリスト、映画音楽の作曲家、プロデューサー、そして発明家(?)としても活躍してるらしいカナダの音楽家Michael BrookがBrian EnoとDaniel Lanoisの協力のもと作り上げた実質的デビュー作。1985年リリース。 この時期のイーノとラノワらしい水の中(もしくは宇宙空間?)的な浮遊感/無重力性のあるアトモスフィアの中をBrookによる(おそらくe-bowなどを駆使した)サスティン・ギターが泳ぐ、というパターンを基軸にインド音楽やアフリカ音楽の要素を組み

アルバムレビュー:claire rousay『a softer focus』

ドラム奏者、そしてフィールドレコーディングや電子音なども用いたソロの音楽家として活動し、前者としてはAstral SpiritsからのリリースやKen Vandermarkなどジャズ/即興の分野の音楽家との共演、後者としてはSecond Editions、Falt、Longform Editionsなど多様なレーベルからリリースを重ねbandcampでの自主リリースも積極的に行っているテキサス州サンアントニオ拠点のアーティストclaire rousay。 本作『a soft

アルバムレビュー - Francisco Meirino『A New Instability』

1994年からハーシュ・ノイズ・プロジェクトPhroqとして活動を開始、2009年からは本名名義でコンクレート寄りの作品を多く発表し、2010年代を通していわゆるエクスペリメンタルを好むリスナーの中で人気作家となったスイスを拠点とするアーティストFrancisco Meirino(日本ではArt into Lifeが早くから彼の作品を漏れなく取り扱っていて、特に2015年辺りからは人気が高まり入荷すると短い期間で売り切れということがよくあったと記憶しています)。 本作『A

アルバムレビュー - Virginia Genta & Chris Corsano『The Live In Lisbon』

イタリアのサックス奏者Virginia Gentaと、アメリカのドラム奏者で日本ではジム・オルークや坂田明などとの共演で名をご存知の方も多いと思われるChris Corsanoによる2008年のライブ録音作(リリースは2009年)。 本作は長らくLPのみでのリリースで、私がVirginia Gentaの存在を知った頃(こちらで取り上げているので多分2015年辺り?)には既にDiscogsで結構な高値で買うしか方法がなく、聴きたいけど手が出ないみたいな状態がずっと続いていたの

アルバムレビュー - Hoan Kiem Chess Team『Paskal's Dream』

タイ東北部イーサーンを拠点に活動するアーティスト/エレクトロニック・サウンド・デザイナーHoan Kiem Chess Teamによる2019年リリースのアルバム。 本作は(先日のPhil Maguire『zeemijl』のレビューでも触れていますが)2010年代に入ってしばらくした辺りから盛り上がりが視界に入るようになった小規模のシステムから生み出される電子音楽を主に扱うカセットレーベル群(例えばDinzu Artefacts、Faltなどなど…)の中でも確かな存在感を放