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アルバムレビュー:Michael Brook with Brian Eno & Daniel Lanois『Hybrid』(1985)

ギタリスト、映画音楽の作曲家、プロデューサー、そして発明家(?)としても活躍してるらしいカナダの音楽家Michael BrookがBrian EnoとDaniel Lanoisの協力のもと作り上げた実質的デビュー作。1985年リリース。

この時期のイーノとラノワらしい水の中(もしくは宇宙空間?)的な浮遊感/無重力性のあるアトモスフィアの中をBrookによる(おそらくe-bowなどを駆使した)サスティン・ギターが泳ぐ、というパターンを基軸にインド音楽やアフリカ音楽の要素を組み込んだという正にハイブリッド・アンビエントな傑作。

1980年辺りに(『Remain In Light』、『Fourth World Vol. 1 - Possible Musics』、Laraajiのプロデュースなどで)花開いた感のあるイーノのアフリカ音楽をはじめとする非西洋な領域への関心が、彼のこの時期の作品に多く関わるダニエル・ラノワの音響指向を纏って再度立ち現れたかのような仕上がりで、まあJon Hassellとの『Fourth World Vol. 1 - Possible Musics』の続編といってしまえばそれまでかもしれませんが、しかしこのクオリティは無視できないヤバさ。

アルバム前半はインド音楽やアフリカ音楽の要素というのが感じ取りやすく、いわゆる「第四世界」なフィーリングをたずさえたアンビエント・ジャズ的な聴き方ができるでしょうし、ということはすなわち今聴いてしっくりくるサウンドということでもあります。

アルバム後半はインド音楽やアフリカ音楽の要素がやや奥まって、個々のフレーズや要素より全体のアンビエンスだけが意識に留まっていくみたいな音楽ですが、ここでの音響ニュアンスはNils Petter Molvær、Eivind Aarset、Arve Henriksenなどを筆頭に90年代後半から00年代にかけて台頭してくるフューチャー・ジャズの北欧方面の一派に先駆けてるみたいにも聴こえるので、例えば彼らのECMからの作品とか好きな人にとっても自然に入ってくるサウンドではないかと思います。

またJon Hassell / Brian Eno『Fourth World Vol. 1 - Possible Musics』の続編と捉えられるということはすなわち先日アップした『ダブ×アンビエントは何処へ行く?~その可能性を示す10アルバム~』で言及しているダブ×アンビエントの文脈に繋げることも可能でしょうし、本当に様々な文脈の交点としてあまりに出来過ぎてるみたいな一作。

ちなみにMichael BrookはJon HassellがECMからリリースした奇作(?)『Power Spot』にも3曲ギターとエレクトロニクスで参加していて、それと本作は制作時期近いうえにイーノとラノワが関わってるってことも共通しているので『Fourth World Vol. 1 - Possible Musics』の続編っていうより『Power Spot』と双子的な関係の作品といったほうが適切なのかも(制作時期に関しては『Power Spot』は1983年10月から1984年12月録音で1986年リリース、『Hybrid』はCD確認したところ録音時期について個別のクレジットはなく1985年リリースって情報のみなので、どちらが先とも判断し難い感じです。被ってても不思議じゃない)。

個人的にはイーノ関連の作品って発想のラディカルさはともかくサウンドとしては1980年代半ば辺りが好みだったんですが(Harold Buddとの『The Pearl』や、それとは仕上がり違いますが『Thursday Afternoon』とかマジ好き)、その嗜好がまた強化されてしまう凄い一作。

この作品の存在や内容は何年も前から知ってたんですが、中古でもなかなか適正な価格で出てこなくて2021年にやっとCD買えました。中古で見つけたら即買いおすすめします。

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