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あ だ ば な ─ 徒 花 ─

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養老まにあっくすエッセイ集②
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#資本主義

私たちは何のために働いているのだろう

 戦後ドイツの文学にはKurzgeschichteと呼ばれるジャンルがある。これは日本語に訳せば「短篇」「ショートストーリー」としか言いようがないのだが、本当に2〜3頁しかないのである。とりわけ、ノーベル賞作家であったハインリヒ・ベル Heinrich Böll (1917-1985) の作品は人気があり、数多くのKurzgeschichteを残した。今日はその中から、私のもっともお気に入りの一篇を紹介したい。  とはいえ、この作品は本邦未訳のため、以下は筆者の拙訳であること

未来からの搾取

𝑡𝑒𝑥𝑡. 養老まにあっくす  かつて南北問題と呼ばれた問題があった。北半球を主とする先進国と、南半球に位置する発展途上国との著しい経済格差から生じる、政治的・経済的問題である。だが現在、この南北問題は複雑化し、北半球の中にも貧困国はあるし、先進国の中にも富裕層と貧困層の格差が顕著になってきた。そこで、地理的な意味での南部ではなく、地球的規模における南部として、「グローバル・サウス」という呼び方が広がっている。  われわれ先進国の贅沢なライフスタイルは、このグローバル・サウ