太平洋戦争終戦の短歌

終戦記念日ですね。
1945年の「心の花 第五十巻第二號」には、太平洋戦争終焉を迎えた歌人たちの深い傷痕や、失われたものへの哀悼の気持ちが繊細かつ力強く詠まれています。
いくつか紹介します。

・わが子あらぬ荒れし都に帰り来て明日のため何を祈らむとする
 片山廣子「心の花 第五十巻第二號」

初句の「わが子」は、終戦の年に心臓病で倒れ45歳で急逝しました。作者の目の前に広がるのは、戦争で荒廃したふるさとの街と多くの別れ。
「わが子あらぬ荒れし都」は「私の子どもがいない街」ですが、郷里東京に対する思いも含まれているのでしょう。愛していたものの多くを失われてしまった心情が「明日が描けぬ」ことから痛切に伝わります。

・野の雀やぶの小さきけものらも教へよ吾に生くる楽しみを
 片山廣子「心の花 第五十巻第二號」

敗戦、逆縁という苦しさの中にいる作者。スズメや小動物が懸命に今を生きる姿を見て「生きる意味」を再確認しようとしています。

・マリヤナに戦死せしとふ島はいづこ地図ひらき見るそこかここかと
 大島景雅「心の花 第五十巻第二號」

「マリアナ諸島で戦死した」と伝えられる家族を思い、地図を広げている歌。「そこかここかと」の繰り返しからは、家族の最期を知りたくてる探し求める遺族の切なさや焦燥感が伝わってきます。

・敗戦は悲しかれども虚偽にうたれつつ生きゆくよりはすがしき
 山中一明「心の花 第五十巻第二號」

「敗戦は悲し」から敗北の悲しみや痛みが伝わりますが、続く「虚偽にうたれつつ生きゆくよりは」は戦中に「戦争は正義であり、勝利することは確実である」と騙され続け、ないがしろにされた生活がどれほど苦しかったかを強調しています。結句「すがしき」で虚偽から解放されることの安堵や救いを描きます。
31音の中に、戦中の社会の複雑さ、マスメディアの役割、プロパガンダの力に対する批判、個人の心情など、深いメッセージを込めています。

・焼土ともならで残りし庭のおもに秋海棠の花しづかなり
 富岡とし子「心の花 第五十巻第二號」

焦土とならなかった庭で、秋に咲く優しい花である秋海棠が咲いています。戦争と季節の移ろいの対比が感じられる歌で、人間の過ちや暴力と自然の美しさや平和さが描かれています。


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