デパートデート

年末のデパートはクリスマスの気配よりもお正月の雰囲気の方がつよく漂っていた。

「こんでいるな、さすがに」

「まあね」

僕は友人の直人を連れてデパートに来ていた。というのも恋人に贈るクリスマスプレゼントがまったく決まらないからだ。僕は32歳になるのだけれど、買い物の趣味がお子様じみているようで2歳年下の玲子さんの趣味にまったく一致しない。玲子さんは上質な落ち着いたものが似合う女性だ。一番最初のプレゼントにかわいいクッションをあげた時のなんとも言えない顔は忘れられない。一応弁解させてもらうと付き合って一週間のプレゼントにあまり重々しいものをあげると深刻なかんじがするかと思ってパソコン作業で身の置き場のなさそうな玲子さんにクッションを差し上げたのだ。まあそのクッションが玲子さんの好みではないピンクでうさぎだったのは僕のセンスの不徳であろう。

「で、玲子さんはなにが欲しいって、悟?」

「うーん、身に着けるものがいいようだけれど」

玲子さんは好みがはっきりしている。けれどロマンチストな一面もあって、はっきりプレゼントを指定するのは気乗りしないみたいだ。僕としてはブランドを指定されたほうが間違いがないのだけれど。なので僕は友人の直人を連れていく。直人の趣味と玲子さんの趣味は似ていると思う。少なくとも僕が玲子さんにクッション以降のプレゼントはぜんぶ直人が選んでいる。直人の選んだものは玲子さんも好んで身に着けているので安心だ。直人は新調したトレンチコートの襟もとを開けている。館内はあつい。上背のある直人はとトレンチコートが似合っている。直人が服をきると飾られているマネキンのようにじっと眺めていたくなる。

「ネックレスとかはだめかな?直人」

「うーん、そういうのは好みがかなり細かいからあげるんだったら俺とこないで一緒に選んだ方がいいぞ。男の選んだジュエリーなんざ女にとっては趣味がわりいんだよ。というか俺に選ばせるな怒るぞ玲子さん、さすがに」

「そうだね」

直人のあきれ顔に僕はうなずいた。僕はいろいろ吟味している直人についていってふんふんいなずいている。じつの所うなずいてはいるもののわかっているとはいいがたい。たぶん僕より玲子さんの趣味は直人の方が熟知しているだろう。僕は財布からクレジットカードを出す係なのだ。一時間とちょっとして僕はプレゼントを包んでもらった。袋がいっぱいになった。

「これ似合うじゃないか」

「じゃあこれ買うよ」

ついでに直人は僕の服も選んでくれた。これで今シーズンもいいかんじの服を着ていられる。

喉が渇いたので僕は喫茶店に入った。

「お買い物デートたのしかったね」

僕はコーヒーを啜りながら直人にいった。甘党の直人はミルクレープをフォークで削りながら、「なにがデートだ。せっかくの休日がパアだぜ」といって、ミルクレープを口にいれたのでそれ以上追求しなかった。この店のミルクレープはかなりおいしい。直人の好物だ。僕は玲子さんのプレゼントを直人と選びにくるのをデートだと認識している。直人も僕もいそがしいのでデートは半年に一回あればいいほうだ。デートなどどいっているが僕は直人とどうこうなりたいという訳でもなく(そもそも直人はデートなどど認識していない)、そのうち玲子さんと僕は結婚するだろう。まあでも結婚しても直人とたまにミルクレープを食べにこれたらな、とは願っている。