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新規就農は厳しい世界

前回の投稿から気づけば4カ月。

土壌医3級・2級の教科書の勉強をして、雪が解けたころに中古車を買い、お気に入りのpodcastを拝聴しながら(特に、ベジフル大百科 The CROPSラジオただいま発酵中をよく聞きます)、近くで農業をされている我らが師匠のところへ週2で通い、農作業をお手伝いさせていただいたり、いろんなことを教えていただいたり、トラクターの運転までさせていただいたり、自分たち用の区画をいただいて育苗・肥料設計・定植をさせていただいたりと、バタバタしております。

やりたいと思っていた農作業が実際にできていること、自然のなかで汗がかけること、少しずつ農作業のことがわかっていくこと、日々近づいている収穫がとても楽しみであること、など幸せな時間を過ごしています。

と同時に、我が師匠からいろんな話を伺ったり、自身で手を動かしたりする中で、農業技術だけでなく、経営的な面にも思いを馳せたりして、「どうすれば農業で食っていけるか」を日々悩みながら過ごしています。

そんな中、私が以前から少し気になっていた、比較的人口の少ない町を訪問し、農政課の方に新規就農についてお話を伺う機会がありました。

結果、厳しい現実を再確認することになりました。

新規就農には研修も含めてある程度決まった型があり、自治体はその型に対してのみサポートを行っている。その型に則って研修に進んだ方でも、希望の農地は得られないと思った方がよい。例として、希望した面積とは全く異なる面積の農地しか空きがなく、希望していた作目とは全く別の作目をやらざるを得なくなった人がいた、という話もいただきました。

また、型の1つについて具体的な説明をしていただいたのですが、

  • 初期投資は数千万必要

  • 夫婦2人分の労働力がないと成り立たない

  • 手元に残る収入はちゃんと取れれば数百万 (もちろん秀品率が上がればその分の収入は上がるが、労働集約型だということもあり、劇的な増え方はしない)

  • 生産者組合以外のチャネルで販売することはできない

という内容で、普通のサラリーマンと比べると想像を絶する厳しさです。ちなみにもう1つの型は、ここまでに説明した型よりさらに厳しい条件になるとのことでした。

これに近い話は何度も聞いていたつもりでしたが、少しずつ実地での経験をして、経営にも思いを馳せ始めていたこのタイミングで改めて聞くと「うっ。。。」となりました。

補助金はあれど基本は無収入の2年を過ごし、独立にあたって初期投資で多額の借金が必要になる。それはある程度仕方のないことだと思うのだけど、にしても数千万は一般人にとってはちょっと大きすぎるし、無収入の2年はかなり大きい賭けになる。それだけでなく、例の型に沿って進むとなると、労働集約型で販売チャネルが固定されているので、収入を増やすための努力の種類もかなり限られてしまう。収入が大きく増えることは難しいけど、技術不足や自然環境によって収入が減るのは簡単なので、借金はかなりの不安と重圧で日々迫ってくるだろう。一発当ててやりたいとか金持ちになりたいとか、そんな願望があるわけではなく普通に暮らせればよいのだけど、日常のちょっとした贅沢や大事な日のお祝いなどを考えると少し余裕がほしい。借金を完済して、その余裕が持てる年収にたどり着くのはいったいいつになるのか。できるとして、農業以外の生活はどのくらい犠牲になるのか。
…そんなことを考えて、軽く絶望しました。

少し冷静になって、自治体や既存の農家の方の立場になってみれば、「それはそうなるよなぁ」ということにはなるのですが、新規就農する側の立場としては非常に厳しい、という感想をもちました。ことごとく資本を持つものが強い世界だということを感じました。

実は、これまでも公的な機関にお話を伺う機会は何度かあったのですが、毎度心が折れる結果に終わっていました。今回は、比較的人口が少ない町ということで、放棄地も含めれば土地は有り余っているのでは?農業従事者の高齢化が進んでいて後継者不足に悩んでいるのでは?そうだとすれば、イレギュラーな就農の方法についても交渉の余地があるのでは?という根拠のない甘い期待を膨らませていたのですが、全くそんなことはなかったのでした。

この経験を受けて、いわゆる新規就農プランに正面から進むのは、自分たちの望んでいる方法ではないのかもしれない、または諦めて家庭菜園を趣味にするのもいいかもしれない、と思い始めています。私は諦めが悪いので、「まだ何か方法があるんじゃないか」と思ってはいるのですが、何にせよ正面突破をあきらめるとしたら、自身で直接農家さんや地主さんとつながったり、足で稼ぐ必要性がありそうだなと感じます。

今考える理想の形は、ゆっくりでいいので心臓にやさしい形で農業を始めることです。例えば、数百万の初期投資、最初はできる範囲で初めて、少しずつ兼業化、可能性が見えてきたら腰を据えて主業化、頑張れば夫婦での収入が一千万を超えそうな道筋が見える、のような。他の業種であれば、それほど高望みじゃない気はしているのですが、もしかしたら夢物語なのかもしれません。技術の発展で個人農家のポジションがどうなるのか、という不安もあります。住みたい場所とか生活の基準とか時間のゆとりとか、そんなわがままとの折り合いはどのあたりでつけられるのか、という不安もあります。

農業は、いろいろな犠牲を払える強い覚悟を持った人にしか叶わない職業なのでしょうか。自分なりの答えが出せるまで、まだできることをやってみたいと思っている所存です。


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