【愛しの女子たちへ】『女性のライフスタイル』 ⑤「貧乏な専業主婦」

相対的貧困率という言葉があります。今や「1億総中流家庭」(※)だった我が国も平均所得の半分しか所得のない相対的貧困にある人が17%にも上っています。母子家庭の場合は、これが57%にもなります。ひとつの世帯で二人が稼げれば当然所得は多くなりますよね。それがひとり親家庭で、なおかつ男女の賃金に差がある我が国では、女性一人の世帯の貧困率が高いのは当然かもしれません。

ところが最近、専業主婦世帯でも貧困世帯が増え、二極化が進んでいるらしいんです。内助の功を尽くしていればこそ、夫も高収入を保てると思っていたのに、バブルの崩壊、リーマンショックと、この20年ほどは、一流といわれる企業に勤めていても、いつ倒産・失業・賃金カットに襲われるかわからない時代です。また非正規の男性が増えたし、正社員でも収入が減り続けている今、夫の収入だけではやっていけないから働きたいと思っているのに、子どもを預けることができないとか、仕事が見つからないなど、専業主婦世帯も大変。「やむを得ず専業主婦」という世帯に貧困層が出てきているというわけです。

やっぱり高収入の夫を見つけなきゃ、ですって。そういう夫と運良く結婚したって、人生どうなるか。一流企業だって倒産、リストラがある時代だと、言ったばかりじゃないですか。女子たるもの、何があっても生き残れるよう、やはり仕事は続けた方がいいと思うなあ。というより、収入を確保する術は持っていた方がいいということでしょうか。さっさとジャパンタイムズを結婚退職した私に偉そうなことを言う資格はないのですが。

私の場合、夫の収入だけでは、大した贅沢もしていない生活を相当に節約しなくてはいけなくなりました。大学時代から働いていたので、ある程度の預金があり、それを生活費に回していたのですが、このままではスッカラカンになってしまう。そこで、懸賞小説の類に応募したり、ま、家にいながらの収入の道を随分探しました。フランスの家庭百科事典を翻訳する仕事はまあまあの賃金をもらえてよかったのですが、学生アルバイトにでも出しているらしくとてもひどい翻訳で、それを読める日本語にするのが私の仕事だったのですが、原語で読んだ方が理解できるほどの悪文。仕方なくアテネフランセに毎日通って、フランス語の猛特訓をしながら読める日本語に仕上げるという毎日でした。

その頃、大学時代の友人と会うと、みんな広い立派な家に住んでいるし、食事で集まるというと一流ホテルの高価なレストランだし、私の足は友人たちの輪から次第に遠ざかりました。

私の新居は両国の古いマンションの13階で30㎡もない狭い部屋。冬の寒い日にベランダにしかおけない洗濯機で洗濯をしていると風に飛ばされそうだったし、1度だけ我が家を見に来た父が「なんだ、軍艦の寝床みたいだな、細長くて」と評したほど。

玉の輿に乗りたいなんてこれっぽっちも考えなかったのに(考えたって乗れなかったと思うけど)それなのに見合いで結婚した友人たちの裕福な生活を羨ましいと思う自分が嫌で遠ざかったのですが、「軍艦の我が家」をセンス良くしつらえ、安給料でも手間暇かけて美味しい料理を作るなど、前回の「専業主婦はお得?」で書いたようにそれなりに楽しんではいたんですよ。掃除に時間はかからないし、気を使う親との同居もないし。

でも、1年もしないうちに、やっぱり自分の足でしっかり稼ごう。人を当てにするのは私の性に合わない。とがぜん奮い立ったのです。

第36回はここまで。次回に続きます。

<脚注>
※ 1億総中流家庭
1970年代の日本の人口約1億人にかけて、自分たちを中流階級だと考えていた日本の大多数の家庭のこと。

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