見出し画像

リプレイ小説「三人は傭兵」#6

Session2 その本はネクロノミコン

Chapter1 古い海賊の海

 剛力のゴンザと長弓のヨイチが乗り込んだドゥルマ家の海賊船はグングンと速度を上げ、前方の黒い帆船に近づいている。近くの海賊たちは既に武器を抜き放って、すぐにでも帆船に乗り移れる準備を整えている。ゴンザの隣にはこの戦いが初陣と言っていた15歳の少年が緊張で強張っている。

 二人が海賊船に海賊として乗り込んでいるには訳がある。
数日前にラギの使者という男がやって来た。ラギはゴブリンの大呪術師で二人は彼に大きな借りがある。
 その男は無頼とだけ名乗った。野蛮で精悍な戦士といった感じの男だ。そいつはラギの借りを返す時が来たと言った。ラギが東方から遥々ある本―古文書を取り寄せた。しかし船で輸送中トラブルが起きた。その船の船長がドゥルマ家が支配する海域で通行料をケチり払わずに通行しようとしたのだ。ドゥルマ家は古い豪族で貴族だ、彼らの海域での通行料の徴税と従わない船への略奪は国王認められている。船長は船の速度に相当な自信を持っていたのだ。そしてドゥルマ家の船に襲われ船は沈められた。本は現在ドゥルマ家の宝物庫にあるはずだ。彼らにはその価値が分かるはずもない。
 つまり無頼―ブライと一緒にドゥルマ家の海賊の一味に加わり隙をみて本を奪い返す。それで借りはチャラになる。そして今は上手く海賊一味に加わり海賊としての初仕事に取り掛かるところだ。
 前方の船も通行料を払わずに通行しようとしている船だ。ドゥルマ家の私掠船が相手の顔が少し分かるくらいの距離に近づいた。襲われる乗組員たちはまったく騒ぐ様子もない、剣と盾を構えこちらが近づいているのを落ち着いて待っているようだ。私掠船を指揮している若き荒武者のヴェルサオが命令する、弓を放て!一斉に放たれた矢が相手の乗組員たちに降り注ぐが、殆どは盾か矢立に突き刺さっただけだ。やがて船は追いつき平行になり飛び移れる距離になる。ヴェルサオの命令が下る。乗り移れ!
 一番槍にはあまり乗り気じゃないヨイチに「行くぞ!ヨイチ!」とゴンザは声をかけ相手の船に目掛け大きく跳躍した。しかし跳躍の瞬間、バランスを崩してしまった。跳躍の距離が足りずゴンザは船のヘリに辛うじてしがみついた。ヨイチとブライは跳躍しゴンザの近くに乗り移った。ヨイチはゴンザを引っ張り上げた。
「慣れない船だ、無理をするな」
「すまぬ、行くぞ!」
その時、三人は気がついた。いつの間にか深い霧が立ち込め二隻の船を覆っていた、ついさっき迄は晴天だったというのに。
 敵の船員たちは革鎧を着込み剣と盾を構えている。そして全員が頭を剃り上げており、黒い手形の入れ墨をしている。異様であった。
 船上は直ぐに乱戦となった。ゴンザも戦鎚と盾を構え近くにいた男に戦鎚の一撃を見舞った。ヨイチは接近戦を嫌った、長弓を構えるやいなやゴンザが一撃を見舞い体勢が崩れた敵を射殺した。ブライも三日月刀を抜き左右の敵を切り伏せている。
 敵は予想より手強かったが、手練の三人は手近な敵を数人屠った。
 ふと気がつくと、乱戦のど真ん中に身長が2mもありそうな大男が突っ立っていた。更に異様であったのは、大男はこの血風渦巻く乱戦のど真ん中にあって徒手であり、甲冑させ身に付けておらず東方のローブのような服を身にまとい、顔には見たこともない意匠の仮面を身に着けていた。
 ゴンザはその仮面の男の姿を見た瞬間、ラギを思い出した。こいつは魔法使いだ、直感した。ヨイチも同様であった、ラギみたいに胡散臭い奴が出てきやがったと思った。
 ゴンザは「ヨイチ撃て!」と叫んだ。ヨイチは既に仮面の男を射殺そうと矢をつがえていた。
 仮面の男の死角から、あの初陣だと言っていた少年が長剣を構え襲いかかった。しかしその剣はあっさりとかわされ、仮面の男に頭を捕まれ持ち上げられた。すると少年は恐ろしい叫び声を上げた。2,3秒もするとグッタリし床に投げ出さた。しかし直ぐに少年は立ち上がった、少年の髪はボロボロと抜け落ちすっかり丸坊主になってしまった。そしてその頭には黒い手形が残っていた。少年は再び剣を構えると味方に襲いかかった、その剣戟は初陣の少年とは思えない鋭さだった。
 仮面の男は既に別の味方の頭を掴み上げていた。それを眼にした海賊たちは戦慄した。士気は大いに下がったがまだ踏みとどまっていはいた。指揮官のヴェルサオも味方を励まし奮戦していた。
 しかし味方の半分は倒されたようで、余裕の出てきた敵は海賊船に乗り移り、そちらでも戦いは始まっていた。ヨイチは負けたと判断した、ブライもヨイチに眼で合図を送った。
 ゴンザは敵の頭を潰してしまえば良いのだと逃げる素振りもない。戦鎚を振り上げ残った仲間に叫んだ。「敵の大将をとる!我を援護せよ!かかれ!」この叫びを聞いた残った味方は、再び力強く剣を構えひとかたまりになるとゴンザを先頭に仮面の男目指し突撃を開始した。ヨイチも援護に弓を射る。 しかし、敵の数に飲み込まれてしまい、また乱戦となってしまった。
 ブライがヨイチに叫ぶ「ボートだ!」ヨイチは素早く接岸用のボートに乗り移った。そしてゴンザを呼ぶ。それを見てゴンザも直ぐにボートに向かい走った。
 ブライはヴェルサオをボートに乗り込ませた。ブライはこの若者がドゥルマ家で特別な扱いを受けているのを何となく知っていた。ヴェルサオを生きて連れて帰らねば処刑されるとも限らないと思ったからだ。
 四人がボートに乗り込むとロープをヨイチが短剣で切った。ボートは水面に落下した。ヴェルサオが櫓をとり他の者は全力で櫂を漕ぎ始めた。気がついた数人の敵が弓矢を射たが、それは外れるか鎧に突き立っただけだった。濃い霧が幸いし直ぐに逃げることが出来た。
 10分ほど漕ぐと霧は全く晴れてしまった。ヨイチはやはりあの霧は魔術のたぐいだったのだと思い背筋を凍らせ、ヴェルサオに尋ねた。
「あんな恐ろしい男がいるのをしっていたのか?」ヴェルサオは知らなかったと答えた。
四人はボートでドゥルマ家の城に戻った。
 ドゥルマ家の城は巨大である。軍港と一体となっているからだ。城壁は浅瀬の海にまでおよんでおり、船は海上の城門をくぐり軍港にはいる。
 四人が数時間かけて戻ってくると城門は開け放たれており、城からは火の手が上がっている。そして剣戟の音も聞こえる。
ヴェルサオが言った。
「襲撃だ!奴ら我らの船を奪うことが目的だったのだ!急げ!」
三人は櫂を漕いだ。ブライはそっと二人に耳打ちした。
「丁度良い、火事場泥棒といこう」二人は頷いた。
港には先程まで乗っていた船とあの黒船が接岸されている。城内では激しい戦いが始まっている。ヴェルサオは当主を救うため剣を抜くと一目散に駆けた。城内は混乱しており三人は苦もなくヴェルサオと別行動をとることが出来た。三人はすでに調べがついている宝物庫への廊下を駆けた。その道筋に点々と火事で焼け死んだような死体があった。ここら辺りにはまだ火は回っていない。
 ゴンザとヨイチは呪術師のラギが炎の呪術でドワーフの一部隊を黒焦げにするのを見た事がある。ヨイチは言った。
「こんな死体を昔みたな。ラギの火炎の魔法みたいだ」
 宝物庫にたどり着くと扉は開け放たれている。中にはあの仮面の男とそれに付きそう四人の兵士がいた。仮面の男の手には本がある。
 ヨイチはこいつらの狙いも同じだったのだと思った。
「その本を返してもらおうか」ヨイチは言った。仮面の男はヨイチを見た。ゴンザは雄叫びをあげ突っ込んだ。
 ヨイチは言い終わるが早いが矢を仮面の男に放ったが、仮面の男は熟練の戦士の動きでそれを躱した、矢は掠めただけだった。
 ゴンザとブライは四人の兵士と戦いを始めた。仮面の男は本の中身を確認するように中を見ている。
 ゴンザが二人の兵士を戦鎚で倒すと、仮面の男は本を置き、呪文を唱え始めた。閉じていた両手を開くと右手に黒い炎、左手に光り輝く白い玉が現れた。そこから蛇の形をした火炎と雷鎚は手始めにヨイチに襲いかかった。狭い宝物庫の中を二匹の蛇は暴れまわった。三人は恐ろしい魔術を目にしながらも奮戦したが、やがて三人とも蛇の炎に焼かれ昏倒していた。

Session2 三人は傭兵、その本はネクロノミコン
収録日:2018/3/11
使用ルール:ソード・ワールド
GM:山ノ下馳夫
ヨイチ:ミチヲ
ゴンザ:社長

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?