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かぎばあさんとスマホアプリ
先週、「新生児訪問」で助産師さんが自宅にやってきた。
上の子2人のときもおなじ方なので、私はお会いするのが3回目。だが、夫(育休中)ははじめての新生児訪問。「お茶は麦茶でいいかな」などと朝から聞いてくる。うーん。外は寒いし、温かい緑茶を出したほうが良いよね。などとのんびり会話していると、ピンポーンと玄関のベルがなった。
玄関の戸を開けると、黒いコートに身をつつんだ助産師さん。「どーぞどーぞ。今日はよろしくお願いします」「こんにちは~。今日はほんっとに寒い日だね~」と挨拶もそこそこに上がってもらう。
グレーヘアーで少しふくよかで始終にこやかなその助産師さんは、私が子どもの頃に好きだった本に登場する「かぎばあさん」というキャラクターにちょっと似ている。(年齢はもう少し若いけど)
「かぎばあさん」は、魔法使いのようなおばあさんだ。
といってもあからさまな魔法を使ったりはしない。(私の記憶では)家の鍵をなくして自宅に入れなくなったかぎっ子のもと、どこからともなくやってきては、大きなカバンから鍵を取り出し、家の扉をさっと開てしまう。
また、ときにはさまざまな食材をも、その大きなカバンから取り出して一風変わった料理(しかも美味しそう)をふるまってくれる。そして、両親が帰宅するまえにすうっといなくなるかぎばあさん。困っている子どもの救世主のような存在なのだ。
と、ちょっと話はそれてしまったけれど。その助産師さんもかぎばあさんのように大きいカバンから次々にモノを取り出し、机のうえに並べはじめた。「これは、区で助成している一時預かりの一覧です。お母さんが、ちょっと休みたいときに利用してね」「そうそう。ところで赤ちゃんのことでなにか心配事はある?」と、半分世間話のようなかんじで面談がはじまった。
私も、「退院してからずっと、直接母乳が飲めていなくて…」と、目下の悩みを打ち明ける。
小さめ赤ちゃんの第3子は、おっぱいを拒否しつづけて3週間がたつ。いまのところ哺乳瓶でミルクをあたえている。私自身は「なにがなんでも母乳で」という気持ちはあまりないのだけれど、このまま一度もおっぱいを飲む姿をみれないまま卒乳かと思うとかなりサミシイ。
まぁ。私の気持ちはさておき。肝心の赤ちゃんの成長と、現在のミルクの飲みかたについて不安なことといえば、「飲んでも2時間くらいで泣きだしてしまうこと」。足りていないのか?それとも他の理由なのか?分からないけれど、おっぱいと違って「泣いたらすぐミルク」とはいかず(ミルクの場合は3時間は間隔をあけて。と産科で指導があった)、泣き止まない赤ちゃんを抱っこトントンしながら途方にくれてしまう。
すると助産師さんが「じゃあ。まずは体重の増加からみてみましょうか」と、大きなカバンからバネばかりを取り出した。
赤ちゃんがすっぽりとおさまった布をバネばかりに吊るして体重をはかると、「体重は3キロこえたね。うーん……。計算すると一日あたり30グラムづつ増えているので、ミルクの量自体はこのままで良さそうよ」
そっか~。それは良かった。
そのうちに、寝ていた赤ちゃんが泣き始めた。最後にミルクをあげてから2時間たっている。これは眠いのか?それとももうお腹が空いちゃった??あと1時間は間をおいてからミルクをあげたいんだけど….。
「じゃあ、このアプリで調べみようか?」とスマホを取り出す助産師さん。
ふぎゃ~ふぎゃ~~と大泣きする赤ちゃんにアプリをかざして数秒。お腹が空いたみたいだね、と教えてくれた。
(うん。見ればわかる・笑)
ってか、そんなカンタンに泣いている理由が分かっちゃうの!?
「まぁ、あくまで目安だけど、泣く理由をいろいろ悩んでいるときの助けにはなるよね」と、疑いの眼差しを向ける私たち夫婦に、あっけらからんと助産師さんはいった。
その後、母乳指導をうけ、赤ちゃんも少しだけおっぱいを飲み、最終的にはミルクをたっぷり飲んで落ち着き、2時間ほどの新生児訪問が終わった。助産師さんはまた大きなカバンを抱えて、午後からは違うお家を訪問するとのこと。
困っているママのもとへ、いろんなアイテムをもって出向くその姿をみて、やっぱり「かぎばあさん」みたいだなぁと思った。
* * *
その日の午後。台所のほうから「ふんぎゃ~ふんぎゃ~」と声が聞こえてきた。夫だ。どうやら赤ちゃんの泣き真似をしている。
「怒っている70%、ねむい30%」「……ふんっ、ぎゃぁっ。ふんっ、ぎゃぁっ」「……怒っている60%、不快20%、その他20%」「…ふぇ~ふぇ~」……
ってちょっと待て。何をやっているんだ何を。
「このアプリ、なかなか100%の理由はでないね」と夫。いやいや、その前に君は赤ちゃんではないだろうが(笑)
そうこうしているうちに、
……ふ、ふんぎゃぁぁ
ベビーベッドから赤ちゃんの呼ぶ声が聞こえる。
どれどれどーした?オムツが濡れているのかな?それともお腹が空いたのかな?
私と夫は、いそいそとスマホをもって赤ちゃんのもとに向かったのだった。
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