川の字なんて、所詮まぼろし
「川って言うより、山だよね」
夫が言った。週末のレジャーの話ではない。子どもの寝相のことだ。
わが家の子どもたちは、上から4歳、2歳、0歳。みんな、ひとりで寝るには幼すぎるし、2LDKのマンションでは子ども部屋をもつ余裕もない。寝るときは家族5人で、いつでも一緒。
子どもが産まれてから、「どこに寝る?」「どうやって寝る?」と、紆余曲折したものの、ここ2年ほどは和室に布団を敷きつめて「どこでも好きなところで寝てください」スタイルに落ち着いた。
(わが家の寝室)
写真だとマットレス2枚しか写ってないが、実際は左端の畳スペースにも布団を折り曲げて敷いている。
子どもたちは、マットレスから落ちるという特技を持っているので、これに対抗すべく、部屋いっぱいに布団を敷きつめるのだ。
* * *
どすん!
頭に突然の衝撃がはしり、一気に目が覚めた。
どうやら寝返りをうった2歳の足が、私の頭を直撃したみたい。まあまあ痛くて、しばらく声にならない声でひとり悶絶。
時計をみると夜11時をまわっている。子どもたちの寝かしつけをして、そのまま一緒に寝てしまったようだ。
ふたりの子は、掛け布団の「上」に、敷布団に対して「垂直」に寝ている。
私と子どもたちでちょうど「Fの字」のような寝相。いや、まてよ。隙間を縫うように寝そべる夫も、布団に対して「垂直」だ。
「川って言うより、山だよね」と言った、夫の言葉を思い出す。
うーん。今日は「山」というより、アルファベットの「E」といったところか。
ひとり、布団に対して平行に寝ていた私が「1本の縦線」を、他3人がでこぼこした「3本の横線」となり、まるで4歳児が書くダイナミックな「E」に近いカタチ。
親子3人、真ん中に子をはさみ「川の字」で寝る、とはよく言うけれど。わが家では「川の字」なんて所詮まぼろしで。
だいたい「川」ではなく「H」だし、はたまた「E」や、重なりあって「X」の日だって日常茶飯事。
真夜中にかかと落としをくらった私は、渋々と布団から抜け出して、子どもたちを掛け布団の「下」に、敷布団に対して「平行」に寝せたあと、0歳児が起きるまでミルクを準備して待つことにした。
今は、家族みんながもみくちゃになって寝る毎日だけど、こんな日がいずれ懐かしく思うときがくるんだろうな。
けれども。
「一の字」で、ふかふかの布団に包まれて、朝まで寝られる日々が恋しい。
そう思いながら、眠い目をこすりつつ、真夜中の台所でお湯を沸かしはじめた。
私の手によって「平行」に寝させられた子どもたち(と夫)は、この一瞬だけ「川の字」を書くことに成功している。
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