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第7回 ナマエムズカシイネ

2月に入り、テレビでバレンタイン特集を見かけることが増えた。放送枠を何とかしなくてはならない一方で、すさまじく忙しい&予算も少ないがゆえに、チョコレートごときのために凝った企画を考えるのは不可能であったのかもしれないテレビ局の人が、それでもシーズンだからという理由で一応報じるのは、「今年は、自分へのご褒美チョコがトレンドのようです!」という内容だったりする。そして中継の場所はいつだってデパートなのである。

思うに、自分へのご褒美チョコは、決して今年のトレンドなどではない。「太陽は東から昇ります」と同程度の不変の真理とまではいかないまでも、近しいところにはあるはずだ。特に、デパートのバレンタインチョコ売り場は、各国の有名ショコラティエが誇る作品がずらりと並ぶパラダイス。大好きなあの人もお世話になったあの人も、えっと誰だっけ状態になってしまう不思議な空間なのである。ゆえに、少なくともそこに足を運ぶ人たちのお財布には必ず、「自分用バレンタインチョコ枠」が設けられている。もちろん太古の昔から。かくいう私もそうなのだ。

しかしである。あの空間では、毎年誰もが苦戦するポイントが1つあるように思う。それがブランド名と商品名だ。どう考えても英語ではなさそうだなというブランド名と商品名、それらは売り場において、カタカナ表記が施してあったりなかったりする。例えば、デプラポールショコラティエの「POL limitee」とか。

果たして伝わるだろうか。一見親切な対応とも取れなくはないカタカナ表記への変換は、あまりに馴染みがなさすぎる語感に対してはおおむね無力であるし、商品名なんてもはや読めない。デプラポールというのは、ポール・デプラさんというショコラティエの名前なわけであるが、うっかりすると「デブ?」と思ってしまうし、「ポ?ボ?」と半濁点なのか濁点なのかいまいち自信が持てず、最終的に「わかんないわ」と思考停止してしまう。結果として「あ、この6個入りの1つください」とかになるのだ。

そしてこれは、友人との会話にも持ち越され、以下のようなやり取りが生まれる。
「今年何か買った?」
「買った、買った!」
「どこの?どこの?」
「あ、なんかオレンジの箱のとことー、水色に紺色のリボンのとことー」
「え、オレンジ?私も買ったかもー!写真ある!」

ところで先日、自宅の壁を自力で漆喰で塗ることは可能なのだろうかと思い、商品がないか調べてみたところ、「漆喰うま~くヌレール」なるものを見つけ、感動した。絶対うまく塗れるだろうし、仮にうまく塗れなかったとしたら、それは私のせいだと思わざるを得ないくらい、すてきな名前だと思った。

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