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「みんなの意見」は案外正しい

イギリス人科学者フランシス・ゴールトンは、選ばれたごく少数の人間だけが社会を健全に保つのに必要な特性を持っていると信じていたので、血統に大きな関心を持っていた。世の中の人の圧倒的多数にはこうした特性が欠けていると証明するために、人生の大半を費やした人物とも言える。
ある日、見本市で雄牛の重さを当てるコンテストが行われていた。6ペンスで通し番号が刻印されたチケットを購入し、それに氏名・住所・重量の推定値を記入する。いちばん正解に近い人が景品をもらえるということになっていて、ゴールトンがやってきた頃にはすでに多くの人がエントリーしようと列をなしていた。

民主主義

彼はこのコンテストの本質が民主主義の仕組みと類似していることにすぐに気が付き、平均的な有権者(投票する人)に何ができるか知りたいと思った。というより平均的な有権者はほとんど何もできないと証明したかったと言うほうが正確だろう。

単純だが力強い真実

コンテストが終了して賞が授与されたところで、ゴールトンは主催者からチケットを借り、統計的な検証を行った(チケットは判読不能な13枚を除き、全部で787枚あった)。チケットに記載された数値を最大から最小まで順に並べ、正規分布になるか調べてみた。その後、数値を全部足し上げ、参加者全体の平均値を算出した。この数値が、そのコンテストに集まった人々の集合的な知恵(集合知)を表すことになる。

当然彼はその平均値が的外れな数値になると予測していた。なぜなら非常に優秀な人が少し、凡庸な人が少し、それに多数の愚民の判断が混ざってしまうと、結論は愚かなものになると考えたからだ。だがそれは大きな間違いだった。
予測の平均値は1197ポンドだったが、実際の重さは1198ポンドだったのである。血統の善し悪しに関係なく、「みんなの意見」(集合知)はほぼ正しかったのである。
適切な状況下では、集団はきわめて優れた知力を発揮するし、それは往々にして集団の中でいちばん優秀な個人の知力よりも優れている。優れた集団であるためには特別に優秀な個人がリーダーである必要はない。集団のメンバーの大半があまりに知識がなくても合理的でなくても、集団として賢い判断を下せる。

しかし、集団は特定の条件の下ではうまく機能するが、条件がそろわないと問題が多発する可能性を含んでいる。

集合知への三つのカギ

集合知が上手く機能するためには三つの条件がある。それは

「多様性」「独立性」「分散性」の三つ

アイデアが多様であることで、集団の知恵に新たな視点が加わり、集団の意思決定につきものの問題をなくしたり、軽減できたりする。だから多様性は必要である。そして独立性。これは個々人が周りに同調するような形では、集合知は機能しない。独立した個人はみんながすでに知っている古い情報とは違う、新しい情報を手に入れている可能性が高い。最後に分散性。これは上記の二項目の原動力であるといっても過言ではない。分散性は独立性と専門性を奨励する。それにより、問題に近い場所にいる人ほど優れたソリューションを知っているということが機能する。つまり分散性はシステム全体として視野を広げ、意見や情報の多様性を生み出すのである。

要約すると、集合的にベストな意思決定は意見の相違や異議から生まれるのであって、決して合意や妥協から生まれるものではない。また逆説的な感じもするが、集団が賢い判断をするためには、個々人ができるだけ独自に考えて、行動することも不可欠である。

集団の知恵をみつけよう

集団の知恵の働きは私たちの周囲の至るところに表れているのに見過ごされがちであり、またその働きをみても否定されがちだ。有権者、投資家、消費者、経営者など立場は色々変わっても、貴重な知識はごく少数の人々の手に(というか頭のなかに)あると信じている人ばかりだ。

それでも私たちは「専門家を追いかける」のではなく、集団に答えを求めるべきである。なぜなら集団は答えを知っているのだから。

▼まとめた本

みんなの意見は案外正しい 本

「みんなの意見」は案外正しい
ジェームズ・スロウィッキー (小高尚子=訳)



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