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マイク・デイヴィス「マルクス 古き神々と新しき謎―失われた革命の理論を求めて」を読む

マイク・ディヴィスの本はこれで4冊目だ。「要塞都市LA」、「自動車爆弾の歴史」、「スラムの惑星」振り返るとどれも世界観を根底から覆すような視点から腹をえぐるようなパンチを浴びせられるような読書体験をさせてくれるものばかりでありました。

久々に出た新刊なので内容を知らないまま手にしてみました。教職をおりて長く病んでいたようなことを言っていてどんな状況なのか気になるところだけれども、それ以上のことは一切語らず猛烈な勢いでまくし立ててくるスタイルは健在でした。

怒涛のように長いセンテンスを暴走機関車みたいにぶつけてくる訳なのだけど、これが本書は難しい。一段と難しい。著者は長い闘病生活で有り余った時間を使っておそらくは誰もちゃんと読んでない「マルクス」の本やその研究著書を読み漁り、その結果をこの本に著していると言っている。

これがなかなか頭に入ってこない最大の理由は読者である僕自身、「マルクス」を読んだこともなければ、マルクス主義も、その哲学も共産主義の歴史もまるで理解できていないからだろうと思う。

深く考えるまでもなく、日本の学校教育のカリキュラムからそれらは完全に抜け落ちていると思う。大学などで専攻でもしない限りこうした分野に精通する機会はないのではないだろうか。趣味でへんてこな分野の本を読み漁っている僕ですらこうした分野は、なんというのだろうか日本ではややタブー視されているとまでは言わないまでもネガティブなイメージがあるのは間違いないだろう。

それは米ソ間の長い冷戦時代があり、赤軍派による事件があったりして、自分の信条が「共産主義」だなんておいそれと言えないような時代に育ったからということもあるだろう。

しかし、議会制民主主義が激しく棄損し、自由市場経済主義が不幸を量産し、格差を拡大し、夥しい貧困層と環境破壊を生み出している現状を見る、そしてソ連も中国も今の姿を見るに、本来の共産主義・社会主義は解決策とは言わないまでも僕らに残された選択肢ではあるように見えるし、そう言える時代になってきたのではないかと思ったりする。

しかし、そうは言いつつも「共産主義」にどれほどの理解があるのかと問えば以前と変わらないまま無知な自分がいる訳なのだけど。


目次
序――〈チキン・シャック〉のマルクス
 マルクスを読め!
 全集サーフィンをおこなう
 章立て

第一章 古き神々、新しき謎――革命的主体についての覚え書き
 普遍的階級
 階級戦争の時代
 命題

第二章 マルクスの失われた理論――一八四八年のナショナリズムの政治
 国民なきナショナリズム
 マルクスに反するマルクス
 階級とナショナリズム
 利害の計算

第三章 来るべき砂漠――クロポトキン、火星、そしてアジアの 鼓動
 シベリアの探査
 アジアと火星の乾燥
 病的科学

第四章 誰が箱舟を作るのか?
 I 知識人の悲観論
 II 想像力の楽観論

訳者あとがき

解説(宇波彰)
 一 はじめに
 二 労働運動の意義、階級の問題
 三 国家の問題
 四 気象変動の問題
 五 地球温暖化の問題
 六 おわりに

著者はマルクスの言動やその著書、そしてマルクスを研究してきた研究家たちの論文を引き合いに出しながら、その核心的テーマであった階級闘争の歴史を改めて再構成しているように読める。それは決して世界史ではないし、共産圏の歴史でもない、世界に広がる労働者と資本家たちとの間の闘争の歴史であった。

その闘争は同時多発的で同時並行的にヨーロッパの国々に暮らす鉱山労働者であったり工場労働者であったり、鉄道員や農業従事者、そして兵隊などが結束して体制と戦ってきた歴史で、従来僕らが知っている世界史観とは全く噛み合わない世界観でありました。この新しい世界観を踏まえて世界史を捉えなおそうとしても、それは更に難しい。

はっきり言えることは、これまでの世界史は国を主体として国際関係を語ることで都合よく、共産主義、労使闘争の世界的な広がりと、そこで進められた暴力と支配の歴史を包み隠してきていたということなのではないだろうか。

僕らは共産主義に対するネガティブイメージを植え付けられて、その裏側にある資本・国家サイドに都合の悪い歴史から意図的に遠ざけられていたのではないかとすら思う。

本書が後半で気候変動・気候危機を前に改めてこうした歴史を踏まえつつ、将来を暗示する方向へとシフトチェンジしていることもその表れだと思う。

我々の社会はこれから、夥しい数で今後当面更にその数を増やす勢いにある非正規労働者や貧困層、人として数えられることもない紛争地域やその周辺に暮らす難民の人々を含めて互いに手を取り合い、環境破壊を押しとどめて、地球温暖化を逆進させて幸せに暮らしていける世の中にするにはどのような手段が取り得るのか。

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