あるがまま、ありのままに

いつからだと思う?人をきちんと愛せなくなったのは。
いつからだと思う?人と目を見て話すのを怖いと感じたのは。
いつからだと思う?人との距離感が掴めなくなったのは。

本当の自分を押し殺す。素直になんてなれるわけがない。虚像と虚勢の自分で走りぬけてきた、いつだって。本当の自分?そんなのいたっけ?頭の中で自問自答を繰り返す。

"服は自分の着たいものを着ればいいんだよ。人の目なんて気にせず思いっきりお洒落を楽しもう!" SNSでアーティストが超個性的な服を身にまとった写真を付けてこんな発言してた。何言ってんの。そんなことして親にも彼氏にも友達にも変な目で見られたらどうするの。私、そんなの嫌なのよ。何かを言われて、傷ついて、自己嫌悪して、ってそんな気持ちになるくらいなら、本当の自分なんて押し殺してしまえばいい。

洋服は私の鎧で、人にどう見られるかが一番大事なの。って思いながらショップに並ぶ今年の流行の洋服を店員さんにおすすめされて鏡にあててみる。

でも本当は、本当の本当はさ、あっちにあるお店の少し個性的な服が好き。誰にもそんなこと言ったことないんだけれど。あのSNSのアーティストの洋服だってすごくかわいいと思った。けど私のイメージじゃないし、きっと彼もこっちの方が好きだって言ってくれるから。

傷付きたくない。馬鹿にされたくない。よく見られたい。そんな風に考えてたら「わたし」はとうの昔にどこか遠くにさようならした。今更取り戻すことなんて不可能なの。

自信ありげに見えるでしょ、私。
見せかけるのだけは得意なの。
本当は臆病で人が苦手で、自信なんてこれっぽっちもないんだけどね。
見せかけるのだけは得意なの。

いつからだろうね。人に嫌われたくないと思ったのは。
いつからだろうね。本音を隠すようになったのは。
いつからだろうね。作り笑いが上手くなったのは。

あぁ、なんだか少し疲れてるのかもしれない。

少しだけ眠ろうか。

目が覚めたら世界が変わっていたらいいのに。
「わたし」が帰ってきても居心地の良い世界に。暖かな優しさが溢れる世界に。虚像も虚勢もなにもかも捨て去ってしまいたい。

あるがままで。

そんな生き方、来世でもできるかわからないけど。来世がもしもあるならば、神様どうか、あそこのお店の少し、いやだいぶ個性が強めな服を死ぬまで着続けていたいです。神様どうか、人に嫌われてもいいと思えるほどに自分自身を愛せる人間になりたいです。神様どうか、お願いごとを聞いてくれますか。私、自分に嘘ばかりついているけど本当は嘘なんてつきたくないんです。なんて、こんな嘘つきな人間の願い事なんて聞いてくれるわけ、ないよなあ。

目がまどろむ。眠たくなってきた。このまま眠ろう。

その時に見た夢は幼い時の自分の夢だった。

泣いたり、笑ったり、怒ったり、

「私」が「わたし」に再会した瞬間。

世界はほんの少しだけ私に、優しくなったような、気がした。



#エッセイ #ショートストーリー #小説




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