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「プリンセスの帰還」(切れはし小説shortscrap)

 「しっ、そのまま声を出しちゃダメよ。できたら息もしないでって言いたいところだけれど、そんなわけにはいかないから、ゆっくりと静かに呼吸をするの」

 彼女はそんなことを言って、僕の個室に入ってきた。
 深夜のネットカフェ。パソコンのディスプレイが煌々と光る一人用の個室の中に、突然に彼女は滑り込んできた。
 どういうこと、いったい君は誰なんだ。そう言おうとした口を、ぐいっと手で塞がれて、何かを訴えるような彼女の目に僕は圧倒されてしまった。

 怖かったのではない。ただ美しかったのだ。

 誰かの走る足音が聞こえて、彼女は頭を下げた。
 上から覗かれたら見つかってしまうかもしれない。僕は咄嗟に膝のブランケットを彼女の上からかけた。足音が通り過ぎると、彼女はちょこんと顔を覗かせて、
「助かったわ、あなたなかなか機転が利くのね」
と言った。
 褒められても嬉しくなんかない。意味が分からないし、君は一体誰なんだ。僕が小声でそう言うと、彼女は少し頬を膨らませて、
機転は利いても野暮なことは聞いちゃダメよ、と目を輝かせた。

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