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4つの投資先プロジェクトがトークン上場した経験から考察するWeb3 / Crypto投資

はじめに

 Skyland Ventures のよんくろうです。Web3 / クリプト投資チームのリードをしています。Skyland Ventures は、2024年上半期は、この領域の10のプロジェクトに投資しました。また、前年からの投資を含め、4つのプロジェクトのトークン上場をしました。上場時、TaikoとMerlinChainの2プロジェクトはFDV(完全希薄化後時価総額)でユニコーン(10億ドル以上)の評価額となりました。
 この記事は、私たちが日本を拠点としたVCとして投資した Web3 / クリプトのプロジェクトのトークン上場を経験を元に得た、投資にまつわる基礎知識や考察をまとめます。私たちと言いましたが、この記事は私の見解です。 
 最後に、今後の投資戦略も書きました。知見者は、2-3の基礎知識は飛ばしてください。
 IVS 2024に参加してますので、Web3、クリプトVCに興味がある方(起業家、投資家)は、ぜひツイッターからご連絡ください。このテーマで議論ができると幸いです。


1.上場プロジェクトの紹介と投資時エピソード

Taiko(ETH L2 / インフラ)

 Taikoは、ゼロ知識証明という技術を活用したZK-Rollup のLayer 2 (L2)です。L2は長い間、ETHメインネットのスケーリングソリューションとして注目と期待を集めてきた領域です。
 L2キットがある現在は、たくさんのL2が出現してきていますが、Taikoは、自社で独自に開発し、ETHのメインネットと最もシンクロ性が高いType1 zkEVMとして開発を進め、現在はマルチプルーフという多様なロールアップにも対応したスペックを実現しています。
 私たちは、2023年初めに、ベアマーケットの悲観的なムード漂う中、投資をしました。当時は、L2って本当に実現するのか?というような議論が連日社内でなされていました。そしてTaikoは、長いテストネット期間を経て、メインネット公開と同時にトークン上場をしました。メインネットのエコシステムの発展はこれから拡張されていきます。

  • 上場時期: 2024年6月

  • 上場時FDV: 31億ドル

MerlinChain(BTC L2 / インフラ)

 MerlinChainは、Bitcoin Layer 2ソリューションとして設計されたプロジェクトです。投資実行時は、BTC上のメタバースエコシステムであるBitMapに焦点を当てていました。そしてエコシステムの一部にL2の構想があり、長めのロードマップという印象でした。しかし、投資のリリースを出すときにはL2をローンチし、瞬く間にTVLを集めていったプロジェクトです。
 創設者のジェフは常に働いている起業家で、プロジェクト進捗の実行、イベント登壇をこなしながら、1日2回のAMAをほぼ毎日実施するハードワーカーでした。そしてそれは今も変わりません。 7/4 11:00から、IVS Web3ブースで登壇するそうです。

  • 上場時期: 2024年4月

  • 上場時FDV: 35億ドル

AarkDigital(PerpetualDEX / DeFi App) 

 Aarkは、Arbitrum上のPerpDEX(永久先物デリバティブ取引所)として、最大1000倍のレバレッジを提供するプロジェクトです。ユーザーは高いレバレッジを活用し、大きな取引サイズでトレードを行うことができます。また、LP(流動性供給)については、1種のトークンのみ(2種が主流)で流動性供給者になることができ、ユーザー体験が簡易的です。そして、LSTをはじめとするトレンドのトークンのデポジットにも対応。ビジネスモデルは、取引手数料モデルのため、収益が出やすいです。
 投資当時の面談では、ファウンダーは自らもトレーダーで、プロジェクトも含めベアマーケットでいろいろな失敗を経験したと話をしてました。そして交渉がとにかく上手という印象でした。

  • 上場時期: 2024年6月

  • 上場時FDV: 9000万ドル

Aperture(Intent / Defi App / API)

 Apertureは、Intent(意図)に基づく自動化を採用したDeFiプラットフォームです。ユーザーは、具体的な目標を設定し、その達成に向けた最適なトランザクションを実行するためのIntentsを活用できます。またAIを用いて、自然言語によるオーダーの実現も目指しています。これらにより、複雑なDeFi操作を簡素化し、より効率的な取引を実現します​​​​​​​​​​。
 上場時は、自然言語によるオーダーはまだ実現できておらず、ソルバーネットワークと呼ばれる、最適なオーダーを提供する分散型のネットワークを構築するためにトークンを発行しました。直近もアップデートは続いており、$APTR ステーキングができるプールが公開されています。

  • 上場時期: 2024年5月

  • 上場時FDV: 7000万ドル

2.FDVとかロックアップとか(基礎知識①)

 FDVとは完全希薄化後時価総額、つまりロックアップを考慮しない時価総額です。ロックアップを考慮したものは、単に時価総額と呼ばれます。投資時はFDVで投資するので、基本的にFDV同士で比較しています。プライベートラウンド(上場前)の投資はロックアップがあるので、含み損益状態です。
 ロックアップについても説明しましょう。例えば投資契約の中に

Vesting schedule
TGE 10% unlock 、  6 months cliff、18 months linear

というような記載があったとします。
 これは、TGE(トークン生成イベント)時に10%のトークンがトックアップを解除され、6ヶ月間は解除なし、その後18ヶ月かけて残りの90%を均等に解除していく、という意味です。実際には月に1回 5%ずつ解除されていく、という意味になります。
 つまり、全てのトークンが解除されるまで2年が必要となるロックアップです。もちろん、これより長い契約もあります。
 TGEまでの投資ラウンドを一般的にプライベートラウンドと呼びます。そしてTGE後は、パプリックとかセカンダリーと呼んでいます。
 また、TGEと上場は別のものですが、基本的にはセットで行われます。なぜなら、ロックアップのスケジュールはTGEを起点にしているからです。TGEから時間が経てば経つほど、トークンの売り圧が解放されていくとも言えます。

3.エアドロップ(基礎知識②)

 トークン上場周辺のイベントで、もう一つ無視できないものがエアドロップです。日本ではエアドロと呼ばれています。TGEまでにプロダクトを使ったり、PRをしたりすることで貢献し、その内容に応じてトークンが付与されます。
 このエアドロ用のトークンも、トークンアロケーションの分配計画に組み込まれています。コミュニティアと称したり、ダイレクトにエアドロップと書いているプロジェクトもあります。(TAIKO図参照)
 一撃ミリドロと呼ばれて、トークンの大量獲得を表現することもあります。円安によって100万円に届きやくなり、ミリドロ連発というお祭り騒ぎになることもありました。ですが、今はエアドロがコモディティ化した(みんなが参加する)ため、新たな課題を生み出しており、VC(プライベートラウンド)投資と直接関係ない、とも言えなくなってきています。(考察でまとめてます)

トークンアロケーション

4.上場プロジェクトの現在の価格

 TGE前後の動きを整理したところで、上場したプロジェクトの話に戻ります。上場から1-2ヶ月経ち、現在のFDVを比較しながら見ていきます。結論からいうと、どのプロジェクトも上場時からするとFDVは下がっています。つまりロックアップのあるプライベート投資家としては、上場したにもかかわらず、まだ楽観できない状況が続くというわけです。

上場時のFDV: 31億ドル / 現在のFDV 24億ドル
上場時のFDV: 35億ドル / 現在のFDV 5.9億ドル
上場時のFDV: 9000万ドル / 現在のFDV 2400万ドル
上場時のFDV: 7000万ドル / 現在のFDV 5600万ドル

 実は、この4つのプロジェクトに限らず、現在、上場した多くのプロジェクトが同様に価格を下げていっています。2024年からマーケットの雰囲気も変わり、ブルマーケット入りと捉える投資家も多いです。にもかかわらず、セカンダリー市場が盛り上がっていないのは危機的状況と言えるかもしれません。

5.なぜセカンダリー市場は危機に面しているのか

TGEとトークン上場ラッシュ

 マーケットサイクル(半減期サイクル)論の普及により、2024年には、多くのプロジェクトがTGEとトークン上場を目指しています。冬の時代に苦しんだCEX(中央集権取引所)も、書き入れ時と言わんばかりに上場を承認しています。なぜ書き入れ時かというと、上場時にはもちろん手数料が必要で、それがCEXにとって大きな収益になるからです。一説には、かなり高額と言われています。またプロジェクト側も、ベアマーケットが再び来ると仮定したら、ブルマーケットの初動で上場しておきたい、という思惑も働くと思います。
 その結果、セカンダリー市場には新規トークン銘柄が多量に現れます。結果として、各トークンの需要が分散化、希薄化し、価格上昇の圧力が低減していくと考えられます。

エアドロップサマー

 エアドロップは、本来は未完成のプロダクトを早期に、実験的に使ってくれる人たちへのインデンティブという意味合いで配られていました。そして、TGE後もコミュニティのメンバーとして、プロジェクトに関わっていくという意味合いもあります。しかし、プロジェクト側がインセンティブによって、ユーザー数やTVLを稼げるというのも事実で、上場のためのトラクションをエアドロップを使って作っていくという流れが加速しています。つまりマーケティングのベストプラクティスになってしまったというわけです。
 エアドロップユーザーの目線に立つと、地道にプロダクトを使ってエアドロップをもらった方が、セカンダリーで新規銘柄を買うよりもリスクリワードが高く、次から次へプロジェクトがエアドロップを行うので、今のトークンを売ったら、また次のプロジェクトに向かうという流れがあるように思います。ちなみに、基本的に、エアドロップにはロックアップがありません。

ミームの台頭

 セカンダリー市場では、ミームコインが盛り上がっています。ミームは、象徴的なキャラクターのコインです。ただそれだけです。ただ、ベスティングスケジュールなどがないので、流動性があれば値動きも軽く、セカンダリーのプレイヤーから好まれています。マーケットでやることがないとミームに向かうとも言われている存在でしたが、一つのジャンルとして確立されたように見えます。

ETFの存在

 ビットコインの現物ETFの承認が話題となりました。半減期サイクルの始まりだ、ブルマーケットが来る、とまで騒がれました。そしてETHやSOLのETF承認という動きも強まっています。これは既存金融からの資金(フィアット)がビットコインやイーサリアムへ大量に流れる可能性があり、クリプト市場にとっては大きなプラス材料です。しかし、新規上場するアルトコイン市場にプラスかというとそうではありません。ETFとして承認されていないトークンには関係ないし、資金がETFに集中するなら流動性が吸収されていくと見ることもできます。

6.それでも楽観している理由

1.まだブルランは始まっていない

 半減期サイクル論が普及し、もはやそこにエッジがあるのかわかりません。長年の低金利政策の結果だという意見もあります。ですが、投資については、過去の現象をもとに仮説を立てるしかないと考えています。となると、半減期サイクルは来るという仮説で動くのがセオリーです。そして、そのセオリー通りで読むと、まだブルランは始まってません。2024年10月以降、市場がブルランに突入すれば、アルトにも追い風が来る可能性は十分あります。

(画像:Blockware Solutions)

2.セカンダリーの見直し

 セカンダリーが全部ダメなのかというとそういうわけではありません。例えば、TONは10億人に迫るテレグラムユーザーを対象にしたエコシステムです。その莫大なユーザー数へリーチできるポテンシャル、カジュアルゲームやトレーディンングBOTの登場、モバイル端末の発表などを受けて、上場高値を超えてグロースしています。
 また、a16zが上場トークンのoptimism (L2)を購入したことも話題になりました。こちらはロックアップ付きで割安購入をしたとも言われています。また、DeFi領域のApeX ProtocolやPendleも、市場で割安と評価されて上場来高値を更新して大きくFDVを高めています。
 チームには投資家よりも長いロックアップが設定されることも少なくありません。セカンダリーのベスティングに立ち向かっていけるプロジェクトは今後も必ず出てくると信じています。

TON 

3.CEXゲームはいつまでも続かない

 プロジェクト側が高い費用をかけて上場しても、セカンダリーで買われないのであれば、上場する意味は薄れます。需給のリバランスが求められ、CEXはそのツケを上場基準の引き上げか、上場廃止でコントロールしていく必要があるはずです。
 また、上場するにも、エアドロップをするにも資金が必要で、それはプライベートラウンドの投資家が主な資金源です。インセンティブパワープレイで、表面的な上場を目指すプロジェクトには投資は入らなくなっていくでしょう。最近、SolanaのリキッドステーキングプロトコルのSanctumは、CEXへの上場費用をゼロと公言し注目を集めました。
 とはいえ、CEXが強いことに変わりはなく、しばらくは続きそうな流れなので、現象を捉えておくことが重要です。

7.今後の投資戦略

 個人的感想に近く、議論のきっかけにしたいと思っています。

1.大きなテーマ、技術の進化にフォーカス
 ブロックチェーンの進化論に立ち返って、大きなテーマに引き続き投資したいと考えます。処理方法や暗号学の進展によるトリレンマのリバランスされたチェーンに注目が再度集まっています。また、インフラ立ち上げコストが軽減する仕組み、具体的には、セキュリティやシーケンサーや流動性をシェアしたり、ノード運用の簡素化し分散性を高める、モジュール化によってカスタマイズされたチェーンをデプロイする仕組みなどが注目を集めてきました。ブロックチェーンの発展に必要なインフラ領域は引き続き注目しています。

2.実際に使われる
 
インセンティブマーケティングはセオリーで、エアドロ自体は肯定派です。しかし、エアドロを撒いて終わりそうなプロジェクトは難しいと思います。ユーザーから必要とされる価値のあるものを提供していること、トークンユーティリティが整っているものは、しっかり見ていきたいと思います。
 ユースケースの領域は、DeFiに寄ると思っています。それ以外の領域は、一つ大きなプロジェクトが出てからでいいと捉えています。
 すでに大量のユーザーがいるコミュニティに、トークンエコノミーを混ぜていくアプローチとしてTONには注目しています。ただし、アプリは、長期ロックアップ条件が前提では、プライベートラウンドの投資は見合わないと考えます。

3.アーリーステージ
 
バリュエーションを抑えるのは、トータルのリスクリワードに効いてくると学びました。領域を決めて、早い段階でアプローチすることがセオリーみたいです。ただし、失敗率も高くなるし、大きなプレイヤーがポジションを取ってしまったら難易度が一気に上がります。アプローチやチームの経験も重要です。

4.TGEするは甘い罠
 今年のQ3、Q4にTGEする、みたいなプロジェクトは山ほどあります。出口の状況を解説した通り、ブルであれば、上場したらある程度上手くいくという仮説は崩れてきています。TGE直前ラウンドをやるならセカンダリー買ったほうがいいという状況になることもあります。
 また、最近だとAIと数多くのプロジェクトが言っています。このように誰もが簡単に言える内容は割引して聞いた方がいいと考えています。

5.セカンダリー投資
 
セカンダリーはロックアップがないです(特殊契約を除く)。今はセカンダリーで誰も買いたがらないということは、そこにエッジがあるという見方もできると思います。上場しても未完成のプロジェクトも多いし、大口の購入事例も出てきているので、上場プロジェクトをしっかり精査して狙っていくことは興味深いです。また、プロジェクト側も、裏で営業活動をしているとも言われています。

6.カンファレンスの意義
 クリプトは世界的にみても、まだドニッチ、世界から怪しまれてすらいます。しかし、ボーダレスということに可能性があると考えています。BTCやAirDropなどの世界共通言語が増えていく現象がすごいです。カンファレンスは、世界から集結するリアルクリプトコミュニティ。そこにアクセスするのは非常に有用です。

これらのことは、3ヶ月もすれば修正が入る部分があると思います。それがクリプトの醍醐味であったりもします。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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