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ガザ問題の三つの不満 - ①欧州知識界の不全、②アラブ諸国の等閑と不作為、③ハマスの発信力の虚弱

12/20 の夜、NHKのクローズアップ現代に国谷さんが出演してガザの問題を語っていた。相変わらず昔のままのベリーショート。新自由主義格差社会のアッパークラスの俗なリアルを感じさせない、メスや糸を入れてのスペントマネーモデルな美的改造とメンテナンスを図らない、知性と内面が媒介する自然な美しさ。その姿と言葉が醸し出す神々しい説得力。見る者の心を捉えて離さない。尊敬する憧れの日本女性。安倍派も解体という政治情勢らしいから、キャスターとしてNHKの報道番組に復活していただきたい。帰還と凱旋を果たしてもらいたいと思う。国谷さんの英語のインタビューを聴きたい。国谷さんの国際政治の現場報道の絵を見たい。それこそが放送受信料の対価たる価値だ。国谷さんのガザについての言葉はよかった。納得できる内容だった。

ガザについての今回の稿では、私の中にある正直な不満を述べたい。不審と不具合と言うか、思うようにならない歯痒い欠如の現実を論じたい。三点ほどある。第一点は、沈黙してイスラエルに加担する欧州の学者文化人の面妖な態度である。例えば、エマニュエル・トッド。ウクライナの問題では反NATOの旗幟を鮮明にして正論を吐き、ロシア叩きで固まった大勢(体制)を批判する論陣を張った。われわれの期待に応える奮闘を演じてくれたが、ガザについては慎重に控えている。日本市場で売れっ子で稼ぎまくっているマルクス・ガブリエルも無言。ピケティも三猿だなと思っていたら、イスラエルとパレスチナの「連邦構想」などという駄文を発していた。誰が見てもナンセンスで政治音痴な愚論そのものだが、二国家共存を否定したいらしい。イスラエル寄りの立場が露骨で論外と言うしかない。

欧州の知識世界からイスラエル批判の言説が出ない。気を吐いているのはグレタ・トゥーンベリだけで、大人の著名学者方面から意見が出ない。世界に影響を与える分析や考察が発せられず、マスコミに紹介されず、世界の世論の羅針盤となる左派の知性が出ない。意外であり、異常な現象だ。欧州のリベラル左派文化人は、ハマスをテロ組織だと定義し、イスラエルに心情的に味方しているように見える。岡真理的な認識と主張を共有する知識人がいない。正論を唱えることで「反ユダヤ主義者」のレッテルを貼られて袋叩きされる「舌禍」を恐れ、口にチャックの保身に徹しているのだろうか。ガザの問題に対するEUの非人道的開き直りの方針固持は許せないが、欧州の左派リベラルの文化人も、少なからず政府と同じ思想体質に窺える。ウクライナ問題で全体を覆った反動傾向が被っているのだろうか。

第二点目の不満と言うか不可解は、近隣アラブ諸国の等閑の姿勢である。全く理解できない。イランとトルコは、そしてマレーシアは、それなりの反応を示して「イスラムの大義」の所在を世界に示した。「イスラムの大義」はありそうだ。だが、それは、客観的には「微弱なる電流」の程度に過ぎない。「微弱なる電流」さえ消え失せたのが「アラブの大義」である。「アラブの大義」は寸毫も感知できず、鼻白む気分にさせられる。エジプト、ヨルダン、イラク、サウジ、クウェート、バーレーン、UAE。何をやっているのか。ガザのパレスチナ人は人口の1%以上が残酷に殺戮された。わずか2か月半で2万7000人虐殺された。子どもと女性が7割。その惨劇を目の前で見ながら、アラブ諸国は何もしない。同胞であるガザの民衆を救う動きを起こさない。イスラエルの暴力を止める行動に出ない。

昨日(12/24)、TBSの報道番組に出演したピースボートの畠山澄子が、駐日パレスチナ大使の記者会見での発言 ー「今日のガザの事態については、長年イスラエルの占領と封鎖と暴力を放置し黙認してきた国際社会にも責任があり、その中には日本も含まれる」 ー を紹介し、大使の顔を見ることができなかったとコメントした。駐日パレスチナ大使の言うとおりだ。私も大使の前で顔を上げられない。だが、その言葉は、近隣の同じ民族の国々であり同じスンニー派の国々であるアラブ諸国に対しては、どう発され、どのように受け止められてきたのだろう。いま現在はどうなのか。その問いは私の中にある。憤りでぐつぐつ煮られた謎としてある。根本的な不信感としてある。無論、パレスチナを責めているわけではない。批判の矛先にあるのは親米親イスラエルに堕したアラブ諸国だ。特に金満のサウジと湾岸諸国だ。

この素朴な疑問は、ブログでずっと言ってきた。湾岸諸国の国々、サウジやクウェートやバーレーンやUAEは、今や世界で繁栄の象徴のような存在である。ドバイやアブダビやドーハの都市景観は、まさに資本主義の富の集積の極点を眩しく示している。UAEの一人当たり国民所得は日本よりも3割多い。それは最近のことである。中国を筆頭とするところの新興国の経済発展があり、原油及び天然ガスの需要増大と価格高騰があり、その恩恵を蒙って産油国の湾岸諸国は急速に豊かになった。過剰とも言える豊かさを得た。UAEには個人に納税義務はなく所得税はない。サウジにも所得税はない。UAEは教育が無償で、大学も国立は無償だ。病院も国立は無償。サウジも自国民は教育と医療が無償。そういう潤った国である。原油収入で豊かさを満喫している。なぜ、そのお金の一部をパレスチナ解放に使えないのか。

伊勢崎賢治は、「パレスチナは、世界中のムスリムの心を一つにするCause(大義)だ」と述べた。この指摘は当たっていると思うし、私がこれまで見てきた世界政治の実相と動態は確かにそうだった。国谷さんもこの認識に沿った見方をしていて、国際社会がパレスチナ問題を無視し忘却した過誤への反省を説いている。だが、それなら、急速に豊かになった湾岸諸国にとってのパレスチナ問題はどういう位置づけだったのか。「イスラムの大義」の核心であるはずのパレスチナ解放は、彼らにおいてどのように課題化され政策化されたのか。湾岸諸国の都市景観がゴージャスにバブリーに変貌したのは、21世紀に入ってからの出来事だ。その間に何があったかと言うと、2004年にアラファトが毒殺され、2011年にカダフィが暗殺された。「アラブの大義」を訴求するシンボリックなキャラクターが消された。

アラブの中の反イスラエル強硬派が消え、反米姿勢が後退する経路と、湾岸諸国が新自由主義の栄華を謳歌する次第とは、パラレルな軌道を描いて進行した。それは、アラブ諸国から「イスラムの大義」が希釈化される過程であり、パレスチナ解放の命題を捨てて忘れる現代史でもあった。日本人が憲法9条を捨てて忘れるように、アラブ諸国は志操と使命を捨てて行った。そう見える。遠いマレーシアは未だ覚えているのに、隣のアラブ民族の国々がその大義を忘却した。私は、ガザ救援とパレスチナ解放のために、グローバルサウスは団結しないといけないと思う。十代の少年のように純朴にそう希う。だけども、その団結の中軸を構成するべきは、民族がアラブ系で宗派がスンニーの、近隣の生粋の同胞諸国のはずだ。どうして、民族や宗派が異なるイランやマレーシアに、彼らはその責務を負わせて平然としているのだろう。

第三点目の不満というか不具合感は、ハマスの情報発信についてである。言葉が弱い。ハマスの報道官なる者の映像がニュースに出る。発言と表情に説得力が乏しく、知性の面での不足と不安を感じる。世界の注目が最も集まるキーパースンで、一言一言に国際政治の帰趨がかかり、ガザのパレスチナ人の命運がかかっている人間だ。その一言一句は、暴虐の地獄の中で耐え怯えるガザの民衆を励まし、勇気と希望を与えるものでなくてはいけないし、パレスチナ(ハマス)の抵抗を世界に向けてエバンジェリズムするものでなくてはいけない。ガザを応援する国際社会の左派系に、信頼感と確信を与え、理論武装を助け、イスラエルとアメリカに対して抗議のモメンタムを上げる方向に導くものでなくてはいけない。そうした能力を持った発信者がメディアに登壇しないといけない。ガザ市民を代表し、世界の支持が集まる者でなくてはいけない。

サイードの生まれ変わりが活躍する奇跡が起きて欲しい。女性(国谷さんのようなカリスマを備えた)ならなおいい。だが、残念ながらそうなっていない。もし改善が可能なら、ハマスは対策の手を打つべきである。関連して、四番目の不満を上げるとすれば、不活性な日本の論壇の問題がある。もっと率直に具体的に言おう。私は、10/25に『岡真理はXで発信を』というタイトルの記事を上げた。10月以降に投稿した中で最も多く読まれている。日本でガザ支援の世論を高め、イスラエルへの非難を大きくするには、何が政治的に有効な選択と行動かを案じ、これがベストだと考えて提議した。残念ながら、岡真理のXアカウントは未だ出現していない。開設され配信されていれば、この問題についての国内の標準ポータルとして機能していただろう。相当数のフォロワーを集め、マスコミに注目され、テレビに出演する機会があったはずだ。

今よりも世論を動かすことに成功したのではと想像する。提案が本人の目に入ったかは確認できない。やはり、政治運動には中心に理論的リーダーの存在が要る。言葉で衆を集め衆を動かす指導者の力が欠かせない。襲撃事件から2か月半経ったが、日本でその適任となる配役は岡真理だと思う。


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