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ガザ侵攻を既成事実化する日本のマスコミ報道 - 世界の世論はイスラエル批判と侵攻抑止へ

日本時間16日、未だガザへの地上侵攻は始まっていない。ハマスの奇襲から9日が経ったが、イスラエル地上軍のガザ本格侵攻は開始されていない。14日、イランの外相が国連特使と会談し「イスラエルがガザへの地上侵攻を実行に移せば介入せざるを得ない」と警告を発した。それを受けての措置と思われるが、米軍は2隻目の空母と空母打撃群の東地中海派遣を決め、14日のうちに即座に声明を発表した。イランヒズボラの動きへの対処が目的だとプレスに書かせている。イランがここまで踏み切んだカードを切るのは初めてだ。強気の外交攻勢に出てイスラエルに圧力をかけている。かく啖呵を切った以上、仮にガザ侵攻が始まったとき何も軍事的に手を出さなければ、イランは中東世界で立場を失墜させイスラム民衆の支持を失う。(写真は Financial Times)

おそらく、ヒズボラとイラクのシーア派準軍事組織による介入が布石されているのだろう。ヒズボラが参戦して本格衝突した場合、イスラエル北部に第二戦線ができる展開となる。戦闘の規模は大きく、両軍に相当な犠牲者数が出るに違いない。米軍機がイラン領内に侵入して空爆を敢行する場面も出ておかしくない。老バイデンは決断に迷っていて、ガザ侵攻のアプルーバルを要求するネタニヤフの催促に対して、可とも不可とも返事できないまま立往生して時間を流していると思われる。17日に臨時のEU首脳会議開催される。この席で、一部の首脳からガザ侵攻に反対する声が上がる可能性があり、会議全体の空気として、ガザ侵攻を回避するようイスラエルに示唆する流れになるだろう。17日のEU首脳会議を過ごせば、イスラエルは外交的にガザ侵攻がヨリやりにくい環境になる。

EUは、ウクライナ戦争から関心が散る事態を恐れていて、ウクライナ支援疲れが欧米社会で支配的になる情勢を強く懸念している。なので、ガザ侵攻の大流血は迷惑だし、中東でのイラン・イスラエル戦争の勃発は悪夢だろう。バイデンからすれば、17日のEU首脳会議でイスラエルに侵攻を止める圧力がかかれば、その流れに消極的に乗る(馬なりの)進路が開ける。つまり、侵攻ゴーサインは出さなくて済む趨勢になる。もし仮に、ネタニヤフが、EUの制止も聞かず、バイデンの了承もなしに、ガザ侵攻に突入すれば、イスラエルは孤立し、世界からの支持を失う。西側メディアもイスラエルを叩き始める。同時に、アメリカもこの問題を制御不能になり、ウクライナ情勢を含めて世界政治を主導・統制する地位を失ってしまう。イスラエルは二正面作戦を始め、アメリカもイランとの戦争に引き摺られる。

NHKを筆頭に日本のマスコミは、ガザ侵攻必至だと毎日毎日言い、イスラエルの言い分を正当な情報として刷り込み、ガザ侵攻を既成事実化する報道ばかり流している。御用学者の田中浩一郎を出演させ、その「解説」を「中立」のように演出し、イスラエルのガザ侵攻を正当化して、待ったなしだと当然視させ、必然の行動だと断定して視聴者を洗脳している。NHKを含めたテレビ報道は、ロンドンやパリの週末の大規模デモを正しく伝えない。パレスチナに連帯し、ガザ救援を訴え、イスラエルを糾弾する巨大デモの映像を隠して見せない。逆に、イスラエル支持のデモを見せ、エマニュエルが渋谷で「説教」する面妖な絵を見せている。日本のマスコミは、記者をイスラエルに送り、イスラエルの立場と文脈で問題を説明し、ハマスを悪魔視一色に決めつけ、ガザの民衆の側から真実を伝えるジャーナリズムを一切しない。

現時点で、侵攻があるのかないのかは分からない。が、世界の世論は侵攻反対に傾いていて、アメリカ大統領が承認を躊躇する現状になっている。従来のイスラエルのガザ地上侵攻が、時間を置かずに突撃した経緯を鑑みると、今回の作戦は政治的な意味と影響が重大で、イスラエルの軍と政府と国内世論だけで簡単に攻め込めない限界が窺える。世界の政治動向が鍵になり、草の根の市民・民衆が状況を動かしている。市民・民衆の力とは、パレスチナに同情して支持する世界の一般市民の力という意味だ。その一つは、X(ツィッター)のタイムラインに登場し浮上する動画やメッセージの数々である。私の認識では - どれほど「陰謀論」呼ばわりされようが ー Xはアメリカが世界を支配するための情報基盤装置であり、CIAが世界を操縦する道具のシステムである。実際、ウクライナ戦争ではその性格が色濃く反映された。

その真実が実感された。今回のガザの戦争でも、イスラエルに都合の悪いポストは次々と(フェイクだの発信者がテロリストだのの理由づけで)消されている。だが、消されても消されても、イスラエルに不利な情報が投稿され、閲覧され、拡散され、アルゴリズムの処理溝をくぐって立ち上がってくる。英語で単純検索する私の前に現れる。イスラエル軍の暴虐と残忍を伝える過去動画や、圧倒的な数のロンドンやパリのデモの群衆の動画が、タイムラインに絶え間なくせり上がってくる。今回の政治を動かしている市民・民衆の力の二つ目は、その欧米大都市でパレスチナ国旗を持ってデモする人々の熱気とパワーだ。20年前のイラク戦争のときも、巨大な反対デモが世界中で起き、ネットで目撃して勇気づけられたが、当時と比較して感じるのは、欧米諸都市で若い中東イスラム系の人々が増加している事実である。彼らが実にエネルギッシュだ。

「アラブの春」の後、リビアの指導者が殺されて国家が破壊され、エジプトの親米軍事クーデターで民主化運動が弾圧され、シリアで内戦が仕掛けられて国家が廃墟化された後、大量のイスラムの人々が欧州と北米に渡った。生きる場を求めて海を越え、移住者となって異郷で棲み暮らし、欧米諸国がいま悩む移住問題の原因となった。その人たちの、特に若年層が、今回の大規模デモの主力になっている。フランスや英国やドイツでは、今回、政府が親パレスチナのデモを禁止したという報道になっている。だが、ロンドンやパリでは巨大デモが開催されていて、市民・民衆がそのような通達を無視している事情が分かる。そもそも、それら先進国では憲法で言論・表現の自由が保障されていて、彼らがデモをやらなかったら何をやるのかと訝るほど政治的抗議の伝統が根付いた社会だ。言論・表現の自由のお手本の国々で、パレスチナ支持デモを禁止とは何事なのだろうと首を傾げる。

中東イスラムの民衆、そこから移住して欧米の市民になった人々、彼らの、アメリカとイスラエルが支配する世界の秩序を変えたいという願望と意思と熱情は、20年前のイラク戦争のときや、12年前の「アラブの春」のときを超えて、さらに強固で鴻大になっている。嘗て「アラブの大義」と呼ばれていた政治シンボルは、今は「イスラムの大義」へと変化を遂げ、欧米に定住するイスラム教徒のコミットを力として、グローバルな性格に変わっている。「アラブの大義」の範疇にはトルコとイランは含まれてなかった。だが「イスラムの大義」を奉じる政治には、イランとトルコが重要なアクターとして位置している。むしろ、エジプトやサウジよりもパレスチナの保護のために積極的に動いていて、中東イスラムの民衆全体からの期待を集めている。だからこそ、サウジはイスラエルとの国交交渉を中止せざるを得なかった。

もし、北部で第二戦線の激しい戦闘となった場合、想定されるのは、ヨルダンの政情が不安定化する進行だ。日本国外務省の発表では、10日夜に1万人を超えるパレスチナ支持デモが発生している。14日も同じ規模のデモが続いていて、ガザ侵攻・第二戦線の最悪の事態となった場合は、もはや小国ヨルダン政府には収拾できない混乱の局面になるだろう。動揺はエジプトにも波及するはずで、「アラブの春」時に挫折した市民革命が、「イスラムの大義」の発揚と共に復活する図が予想されなくもない。ムスリム同胞団は徹底的に粛清され壊滅させられたが、生き残りは息を潜めて時勢の到来を待っているはずだ。ヨルダン、エジプト、そして湾岸諸国とサウジ。波が起こればこの順番となり、「アラブの春」と同じ運動生理となる。民衆は政府に「パレスチナ救援」を求める。12年前と比べてアメリカの影響力は確実に弱まっている。

以上、10/16 時点で、①世界の潮流はイスラエル批判とガザ侵攻抑止に流れていること、②その政治を動かしている主力として欧米諸都市に移民定住したイスラム系市民の存在と活躍が大きいこと、③今回の危機を契機に新次元の「アラブの春」が「イスラムの大義」を伴った形態で胎動する可能性があること、を考察した。


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