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8月5日 令和のバブル崩壊 - 東証史上最高値から3週間で史上最大幅の暴落

8/5、東証が史上最大となる4451円安の暴落となった。令和のバブル崩壊の歴史的瞬間と言える。一昨日(8/5)はこの話題で朝からネットが騒然とし、興奮してXでポストを連打するまま一日が過ぎた。先週(7/31)、日銀が政策決定会合を開いて政策金利を0.25%まで引き上げ、今後も引き上げ続ける方針を発表した。長らく待たれた出口戦略への舵取りであり、金融政策の路線の転換である。これを受け、7/31 に1ドル152円だった為替が 8/2 には149円となり、為替の変動・是正が株価に影響し、8/1は975円安、8/2は1987年のブラックマンデーに次ぐ過去2番目の2216円安の下落を導いた。また、日本時間 8/2 夜に発表された米雇用統計の数字が悪く、景気減速への懸念が広がり、8/2 のダウが610ドル安となっていた。この前提で週明け 8/5 を迎え、誰もが固唾をのんで東証を見守った。

寄り付きから2500円安の大幅下落の展開となり、TOPIXのサーキットブレーカーが発動、各銘柄が次々とストップ安となる速報がXで連呼され、三井住友FGがストップ安となる衝撃の事態が起きて午前中取引を終えた。午後も下げ幅が膨らみ、阿鼻叫喚という言葉がXのトレンド欄に踊り、「追証」という業界用語が話題の主役になって喧噪が続く中、史上最大の4451円安、終値3万1458円で取引を終了する。8/1 の始値が3万8781円なので、3日間で7323円、すなわち2割弱下げた。3万1458円という株価は、昨年 11/1 以来の安値であり、1/4 の年初終値3万3288円を大きく下回っている。新NISAの買い付け額が半年で10兆円になったと、岸田文雄が 8/2 に豪語したが、その日本株投資分が全部吹っ飛んだ勘定になる。新NISAの口座を新規開設する客足は止まるのではないか。

8/5 午前、ストップ安が続いて大騒ぎになっていた頃、NRIの木内登英がレポートを発表した。今回の事態を「『円安・株高バブル』の崩壊過程と考えられる」と分析、今後の株価について2万6000円-2万8000円が下限の目途となると予想を示している。8/5 の2日前、8/3 の時点で私的にChatGPT に株価予想を尋ねると、中立的シナリオとして、2万5000円-2万6000円の範囲内となると回答が返って来た。楽観的シナリオだと、2万7000円-2万8000円となるそうだ。木内登英の予測があまりにChatGPT が示した数字に近いので、ひょっとして木内登英も ChatGPT のご託宣に接したのだろうかと意地悪な想像が浮かんだ。ChatGPT はネット上の様々な情報を解析し、無難な標準線を選んで数字を弾いていると考えられるので、業界の著名専門家の木内登英と予想が同じになるのも不思議はない。

8/5 夜の NY市場も暴落が続き、下げ幅が年初来最大の1033ドル安となった。NY株価の下落の理由について、アメリカの景気減速が説明されているが、実際にはヨリ重要な要因があり、それはインテル社の経営不振と株価暴落である。よほどクリティカルで内緒にしたいのか、やんごとなき方面から指図されているのか、日本のテレビ報道はインテルの件を一切取り上げず隠蔽に徹している。その内容は経営危機と呼んでもよいほど深刻で、①チップの不具合、②ファウンドリー事業の失敗、③データセンター事業の低迷。④対AMD製品競争力の低下、等の複合的難問を抱えて正念場を迎えている。従業員1万5000人の削減を発表、時価総額が一日で4分の3に目減りした。日経は「インテルショック」と名付けている。ダウ30銘柄の一であるインテルの蹉跌は、半導体株の下落を呼び、アメリカの景気減速の一因となっている。

インテル社は、日本で喩えればトヨタのような超花形企業で、アメリカを代表するエクセレントカンパニーであり、IT業界のテクノロジーリーダーを自認し評価されている企業である。アメリカの産業と経済の強さを証明し誇示する象徴的存在で、アメリカの自信と栄光を支える柱であり、国民から信頼と賞賛を受けている企業だ。そのインテルが苦境に陥っている。日経の「インテルショック」の見出しは、16年前の「リーマンショック」を想起させ、何か重大な気配を意識させるが、日経としてはそこまで重症という見方なのかもしれない。一方、今回の日本の株安の原因である(ドル安トレンドの)為替相場については、ChatGPTは、1ドル135円-140円になると予想を出した。慎重な見通しに窺えるが、この相場で推移した時期を検証すると、22年後半から23年前半で、株価は2万5000円ー3万円だったと確認できる。

さて、ここからは、日銀が金利引き上げに踏み出した政治を分析しよう。政局論である。衆目の一致する解説としては、いつか実行しなくてはいけない方針転換を、9月の総裁選に合わせると不具合なので、7月末の会合で決めて市場にアナウンスしたという裏読みになる。そのとおりだろう。もっと明確に言えば、9月に決まる新総裁は、その手で解散総選挙をやらないといけないが、同じ手で利上げも敢行しないといけなかった。金利引き上げへ路線転換すれば、市場(海外機関投資家・ヘッジファンド)はポジションを変えて株売りに出る。8/5 の大暴落となり、自民党支持者である株保有者から総スカンを食って叩かれる。なので、新総裁ではなく現総裁の手で利上げを行い、暴落ショックと総選挙との時間的間隔をなるべく空けようという動機と作戦が、今回の利上げの意思決定の真相だったと推察できる。植田和男は単なるロボットだ。

日銀そのものは、早くから、昨年の段階から利上げのモーションは見せていた。中央銀行の使命は物価の安定である。物価高は22年のウクライナ戦争を機に激越となり、消費者物価指数が4%を超えて推移した。主要原因は円安であり、内外金利差である。日本だけがゼロ金利を据え置き、他国はインフレ退治で金利を上げたため、金利差が開く一方で、投機筋はここぞと円売りドル買いの拍車をかけた。金利を上げると諸所でハレーションが起きるため、簡単に利上げできない日本の体質と事情を踏まえた上で、日銀を挑発する酷薄な仕手を続けた。本来、金利引き上げは1年半前に行うべきだっただろう。だが、何度会合を開いても植田和男はそれを言わず、量的緩和継続の従来方針の据え置きばかりで時間を過ごした。神聖アベノミクス路線を守り続けた。無論、それを止めていたのは自民党政権で、最終判断を決めていたのは麻生太郎だ。

アベノミクスは株価を上げる目的の経済政策であり、株価を下げる効果をもたらす政策は排除する。ということで、麻生太郎(と菅義偉は)利上げを断固拒否していたのだろうし、今後も据え置きを貫徹する決心だったのだろう。だが、選挙が近づいてきた。賃金・所得の上がらない庶民は、物価高を消費の切り下げで対処せざるを得ず、家計消費を徹底して抑えて凌ぐしかない。それからまた、自民党にとって重要な支持基盤である地方の農業・酪農の事業者は、肥料や飼料の値上げで塗炭の苦しみを味わい、経営・事業を続けられなくなって廃業に追い込まれている。農業だけでなく小生産者・小営業者はほとんど同じで、輸入品原材料の高騰に悲鳴を上げ、存続が不可能なところに追い込まれている。元凶は円安だ。ゼロ金利だ。その庶民層の厳しい現状と苦悩は、4月の島根1区補選での有権者の政治意識・政治選択として可視化された。

今年に入って、韓国、英国、フランスと議会選挙があり、三か国とも左派野党が勝利している。韓国の選挙結果はマスコミの事前予想を覆すもので、物価高・生活苦が争点の第一となった民意の反映と言える。コロナ禍後に襲ったインフレ・物価高は、持たざる弱者の民をとことん窮乏させ、逆に資本家と富裕層に富を与えて繁栄を享受させている。英国もフランスも韓国も日本も状況は同じだ。だが、弱者の民も一票の権利を持っていて、選挙になればそれを行使する。それは、韓国や島根1区のように、政権与党にとって意外なダイナミックスを現出させる。自民党幹部はそれを恐怖しているはずだ。多数弱者の経済的困窮に加えて、自民党には裏金問題が尾を引いている。来るべき総選挙で、怨嗟と鉄槌の民意が爆発してもおかしくないのだ。そこで、まず、自民党としては物価高緩和・輸入原材料費抑制のための手を打たないといけない。

日銀の政策金利を上げ、円安の進行を止め、為替相場を是正しないといけない。それをやれば株暴落になるのだけれど、いつかは日銀の出口を模索する瞬間が来るのであり、異次元の金融緩和を打ち止めにしないといけない。ということで、麻生太郎と菅義偉が最終判断したのだろう。7月末にやれば、選挙の看板となる新総裁の手を汚さずに済み、責任を岸田文雄と植田和男に擦り付けることができる。岸田文雄を人身御供の囮にすることができる。岸田文雄は喜んでその役を引き受けたのに違いない。あるいは、利上げ決断を渋る麻生太郎に対して、下野してもいいんですかと迫った可能性もある。市場(投機筋)はどこまでも円売り攻勢で日銀を追い詰める構えを崩してなかったから、秋以降も1ドル160円ー170円と超円安が進展しておかしくなかった。そうなれば、新総裁が利上げ(=株暴落)を引き受けるしかなかっただろう。

もう一つ、利上げがこのタイミングだった理由と背景があり、それはFRBに利下げの要請と意向が強く出てきた点だ。景気減速感で利下げが必要となった。日銀だけで単独で為替政策を打っても市場への実効力は弱い。為替政策を確実で有効にするためには日米で調整して方向性を合致させないといけない。両者の意向が一致しやすい環境が整い、円安容認から円安阻止への転換姿勢をメッセージした日銀の発表となった。利上げを河野太郎と茂木敏充が発言してマスコミに書かせていたのは、麻生太郎の差し金だと想像する。予告・地均しの目的もあり、二人に叩かれ役の仕事をさせ、総裁選前の「借り」にしたのだろう。この二人が日銀を動かす役者として表に出れば、裏に麻生太郎がいることは誰でも分かる。相変わらず経済政策の決定権は麻生太郎が握っているんだなと世間に周知させる、権力示威の狙いもあっただろう。

ただ、麻生太郎が最終的意思決定者だったとしても、8/5 の暴落規模は想定外で、これほど過激に底抜けに暴落するとは予想してなかったに違いない。何年もかけて「老後資産2000万円」を言って若い世代を脅し、「貯蓄から投資へ」の観念と慣行を刷り込んで誘導し、NISAの制度を立ち上げて普及させたにもかかわらず、8/5 のショックによって、新NISAへの不安と不信と疑念が社会を覆う顛末となってしまった。新NISAの利用者には若者だけでなく高齢者も多い。タンス預金を抱えていた有資産高齢者が、円安の流れやドル金利の高さや米国株の強さを見て、NISA経由でドル資産に流れた分が相当に多いはずだ。彼らは1990年のバブル崩壊の目撃者である。政府とマスコミに洗脳されて「貯蓄から投資へ」の思想を信奉する若者のように、「長く持っていれば必ず上がる」という言説を信用していない。今後、東証の下落が続けば、彼らはNISAを解約してタンス預金に戻るだろう。

3週間前の 7/11、東証が4万2224円の史上最高値をつけ、いわば令和バブルの絶頂を謳歌してから、わずか3週間のタイミングで令和のバブル崩壊を示す史上最大幅の暴落が起きた。1989年の大納会と1990年1月以降の急速な崩壊過程を思い出す。あのときは、日銀総裁・三重野康の「総量規制」が崩壊の契機となった。それを導入したのは、全国の地価・不動産が高騰しすぎて庶民がマイホームを買えない絶望的状態となったためで、その禍を改善するための政策断行だった。無論、多くの国民はそれを支持した。今回も、国民の過半数は日銀の利上げに賛成であり、世論調査の統計で証明されている。政府の政策に反対ばかりの野党も、政権与党の立場であれば、どこかで利上げを決定実行し、株暴落の責任を負わねばならなかっただろう。利上げ転換はアベノミクス(異次元の金融緩和)の止揚であり、清算への第一歩である。

経済は面白く、一晩で価値観が変わってしまう。今、最も安心安全な個人の金融資産は日銀券(一万円札)だ。日本株は下がるリスクが高い。米国株も下がるトレンドにある。ドル預金は、為替が従来と逆方向に作用するため目減りの心配がある。つい先日まではすべてが逆であり、ドル資産保有が得で、円資産保有(銀行預金・タンス預金)が損で最悪の選択だった。現状は「投資から貯蓄に」の方が損をせず安全だという構図になる。


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