マイちゃんとの別れとマッチの炎

今夜も寝る前に記録をつける

マイちゃんとの関係は1年程つづいたけど、その間にやってたことは別に特別なものじゃない。地方に住むごくごく普通のカップルらしく、ファミレス行ったり何したりセックスしたり何したり

けど、付き合い始めてから問題だったのは、高校を卒業したらどうするかだった。

僕は夢があった。と、いうよりも、多分そこでしか生きていけないとすら思うような仕事だし、その自己分析は今でも相当正確だったと思う。

その為には東京に行く必要があった。それはマイちゃんにも話していたし、彼女も地元に残るつもりはなかった。彼女はもともと単身赴任の親のせいでこっちに来ているだけだったし、地元は関西。で、卒業後はその地元の短大に通うつもりだと言った。

僕も彼女も離れることに異存はなかったし、2人ともやりたいことがあった。ただ、マイちゃんの方は半ば惰性的に地元に帰る感じだったのでチョット心配だったし、クソメンヘラオタの彼女がまともに大学に行って就職する姿がまるで想像できなかった

そんな感じだったけど、僕はなんとは無しに遠距離恋愛をするつもりでいた。マジな話ってわけじゃないし、そりゃ無理だよと思っていた。

だから高校を卒業するまで、僕はマイちゃんに別れ話の一つもしなかった。

マイちゃんもしなかった。

セックスはした。キスもした。

けど、別れ話はしなかった。

そして卒業式の翌日、マイちゃんから電話がかかってきた。僕はバイト帰りで夜道を歩いていた。電話に出ると、マイちゃんの声はいつもと違った。

「別れよう」と言われたのは、少し雑談をした後だった。

僕は歩くのを止めて黙ってしまったけど、暫くして「そうだね」と返した。

本当はわかっていた。そりゃ無理だよ遠距離なんてと思っていたし、多分マイちゃんが言わなかったら僕が言っていた。けど、僕はいつの間にか泣いていて、グズグズと鼻を鳴らしながらオエオエと噎び泣き「ゴメンね、ゴメンね」と何度も繰り返していた。

そのときは何で僕が泣いているのか分らなかった。もちろん別れがつらいのは当たり前だし、マイちゃんと本当は別れたくない自分に気が付いて泣いちゃったのかもしれない。でも、「ゴメンネ」といった説明にはならない。

で、考えた結果、結局悪いのは僕だった。こんな事になるまで、僕は彼女に別れを切り出させてしまったに過ぎないし、内心、そうなるようにどこか計算していた気すらする。だから、その後も何度も謝った。ゴメンね。ゴメンね。と、道端に座り込み、泣きじゃくりながら謝った。

マイちゃんも泣いていたと思う。電話の向こうから鼻をすする音が聞こえた気がしたけど、僕が鼻をすする音の方が大きいから良く分からない。で、とにかく言葉にならないので、なんとか息を整えようとした。いつまでも卑怯者じゃいられない。最後ぐらい、カッコ良い所見せなきゃと思った。

クソ立てよクソと呟きながら電柱に捕まってヨロヨロと立ち上がってそれでも泣いている自分の頬を一発ぶん殴ると、ようやく声らしいものが喉の奥から出てきた。

「げ、元気でね、だだだい大学頑張ってね」

クソほどダサかった。

全然恰好なんてつかない。マジで。ありえない位。

でも、電話の向こうのマイちゃんも必死に「しゅうちゃんもがんばってね!」と言って笑ってくれた。そりゃ、本当に笑ってるかは分からないし、目の前には夜の闇。しかもそいつは涙で歪んでいて、まるで僕の将来みたいにグニャグニャで真っ暗だった。

でも、電話越しだって、マイちゃんが笑ってくれたことぐらい分かる。

「それはまるで夜を灯すランプみたいに」なんてポエミーな文句を今思いついて笑っちゃう。けど、あの時マイちゃんの声が笑っていたのは間違いなくて、グニャグニャの夜道にはちゃんと彼女の笑顔が浮かんでいて、しかもそいつはランプよりも儚くて、まるでマッチの炎みたいに一瞬で消えた。

けれど、その明かりは僕の目に焼き付いて、今だって少しも消えちゃい。だから、真っ暗なこの部屋でだってこの文章を書けている。


それから僕は東京に行き、面接と試験を受けてなんとか仕事に就くことが出来た。

けど、その後のマイちゃんは一切知らない。何処で何をしているのかも全く分からないし、時々不意に心配になることもあった。

今も消息不明だし、今更あっても言うことはない。ただ元気でいてくれて、すげー普通に結婚してて、子供とかいて、パートとかしながらクソメンヘラオタを卒業していてくれればと思っているし、でなきゃ僕が浮かばれない。

で、今、僕は最後なにを言おうか迷ってる。

ポエミーなラストにふさわしいコトバを。呆れるほどポンコツな僕にふさわしいコトバを。クソメンヘラオタの笑みにふさわしいコトバを。グニャグニャで真っ暗で、にっちさっちも行かないこの人生に、おぼろげだけど確かな何かを。




『愛は世界は救わないけど、たぶん、僕とお前は救われる』


うん!間違いねぇ!

ピース!!!


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