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家族に外注したとしてもやっぱり経費にはなりません

先日、家族に給料を払っても原則的に経費にはできませんという記事を書きました。

より正確にいうと、「生計を一にする」親族への支払いの場合です。今回、この「生計を一にする」というのも重要になってきます。

そして今回は、給料というよりも、外注した(あるいは業務委託した)という場合についての取扱いについて書いていきます。あくまで個人事業主(所得税)のハナシです。結論としてはタイトルの通り、必要経費にならないのですが。

給与or外注

給与なのか外注なのかは、所得税のみならず法人税の世界でも実務上かなりよく出てくる論点でして、これについてはまあイロイロあるわけですが、ここではそのイロイロはとりあえず措いておきまして、以下のようなイメージでとらえていただければと思います。

・給与…労働契約 指揮命令下のもと仕事を「させる」・・させた報酬が給与
・外注…業務委託契約 仕事を「してもらう」・・してもらった報酬が外注

「させる」んだか「してもらう」んだかの区分は、よーく考えるとどうしても曖昧になってしまいます。「オレは従業員には仕事してもらっているんだ」と、とある社長さんが言えば、まあ確かにそうですよねとしか言えません。ともかくも、独立している感があるのが外注です。

所得税法56条再掲

居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合

「事業に従事」とありますが、これって突き詰めて言うとどういうこと、という論点が出てきます。

もっというと
・給与だったら「事業に従事」と言えるだろうけど
・外注だったら「事業に従事」とは言えないんじゃないの
という論点があります。

妻税理士事件(宮岡事件)概要

あるところに、夫は弁護士、妻は税理士という夫婦がいました。宮岡先生です。
いわゆるパワーカップルの予感がします。実際、裁判になっているのでその妻の方の収入と所得の金額は出てくる(裁判例として公表されている)のですが、まあまあの金額です。収入1千万円超の年もある。

夫の方は弁護士で、その収入と所得はちょっとよく分からなかったですが、相応にもらっていることが想像できます。

夫は税理士である妻におおよそ年間100万円くらいの報酬を支払っていました。毎年定額というわけではなく、年によって変動があるので、その年々の業務に見合った報酬ということなんだと思います。当然、妻としては税理士としてキチンと業務をしていました。

互いに独立して報酬を得ていることは疑いないです。そしてひとつ屋根のしたに住んでいるものの、食費や子供の教育費、家族旅行代ですらおよそ夫6:妻4で精算していたということで、カンペキです。

妻税理士事件(宮岡事件)論点

さあここで、そのような傍から見ても独立したこの妻への報酬が、夫の所得税の計算で必要経費に認められるか、というのが争われたのです。

(大意とすると)
・ここまですればもはや「生計を一にする」と言えないのではないか。
・給料ならともかく(真の意味で)外注だったら、独立した事業者どうしの取引だから「事業に従事」ではない。
なので、必要経費になるだろうという主張です。

世に名高いいわゆる妻税理士事件です。原告の名をとって宮岡事件とも呼ばれます。
(東京地裁平成15年7月16日、東京高裁平成16年6月9日、最高裁判所平成17年7月5日)

これより前に、先例として妻弁護士事件というのもあったのですが、妻税理士事件の方がより世の中にありそうな、汎用性のある事例です。

結論-第一審は必要経費OK 高裁、最高裁はNO 

(大意として)
第一審の東京地裁では
・(生計を一にしているかどうかはとくに判事せず)
・この必要経費と出来ない規定の趣旨は、所得の分散をすることによる租税回避の防止にあるけれど、原告の弁護士の先生にはそんな意図はないよね
として、必要経費になるとしました。これには業界沸騰です。

一方で、第二審の東京高裁は
・食費や家族旅行代を一定割合で負担しているというけれど、それこそ「生計を一にしている」ことに他ならない
・さらに、妻(親族)が独立した事業者であったとしても、法律の規定上は、そのことをもって必要経費とできるとは書いていない

ということで、やっぱり必要経費にできない、という判断をしました。

そして、最高裁もこの高裁判決を支持しました。法律の文言からして必要経費にならないと読める、と判事しました。文理解釈を貫きました。

この結論には批判も根強いですが、最高裁判例がある以上、これを覆すのは、いまのところ裁判によってするのは難しいです。立法的解決を図るほかないでしょう。

結論:タイトルに戻る

です。夫婦ともども個人事業主で、一方はWebデザイナー、一方は飲食店オーナーみたいな例は世の中数多あると思います。

夫:飲食店オーナー
妻:Webデザイナー

このとき、夫が妻にHPの作成を依頼し、その報酬として適正額を支払ったところで、夫の必要経費にはなりません(なので、妻の収入にもなりません)。なんだか釈然としない感じもしますが、最高裁判例でそうなっています。

妻税理士事件は、いまの時代、決して特殊事例ではない最高裁判例です。理屈はどうあれ、現実的に生計を一にする親族への支払いは必要経費にならないとされているので、実務的にはこれを前提にして進めていくしかありません。

本日は以上です。ご覧いただきありがとうございました。

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