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自叙伝「#車いすの暴れん坊」#9   テキヤでビジネスの基本を学ぶ

それともうひとつ話しておきたいことがある。それは暴連坊のリーダー、総長勝也のことだ。勝也はその頃、ほんまもんのテキヤ、要はヤクザ屋さんが営んでいるテキヤのアルバイトをしていた。

テキヤというものがどういうものか、高校1年のときなので、最初はよく分かっていなかった。露店でちょっと厳つい兄ちゃんがたこ焼き売ったり、鯛焼き売ったり、トウモロコシ売ったり、リンゴ飴を売ったりするのが、テキヤという商売だということ程度には知っていた。


箱崎に事務所があって、面白いアルバイトがあるからせんかと勝也に声をかけられ、俺と友達何人かでそこにアルバイトに行くことになった。行って初めて気付いたこと だが、仕切っているのは、ほんまもんのヤクザであり、それも日本最大級のヤクザ組 織が仕切っていたのだった。

志賀島や海の中道、貝塚の公園などに露店を構え、車で 店まで送ってもらい、露店をひとりで組み立てて、販売の用意をし、ひとりであげて、ひとりで売って、夕方、迎えに来るまでに片付けをする。

夏休み、冬休み、春休みと、時間の空いているときは、ひたすらそれをやった。たまには県外に付いて行ったりす ることもあった。
大きい祭りでいうと、福岡の三大まつり、放生会、山笠、どんたくなどでも店を構える。1店舗で10万円も売上が上がることもある。

高校1年のアルバイトとはいえ、その店の中では段取りや、どうやったら早く作れるか、どうやったら早くお客さんをさばけるかを自分で考えた。たくさん売上があるとほめられ認められた。これが楽しかった。

親分は白のキャデラックリンカーンに乗り、ときどき俺らバイトを連れて、飯を食 いに連れて行ってくれる。親分の好物は、ちゃんぽんライス。つまり、ちゃんぽんと 白飯だ。どこに行っても白のキャデラックで乗り付けて、ちゃんぽんと飯を注文する。

「お前ら好きなものを喰え」と言われても、親分がちゃんぽんと飯しか頼まないのに、自分らが本当は食べたいステーキとかかつ丼とかを注文するわけにもいかない。結局、いつも親分と食べに行くときは、ちゃんぽんライスになってしまう。

それでも旨かっ た。親分には小学校3年の娘がいて、仁ちゃん仁ちゃんと良く懐かれて、親分から、もちろん冗談だが、「仁、お前、俺の後を継ぐか」と言われたこともある。「いや滅相 もございません」と笑いながら断ったが、同時に背筋を冷や汗が流れるような緊張感 を味わったことも覚えている。

まあそれでもアルバイトというのは気楽なものだった。ただ中に入って見てみると、いろんなヤクザ社会の構図も見えてくる。ある組ではヤクザの息子というだけで威張 っていて、仕事もできないくせに、自分の失敗は弟分の責任にする。理不尽なわがままで弟分をいじめる。

親分はキャデラックリンカーンだが、頭はガン垂れのクラウンだったりする。結局、ヤクザ社会も親分にならなきゃ意味がない。

東映や日活の映画で、菅原文太や高倉健、小林旭という世界を見て、ある意味ヤクザの世界に憧れ、義理人情に憧れた世代であっただけに、現実を知らされて淡い期待を裏切られた。

どうせなるなら違う道でトップをとろうと静かに心を熱くした。そういう意味では、この高校生のアルバイト、このテキヤのアルバイトがビジネスを学ぶ最初のきっかけにもなったし、裏社会を知るいい機会にもなった。

テキヤの親分はよくこう言っていた。
「俺らは極道だけど、まっとうな品物を販売してまっとうに対価を得る、そういう商売をしている」

そして口癖は、
「頭がある者は頭を使え、頭のない者は身体を使え。頭も身体もない者は静かに去れ」と、ほとんど口癖のように事あるごとに話していた。

あるときこんなことがあった。放生会のときに販売されるチャンポンというガラスでできたおもちゃがある。吹くとチャンポンという音がして、中に絵が描いてある。

これに絵付けをして、テキヤで販売するのだ。ある組員がそれを任かされていたのだが、ちょうど俺たちがバイトでいるときに親分が入って来て、その組員に尋ねた。

「山本(仮名)、チャンポンはちゃんと仕上がっているか」
「はい、できていると思います」
この「できていると思います」が悪かった。親分が火が着いたように怒りだした。

「こら山本お前、できていると思いますちゃ何事じゃ。ちゃんと自分で検品せんか。そして、答えるときはできていますじゃ。お前そんなことじゃけぇ、いつまでも上に上がれんのじゃ。こら男同士の勝負や、チャカ持って来い」

背筋がぞっとするのを覚えた。でも、これが仕事に対する厳しさだと思った。でき ていると思いますではなくて、できていると答えなくてはいけなかったのだ。こうい う経験というのは、頭で分かる域を越えて、俺の身体の芯に刻まれていったものだと、今になって思うことがある。

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ユニバーサル別府


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